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ハンバーグの歴史(後編)

2016.08.30 04:39

ただ、先日も書いた通り、

エスコフィエの "Le guide culinaire" には "Beefsteak à la hambourgeoise"(ハンブルグ風ビーフステーキ)

 モンタニエの"Larousse gastronomique" には "Bifteck à la hambourgeoise"(ハンブルグ風ビフテック)とある事からもわかりますが、、ハンバーグという名前の由来は、ドイツの都市ハンブルグのことです。もともと中世の頃にハンブルグの労働者が、安い挽肉を工夫してよく食べていたことから、欧米では牛の挽肉を固めて焼いた料理を「ハンブルグ風」と呼ぶようになったそうです。もともとソーセージ好きのドイツ人なので、牛肉を挽肉にして調理するのは、ごく自然なことだったのかも知れません。


ただ、こうしたフランス料理の影響が忘れられ、


日本独自の料理と誤解されるようになったことには理由があります。  

まず、現在のフランスではBeefsteak à la hambourgeoiseという料理やbifteckという料理を見ることはまずなく、どちらも廃れてしまった料理なのです。また、今日の日本のハンバーグにはパン粉を入れるのが一般的ですが、こうした古いフランスの調理法では殆どパン粉は使われていませんし、フランスの家庭では今でも挽肉を固めて焼くことはあるようですが、日本のハンバーグのように、パン粉や卵を入れてふっくらと焼き上げることはありません。  

こうしたことから、

「パン粉や卵を入れたハンバーグは日本で生み出された独自の日本式ハンバーグ」

と思われてしまうのだと思います。


『月刊BOX』(ダイヤモンド社 1991年休刊)1986年11月号に掲載された馬場久シェフのインタビューによると、戦前の横浜ホテルニューグランドでは、初代総料理長のサリー・ワイル氏のメニューに数種のハンブルグ風ステーキがあり、レシピにはパン粉が入っていたそうです。(馬場久シェフは、ワイル氏の最愛の弟子と言われた人物)  


つまり、戦前の日本のフレンチ・レストランにはすでに、パン粉の入ったハンバーグがあったわけです。しかし、当時のニューグランドは外人向けのホテルだったので、日本人向けにアレンジしたわけではなく、単純に材料の原価を下げるためにパン粉を入れていたと思われます。

 パン粉を使うのがワイルの独創だったのかどうかはわかりませんが、ドイツの家庭では、今でもパン粉を入れることがあるようですね。まあ、実際にはパン粉というよりパン屑で、ドイツ人にとっては、そもそも野菜屑やパン屑といった余りものを有効活用した料理のようです。  


また、戦前に横浜の外人ホテルで修行し、第二代目の「天皇の料理番」となった斎藤文次郎氏は、著書『フライパン一代』の中で、ホテルなど一流どころではハンバーグにパン粉は入れない、と書いています。これらのことから、ハンバーグにパン粉を入れるか入れないかは、西洋式とか日本式と言うより、料理人の考え方次第だったということですね。


結論、パン粉を入れるのは、どちらかというと、原価的な理由と言えそうです。  


しかしながら、ルーツはフランス料理だとして、

今日これだけハンバーグを進化させた国は、日本をおいて他にない

でしょう。



そういう意味では、今日の日本のハンバーグは、日本独自のスタイルと言えます。  フランスでは廃れたハンバーグが、日本では今でも人気がある理由は、味そのものよりも、日本がもともと肉食の国ではなかったからではないかと、個人的には思います。  というのも、欧米や中国など、昔から肉料理をよく食べる国では、「ごちそう」的な肉料理となると、牛に限らず羊でも鳥でも塊の状態の料理で、挽肉料理は、家庭的というか、安っぽい料理という印象があるようですね。アメリカでも、大衆食としてのハンバーガーはメジャーですが、高級レストランのメニューにハンバーガーやハンバーグ・ステーキはありません。  


しかし日本では、長らく肉料理そのものが高価な料理というイメージがあり、挽肉料理であっても、美味しく作ればごちそうとして認識されたので、ハンバーグもずっと進化し続けたのではないかと思います。日本でも、フレンチレストランのメニューからは姿を消していますが、洋食レストランでは定番メニューとして、ハンバーグが廃れることはないでしょう。


出典 : 日本の西洋料理 http://www.maroon.dti.ne.jp/schwarze-katz/main.html