日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2020 大会参加報告
2020年12月5日(土曜)~6日(日曜)に愛知県 名城大学での開催が予定されていた日本ブドウ・ワイン学会はコロナの影響によりオンラインでの開催となりました。大学、研究所の研究者、行政機関の担当者、ワイナリーの醸造担当者などとお会いできる貴重な機会でしたので、大変残念でしたが研究発表をYou tubeで何度も視聴でき、学びの多い機会となりました。私も今日一日で情報のUPDATEを行うことができ大変効率的でした(笑)
では例年通り、私の視点で気になった発表についてサマリーを残しておきたいと思います。
有色のかさかけが甲州の果実品質やワイン特性に及ぼす影響
○渡辺晃樹 1・向山佳代1・太田佳宏 1・富田 晃 2・清道大輝3・齋藤 浩 4・後藤奈美 5(1山梨果樹試,2山梨富士・東部地域普セ,3キリンホール ディングス(株),4メルシャン(株),5(独)酒類総合研究所)
甲州へのかさかけで果汁中のフェノール化合物、 3-メルカプトヘキサノール前駆体の向上が報告されており、今回有色のかさによってワインの香気成分、官能評価にどのような影響があるか検証した。
緑色かさ区、白色かさ区、対照区で分け、果房重、果粒重、糖度、pH、総酸含量について検討した。
結果は以下の通り
・緑色かさ区では対照区に比べ強く着色が抑制された
・緑色かさ区は総酸が低くなった(7.4g.L、対照区7.9g/L)
・緑色かさは3MH含量は3.7倍、3MHA含量が2.7倍であった
・緑色かさは柑橘系の香りがたつなど、官能評価が高かった
・晩腐病の発生を軽減できる効果がある
・緑色かさは1枚当たりのコストが4~8円かかる
(私見)コストと手間がかかりますが、品質向上につながる有用な栽培方法であるように思いました。
自然発酵によるワイン醸造に “スケールアップ法”が与える影響
〇志賀 樹 1・乙黒美彩 1・山田潮路 1・安蔵正子 2・大村春夫 2・岸本宗和 1(1山梨大学ワイン科学研究センター,2丸藤葡萄酒工業(株))
安定した自然発酵を行うために、丸藤葡萄酒のルパイヤート シャルドネの醸造方法を参考に、スケールアップ法を開発した。
スケールアップ法はブドウ搾汁直後から4段階に分けて、酵母を増やしながら段階的に使用ブドウを増やし、適切な酵母を増やしていく方法である。初期はnon-Saccharomycesの存在が多かったが、徐々にSaccharomyces属酵母の占有率が増え、最終的なマストでの占有率はほぼ100%の結果となった。オフフレーバー(アセトアルデヒド、酢酸エチル、酢酸)は欠陥と認識される含有量を下回っており、審査官による官能評価においても指摘するコメントはなかった。スケールアップ法を用いずアルコール発酵を行ったコントロール群ではHanseniaspora属酵母によって酢酸エチル、酢酸量の産生が行われ、閾値以上の含有量となった。
(私見)野生酵母を用い、手間と時間のかかる方法のように思いましたが、オフフレーバーの産生を抑制し、安定した発酵を行う有用な方法のように感じました。
シュール・リー法における貯酒条件および各種清澄処理がワイン中マンノプロテイン量に及ぼす影響
佐藤憲亮・小松正和・恩田 匠(山梨県産業技術センター)
甲州の品質向上にはシュール・リー法を導入したことが大きく影響している。澱とワインを接触させることで、酵母由来のたんぱく質、多糖類のを溶出させる。特に中性多糖類であるマンノプロテインはワインの甘味、丸み、口当たりを高め、渋みの低減、酒石酸塩の抑制、タンパク混濁抑制、乳酸菌の生育促進に寄与する。今回の研究はマンノプロテインの含有量に及ぼす影響について検討した。
試験は上澄み処理を行ったワインを用い、シュール・リー期間は6か月、バトナージュは2週間に一度、18℃と4℃の2種類で濁度別に分類した。
結果は以下の通り
・18℃は4℃よりも中性多糖類含量が高かった
・濁度の高い(澱の量が多い)方が中性多糖類が高かった
・酒石安定化処理、清澄剤の使用によりマンノプロテイン含量が減少した
・清澄をカゼインで処理するとマンノプロテイン含量の減少幅は低かった
・清澄をベントナイト、PVPP、活性炭で行うとマンノプロテイン含量の減少幅が大きかった
・滑らかさを表すエタノール指数とマンノース濃度に正の相関がみられ、渋みを表すゼラチン指数と負の相関がみられた
(私見)シュール・リーはワインの味わいに深みをもたらすと言われていますが、適切な方法を確立して上手に活用していくことが重要であると考えました。
醸し発酵による‘甲州’オレンジワインの特徴
小松正和・佐藤憲亮・恩田 匠 (山梨県産業技術センター)
コーカサス地方の伝統製法で造られるオレンジワインは近年注目を集めており、白ワイン用ブドウを赤ワインの製法で醸造したワインとして説明されることが多い。
本研究は、山梨県産の甲州を用いたオレンジワインの醸造技術、品質評価方法を検討し、基準を定めることを目的に実施した。
研究は山梨県韮崎産の甲州を使用、培養酵母を用い発酵を行い、通常の白ワイン群を対照に、オレンジワイン群は破砕果と共に18度5日間のアルコール発酵を行い、その後清澄、濾過を行った。
結果は以下の通り
・オレンジワイン群の方がアルコールが低く、エキス量が多い。また酸量が多く、pHが高かった。酸を分析してみるとコハク酸はオレンジワインの方が高かった
・pHが高い理由は、無機質(Ca,K,Mg,P)が有意に高かったことが考えられる
・オレンジワインは全フェノール含量が3倍以上高く、通常の赤ワインの含量に匹敵した
(私見)昨年の発表でも甲州のオレンジワインの有用性が報告されており、今回の研究で成分的な観点からも有用性が確認できたように思います。
ヤマブドウワインを含む赤ワインにおけるアントシアニン及びプロアントシアニジン含量
阿部利徳1・阿部静子1・五十嵐喜冶2 (1(同)東根フルーツワイン,2山形大学農学部)
山形県産のヤマブドウとマスカットベリーAのポリフェノール組成の違いを明らかにした。
結果は以下の通り
・ヤマブドウはアントシアニンが多く、反対にプロアントシアニジン含量はMBAの半分以下であった
・MBAはアントシアニンが少なく、プロアントシアニジンが多かった(1.2倍)
・ヤマブドウは総ポリフェノール量はMBAの1.3倍であった
(私見)ヤマブドウの色の濃さ、エッジの赤みの高さが際立っていると以前より思っていましたが、実際にアントシアニンの含有量がとても多いことが分かりました。目への好影響があるかもしれませんね。
以上です。また来年の開催が楽しみです。今後も日本のワイン研究を応援しています!
〈参考〉
日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2019 山梨大会参加報告
日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2018 京都大会参加報告
日本ブドウ・ワイン学会は個人での入会も可能です。私も会員です。http://www.asevjpn.wine.yamanashi.ac.jp/index.html