美肌の科学 乾燥肌
私たちが「美肌」といっているのは肌の表面の角質層を見ていっており、肌の中まで見えるわけではない。すべすべと滑らかで、柔らかい素肌の美しさは、皮膚のいちばん表面の部分である角質層表層の保湿状態のいかんによって決められるものである。空気が乾燥する時期になると、肌はザラザラ、カサカサして硬くなる。しかし、これを入浴するなり、しばらく水に浸けておくと、水を吸って膨れだし滑らかさや柔らかさを取り戻す。それだけに角質層を整えておくことは、美容上最も大切なことになる。
【角質層の水分保持に働く物質】
角質層は死んだ角質細胞がおよそ14~15層ほど積み重なったものである。なぜ死んだ細胞の層が、体の周りをとりまいているかというと、外界から絶えず受けている刺激から体を保護するためには生きた細胞では刺激にたえられないからである。
油とともに角質層に必要なことは、一定の水分を含んでいることである。平均約20%の水分を含んでいるときが、角質層は最良の状態とされている。
角質細胞の中にある水溶性アミノ酸などの天然保湿因子(NMF)は水分を含む性質が強く、それを吸うとふくらんできて、皮膚の表面にハリが出てくる。
ひとつひとつの角質細胞をレンガにたとえると、積み重なったレンガの間にはすき間があり、それを保湿因子である細胞間脂質が埋めて細胞同士をくっつける役目をしている。
細胞間脂質の集まった構造は親水基同士、疎水基同士が層状となりラメラ構造をつくっている。このため、角層の水分が蒸発して外に出て行きにくい仕組みになっている。また細胞間脂質は水分と結合して水分を内部にとどめる働きをしている。
細胞間脂質の水分保持機能は、バリア機能としても重要である。綺麗にラメラ構造に配向した正常な皮膚では、微生物や化学物質などの異物が角層以下に通り抜けて入ることはできないが、バリアゾーンが不十分だと安易に侵入する、つまり吸収される。
【スキンケアの実際】
皮脂分泌が少なく、角層の水分量が低下しているものを乾性の皮膚とか、乾燥肌といっている。乾燥肌の人の皮膚は細胞間脂質が不十分なことが多く、ドライスキンに傾くだけでなく、ちょっとした刺激に反応してかゆみや痛みを起こしやすい。乾性の皮膚はカサカサしていて、表面から角片(角層が塊となって剥がれたもの)が発生する。そのため角層から蒸発する水分量は高くなる。
《油脂》
天然の油性成分で一般的にオイルといわれているもの。皮膚の表面を覆う皮脂も油脂のため、油脂は皮脂を担っている。健康な肌では皮脂腺から一日に約1~2グラム皮脂が分泌される。皮脂分泌量が減少する原因は、血行不良、代謝低下などがあげられる。また男性ホルモンの少ない人では皮脂量は少なくなる。
油脂剤を薄く塗っておけば、皮膚は角質層からの水分蒸散を留められて次第に柔らかく滑らかに変わる。一時的にみて保湿されるので、その日の化粧もちは良くなる。しかし効果発現まで時間がかかることと、実質的な保湿をするためにはかなり厚めに塗る必要がある。
効果・・・水分蒸散抑制、グリセリン産生、止痒、皮膚柔軟性
選び方・・・痒みや痛みのある皮脂欠乏症(乾皮症)は植物から採取した油脂はさける
《ヘパリン類似物質》
ヘパリンとは体内に存在するムコ多糖類の一種である。ヘパリンの構造に類似した物質がヘパリン類似物質といわれている。ヘパリン類似物質は乾燥肌の治療を目的に医療用医薬品として使われている。有効成分としてヘパリン類似物質を配合した薬用化粧品も存在する。
効果・・・保湿、血行促進、抗炎症、細胞間脂質のラメラ構造の修復、二次結合水の増加(空気中の水分を吸湿する)、天然保湿因子(NMF)産生
選び方・・・安全性や保湿効果の実験が行われているもの
《セラミド》
セラミドは角層細胞の間に存在する細胞間脂質の主成分で、その約半分を占めている。通常ヒトの体内でつくられる。
ヒアルロン酸などの保湿剤は、皮膚に与えられた水分が蒸発しないよう水分を引き寄せておくことで保水する。一方、セラミドは細胞間脂質の未成熟のラメラ構造を修復して、健康な皮膚に改善することで、肌本来が持つうるおい保持力を高める。ただ皮膚の上に保湿剤をのせる一時的なスキンケアに対して、セラミドは長期的にみて根本的な肌質改善に働く。
効果・・・水分蒸散防止、成分流出防止、異物混入防止、細胞間脂質のラメラ構造の修復、ターンオーバー促進、セラミド産生促進、シワ抑制、細胞増殖分化コントロール、皮膚常在菌のバランス調整
選び方・・・ヒトが持つセラミドと同等の構造をしたもの(ヒト型セラミド)、中価格以上のもの
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