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プレシャスパープル【男2:女1】

2020.12.06 15:00

題名『プレシャスパープル』

全年齢 男性2名 女性1名 40〜45分



『コバルトブルー』の未来編。

本編に少し出てきた秘書と遥人のお話。


遥人(はると):Barで働いでいたが弟の打診により父の会社に入社。現在は亡くなった弟(結人)と同じ専務の役職についている。

光莉(ひかり):遥人の秘書。結人の秘書でもあった。遥人と結人とは小さい頃近くに住んでいた。

結人(ゆいと):遥人の弟。病気により他界。兄より落ち着いておりしっかりしていた。


このお話単体だけでも使用できるようにしてあります。

現在と過去(回想)がシーンで切り替わります。

遥人Mと表記してモノローグがいくつか入ります。



過去編「インディゴブルー」


本編「コバルトブルー」


下記をコピーしてお使い下さい


題名「プレシャスパープル」

作:みつばちMoKo

遥人:

光莉:

結人:

https://mokoworks.amebaownd.com/posts/11844879/



 

(ドアノック音)


光莉:失礼いたします。


   お疲れ様です。


   専務。こちらにサインをお願いいたします。


遥人:まだなんかあるの?


光莉:これで今日は終わりですので。


遥人:はいはい、かしこまりました。


   ……これ、ここにもサインするの?


光莉:はい。お願いします。


遥人:はい、できた。どうぞ。


光莉:ありがとうございます。

   本日の業務は以上になります。

   お疲れ様でした。


   すぐお帰りになられますか?


遥人:んー。一服してから帰るわ。

  

   はぁ。あいつ、こんなこと毎日やってたの?

   すげぇな。


光莉:前専務のことですか?


遥人:うん、結人。


光莉:やってましたよ。

   お仕事はきっちりやられてました。


遥人:まぁ、あいつなら淡々とやりそうだよな。


光莉:ええ。

   …まるで何かを忘れるかのように一生懸命に。…必死に。


遥人:ていうか、もう仕事終わったんなら敬語じゃなくてもよくない?


光莉:まぁ、そうですね。


遥人:でも、まさか、秘書がお前だったとはね。


光莉:結人、なにも言ってなかったんだ。

   会社に入った時、名簿見なかったの?


遥人:秘書が女性で仕事ができるだとか、そういう話はしたよ?

   会社に入った時、初めは役職なんてついてないから、

   上の人のことまで気にしてなかった。


光莉:まぁ、私の名字も前と変わってたからね。


遥人:あ。

   でも、俺会ったことあるって言われてたわ。

   当時あんまり詳しくは聞いてなかったんだけど。

   

   引っ越ししたのって、高校上がる時だったっけ?


光莉:ううん。中学の途中でだよ。

   あと少しで卒業って時に。


   まぁ、家の事情だから仕方ないけど。


遥人:あの辺じゃ、年近い子供って俺らだけだったからなぁ。

   弟の結人とお前と俺でよく遊んでたよな。


光莉:結人はひとつ下だったから、特に仲良かったし。

   家も近ければ、いつも一緒にいるようになるのは当たり前って感じ

   だったね。


遥人:そうだな。


光莉:でも、遥人、高校入ったら、急に冷たくなったよね。

   洒落っ気づいてさ。

   女の子にモテたくなったんでしょ?


遥人:や、その…

   そういう年頃だから仕方ないだろ?


光莉:ふふ。まぁいいけど。


   当時は寂しかったなぁ。

   私はひとりっ子だったから、遥人はなんていうか、憧れのお兄さんって

   感じだったし。


遥人:え? そうなの?


   そんなこと思ってるようには全然見えなかったけど。


光莉:なんていうか…恥ずかしくて隠すのに必死だったんだよ。

   

   ……初恋だったから。


遥人:は?


   え?


   どういうこと?

   初恋?

   俺に?


光莉:はい、今日の業務は終了でーす。

   専務、お疲れ様でした。


   ちゃんと帰ってくださいね。


   私はお先に失礼しまーす。


遥人:え? いやちょっと待てって。

   上司置いて帰るわけ?


光莉:もう時間外なので上司じゃありませーん。


遥人:なぁ? 


   ちょっと!




遥人M:弟から自分の秘書は優秀だということは聞いていた。

    そして彼の想いも。




【回想〜結人の病室にて〜】


遥人:結人、お前の秘書っていつ病院に来てるんだ?


   俺、まだ会社でもここでも、一度も会ったことないんだけど。


結人:兄さんが来てない時間に来てるよ。

   ここで僕がやった仕事持っていって、新しいのを届けに来たり。


   まぁ、病室でできることなんて限られてるけどさ。


遥人:優秀なんだっけ?お前の秘書。


結人:うん。仕事はバリバリできるよ。 

   そんなふうには見えなかったんだけど。


   彼女も今までに苦労してきたみたいだから、いろんなこと頑張って

   身につけたらしい。


遥人:どこで知り合ったんだ?

   元々会社にいたのか?


結人:あーいや、大学の時、偶然再会したって感じかな。


   向こうはもうすでに別の会社で働いてたんだけど、

   俺が父さんの会社に入ってから、こっちに引き抜いた。


遥人:お前、引き抜き得意だなぁ。

   俺のことも結構強引に会社に入れたし。


結人:はは。まぁそれはこういう状況だったから許してよ。

   二人とも会社のために必要な人材だったのは間違いないんだからさ。


遥人:なぁ。

   前も聞いたけど、ほんとに付き合ってないの?


結人:付き合ってないよ。


遥人:なんかさ、お前のこと、すっごく支えてるみたいだし。

   向こうもまんざらじゃないと思うんだけど。


結人:だから、彼女は好きな人がいるの。

   もう、ずっと前から。


   僕、そういうのいいなぁって思って応援してるんだ。

   だって、ずっとひとりの人を想ってるんだよ?

   今どき、一途だよねぇ。


遥人:こっちに振り向かせればいいんじゃねえの?


結人:だから無理だって。

   その…、相手の男性もいい人だからさ。

   嫌なやつだったら、僕もちょっと考えたけど。


   それにさ。

   今、僕こういう状態だし。


   ……末期ガン患者が望むことじゃないんだよ。


遥人:結人…。


結人:兄さんも彼女に会ったら惚れると思うよ?


   ほら、兄さんも僕も、こう… 母性があって芯の強い、

   母さんみたいな人がタイプじゃん。


遥人:そんなに魅力的な人なのか?


結人:僕にとってはね。


遥人:なんだよ、それ。

   “好き“って認めてるじゃん。


結人:はは。


   本人には内緒だよ。

   ていうか、まだ会ったことないんだっけ…。


遥人:そんなこと言われたら、ますます会ってみたくなったな。


結人:会えるよ。そのうち。

   必ず、会える。


遥人:まぁ、楽しみにしとく。


結人:うん。




【現在〜会社にて〜】


(遥人電話中)


遥人:ええ、はい。申し訳ありません。


   はい。ええ。


   明日までに必ず。

   いえ、今日中になんとかします。


   はい。


   あっ、いえ、明日朝一番に私が直接お持ちします。


   はい、よろしくお願いいたします。


   失礼いたします。


(電話終了)


   はぁ…。


   あのさ。


光莉:はい、専務。


遥人:営業の担当に伝えといて。

   明日、俺が直接届けるからって。

   謝罪もしたいし。


   で、修正できそうな感じ?


光莉:今、必死でやってます。


遥人:そう…。

   俺ができること、あとなに?


光莉:そうですね。

   部下を信じることですかね。


遥人:なんか、それだけじゃ落ち着かないな。

   もっとこう、体動かして…みたいなの、ないの?


光莉:各方面に連絡はしてあります。


   落ち着いてください。

   専務が焦ってどうするんですか。


遥人:ふぅ。さすが優秀な秘書。

   こう言う時の対処も心得てるんだな。


   ……やっぱり、ちょっとあとで下見にいくわ。


   最終的な責任を取るのは俺だ。

   形になったものが、それがよくても悪くても、全て俺が背負う。


光莉:ふふ。

   お仕事してる時はかっこいいんですよねぇ。


   前の専務がおっしゃってられましたよ。

   兄は本当は仕事もできるし、かっこいいんだって。

 

   ひとりぼっちだと思ってて、バカなことばっかり考えてるけど。

   ちゃんとそこに信念はあるんだって。


遥人:それ。

   あいつ、たまに俺のことバカだよねって言ってたわ。


光莉:それは愛情の裏返しでしょ?


遥人:…そうだな。


光莉:ひとりぼっちだって思ってるって言うのは、私も同感ですけど。


   もうちょっと、部下を、仲間を。

   …私を頼ってくれてもいいんじゃないですか?


   社長…お父様だっていらっしゃいます。


遥人:父さんは、なんか俺にとって家族なんだけど、

   もう自立した一人の人間って感じなんだよな。

   生活も別々だし。


光莉:まぁ、バカなことばっかりっていうのも、いつもかっこいいだけじゃ

   飽きるし、人間味があって好きですけどね、私は。


遥人:は?


   いや、それって人間としてってことだよな?


光莉:さぁ?


   男性として好きって言ったら、どうします?


遥人:え? いや、お前そんなに積極的だったか?


光莉:専務…。

   何か怖がってますよね?


   大事なものを作ろうとはしないし、ひとりだと思ってるくせに、

   ひとりになるのが怖い。


   って、思ってません?


   私はもう十代の女の子じゃないんです。


   モジモジして自分の気持ちに蓋をしてる余裕なんてないんです。


   それに、ちゃんと今伝えられることは、伝えとかないとって。

   結人みたいに目の前からいなくなったら伝えられなくなっちゃう。


   私は専務をひとりにしません。


   …遥人をひとりにしないよ。


   約束する。


遥人:光莉…。


光莉:ってこんな時に話すことではなかったですね。


   私、この書類、出してきます。


   専務はあの写真でも見て、気持ちを落ち着けててください。


   好きなんでしょ?

   応接室にある、あのコバルトブルーの池の写真。


遥人:あぁ。

   元々は結人の好きな色だけどな。

   今じゃ俺も一番好きな色になった。


光莉:そういえば、あのコバルトブルーみたいな綺麗な青い色のお茶があるの

   知ってます?

  

遥人:お茶?


光莉:バタフライピーっていうハーブらしいんですけど。

   そのお茶にレモンとかライムとか酸っぱいものを入れると、

   色が紫色に変わるんですって。


   そのパープルもすごい綺麗らしくって美容効果もあるから、

   女子に人気みたいですよ。


遥人:へえ、そうなんだ。


   レモンね…。


光莉:え?


遥人:いや、お前、酸っぱいもの好きじゃなかったっけ?

   レモンとか梅干しとか。


光莉:あっ、はい。

   よく覚えてますね。


遥人:レモン味の飴とかよく舐めてた記憶がある。


光莉:今でも好きですよ?レモンキャンディー。


遥人:味覚は変わらないんだな。


光莉:…そうですね。


   好きなものは、変えられないみたいです。


   …では、失礼いたします。




遥人M:俺はそんなにひとりになりたがってるように見えるのだろうか。

    だとしたら、それは無意識で。

    楽だと言った方が正しいかもしれない。

    何かをなくすことに悲しみを感じなくて済む。

    だけど、そんな俺の中にガツガツと踏み込んでくる光莉が、

    この頃には心地よくなってきていたのは確かだった。




【現在〜応接室〜】


光莉:こちらにいらっしゃったんですね。


遥人:…やっぱり、それ、俺が届ける。


光莉:ダメです。

   先方が私に持ってくるよう希望されてるんですから。


遥人:いや、いつもだったらすんなり頼むんだけど…。


   あそこの部長、その…なんていうか…あんまり評判よくないんだよ。

   その、セクハラみたいなのも噂聞くし。


光莉:存じております。


遥人:だったら!


光莉:別に夜のお席にお邪魔するわけではないですし。


   それに私が届ければ、この商談は進むんですよね?


遥人:だけど、お前がいやな思いを万が一するのなら、破談にしても…。


光莉:なんで、そんなに心配してくれるんですか?

   彼女でもなんでもないのに。


   なーんて。


   なに、言ってるんですか。

   この大きな事業にかけていたのはどなたですか!?


   成功させたいとずっと願っていたのは誰ですか?


   遥人と…、結人でしょ?


遥人:俺も一緒に行く。


光莉:ダメです。

   専務は本社で別の大事な商談に出てもらわないと困ります。


遥人:しかし…。


光莉:大丈夫です。


   成功させましょう。


   私、この仕事に誇りを持ってるんです。

   誰かをサポートして、フォローして、お役に立てるのが嬉しいんです。

   求められてるって感じがして。


   セクハラ部長なんて、どうってことないです。

   私の仕事ぶり見てたら、そんなの、うまいことかわせるって

   わかるでしょう?


   ちゃんと仕事してきますから。


遥人:光莉…。


光莉:そのかわり、社に戻ってきたら、“お疲れさま。ありがとう“って

   ねぎらってくださいね。


遥人:…わかった。


   でも、もしいやなこと言われたりされたら、相手をぶっ飛ばしてきて

   いいからな。


光莉:ふふ、はい。

   そうならないように祈っててください。


   では、行ってきます。

   専務はこの後の商談、よろしくお願いしますね。

   ビシッと。


遥人:行き帰りも、車に気をつけろよ。


光莉:はい。

   では。




遥人M:いつの間にあんなに強くなったんだろう。

    一緒に過ごしていなかった俺の知らない年月があることに

    少し苛立ちを覚える。 

    

    あいつが引っ越したあと、一度だけ電話がかかってきたことがある。

    たった一度だけ。




【回想〜電話〜】


結人:もしもし。


   ………。


   もしもし?


   ………もしかして、光莉?


光莉:……うん。


結人:なんとなく、そうかなって。


   どうしたの?


光莉:……うん。


   二人とも元気かなぁって。


結人:僕も遥兄も元気だよ。


   光莉は?


光莉:うん。


結人:うん?


光莉:元気だよ。


結人:いや、元気そうな声してないよ。


   何かあったの?


   何かあったから電話してきたんじゃないの?


光莉:……んーん。


   なんか懐かしくなって。

   そっちにいる時、楽しかったなぁって。


結人:なんかあったでしょ。

   ほんと元気ない。

   いつもの光莉じゃない。


光莉:…いつもの私ってどんな感じ?


結人:んー、明るくって…。ひとことじゃ説明できないや。


光莉:そっか。


   まぁ、元気なのが取り柄だからなぁ…。


結人:ねぇ、ほんとにどうしたの?


光莉:…ふふ。なんか必死だね。


結人:そりゃ、心配だよ。

   そんな元気ない声してさ。


光莉:大丈夫だよ。

   結人の声聞いたら、ちょっと元気出た。


結人:…あっ、遥兄。

   おかえり。


遥人:電話?


結人:うん、光莉から。


遥人:光莉?

   めずらし。


結人:変わる?


遥人:おう、ちょっと変わって。


   …光莉?


光莉:…遥人。


遥人:あぁ。


   どうした?なんかあったのか?


光莉:遥人…。


遥人:うん。


   …どうした?


光莉:こっちは寂しい…。


   お母さんはずっと仕事に行ってる。

   学校も馴染めない。


遥人:…そっか。


   つらいな。

   寂しいよな。


光莉:うん。

   そっちに戻りたい。


遥人:…そうできたら、いいんだけどな。


光莉:友達がなかなかできない。

   みんな都会から来た子だって言って近づいてこない。


   浮いてるのかな、私。


遥人:浮いてないよ、光莉は。


   ごめんな、光莉…。

   俺は…俺たちは、今はお前に何もしてやれない。

   自由にできる金だって、力だってない。


   けど、心はそばにいる。

   いつだって近くにいる。


   あんなにいつも一緒に遊んだだろ?

   

   こうやっていつでも電話してくれていいから。


   いつか、俺らが大人になったら、また3人で会おう。


   強く生きて会おう。


   な?


光莉:…うん。


   遥人ならそういうと思った。

   突き放してるんじゃなくって、希望を持たせてくれてるんだよね?


遥人:あぁ。


光莉:遥人…。

   

   また会おうね。



【現在〜病院〜】


遥人:すいませんっ!


   さっき、連絡があって!


   建築現場で、資材が頭に落ちてきたって聞いたんですけど!


   あっ、はい、そうです!


   いや、家族ではなくて、彼女は近くに家族が住んでいなくって…。


   あの、私、直属の上司なんですが…。

   彼女の家族とは、昔から知り合いでして…。


   ご家族に連絡するためにも、彼女のこと…、彼女は大丈夫なのか、

   教えてもらえませんか…?


   お願いします!

 

   …お願い…します。



(病状説明を受け、彼女の病室へ)


遥人:はは。

   なんだよ…。


   早く起きろよ…。


   頭の怪我、大丈夫なんだろ?

   あとは意識戻るだけなんだろ?


   なに、寝てんだよ…。


   いっつも俺が眠そうにしてたら怒るだろ?


   シャキッとしてくださいって言うだろ?


   お前が寝てんじゃねえよ。


   早く、目を覚ませよ。



   ……病院、苦手なんだよ。


   白くて、綺麗すぎて、静かで…。


   母さんも、結人も…

   病院で寂しい夜を過ごしてた。


   そして二人ともいなくなった…。



   大事な人を作ると、失うのが怖い。


   母さんも結人も。

   大切で大事な家族だったのに。


   いなくなって、苦しくて、もがいて…

   這い上がるのが大変だった…。


   だから、もう大事な人を作らなきゃいいんだって。

   そう思って…。


   俺、まだなにも伝えてない。


   俺、また誰かを失うの?


   また俺の前から消えてくの?


   いやだよ、もう…。


   もう誰もいなくならないで…。




光莉:う……。


遥人:(息をのむ)


   光莉?


光莉:ん……。


遥人:光莉?


光莉:ん…。


   あ…。


遥人:…わかるか?


光莉:はる…と。


   ば…か…じゃ…ないの?


   なに…泣いてんの…。


遥人:光莉。


   …泣いちゃ悪いかよ。


光莉:ふふ。子供…みたい…。


遥人:大丈夫か?

   看護師さん、呼んでくるからな。


光莉:…待って。


遥人:どした?


光莉:夢…なのかな…。


   私、結人と話した気がする…。


遥人:結人と?


光莉:なんか…ね?


   まだやることあるでしょ?とか言ってたような…。


   あとね。

   遥兄、守ってやって、だって。


   結人の方がお兄さんみたい。


   まぁ…信じてもらえないかもしれないけど…。


遥人:…いや。


   信じるよ。

   結人なら言いそうだ。


   ちょっと、手、握ってみて。


   …ちゃんと、あったかいな。


   よかった。

   本当によかった。


   母さんも結人もベッドで握った手は冷たかった。


   でもお前の手は…ちゃんと暖かい。


   またひとりになるかと思った。


   大事な人は俺の前からいなくなっていく。


   同じことが起きそうで不安だった。

   …怖かった。


   戻ってきてくれて、よかった。


光莉:バカ。


遥人:ちょっ、なんだよ、さっきからバカって。


光莉:遥人。

   

   私、ひとりにしないって言ったじゃん。

   

   約束したじゃん。


   …忘れたの?


   …ちゃんと約束、守ったでしょ?


遥人:はは。


   …うん。 守ってくれた。


   俺、まだ、お前に伝えていないことがある。


   結人に遠慮して、気持ちに嘘ついて。

  

   もし伝えないままお前がいなくなったら…

   後悔で生きて行けなくなるところだった。


   光莉。


   こんな俺だけど、一緒にいてくれるか?


   俺のダメなとこ、叱って、フォローして。

   ちゃんと正しい方に導いていってくれるか?


光莉:…それ、今までと変わらなくない?


遥人:…そうだな…。


   でも、仕事でじゃなくって、俺の人生でってこと。


   俺の中で、お前はとっくに大事な人になってる。


   失うのが怖くて、大事な人にしたくなくて避けてきた。


   でも今回、思い知ったよ。


   俺が光莉のそばにいたい。

   これからは、光莉を守らせてほしい。


光莉:…バカ

   ほんとバカ。


   遅い。


   …待ってた。


   もうっ。

   目覚めたばっかりなのに、感動させないで。


遥人:はは。


   お疲れさま。

   戻って来てくれてありがとう。



【現在〜お墓参り〜】


光莉:遥人は結人のお墓来るの、久しぶり?


遥人:んー、一周忌終えてから、一回来たっきりかな。


   あいつ、母さんと同じところがいいって言ってさ。

   母さんは眺めのいい高台にあるとこにしてくれっていう希望だったから。


   それでこんなちょっと遠いとこになったわけ。


   はぁ、坂、きっつい。


光莉:運動不足。


遥人:わかってる。

   仕事で動き回ってるんだけどな。

   それだけじゃ、やっぱダメか。


   ふぅ…、着いた。


   来たことあるんだよな?


   あっちだ。

   行こ。


光莉:…遥人。


   私、ここで待ってる。


   ここ、景色いいし、もう少し眺めてたいなって。


   それに…。


   結人と二人で話したいでしょ?


遥人:光莉…。


光莉:私はあとでちゃんと手を合わせにいくから。


遥人:…わかった。


   ありがとう。お言葉に甘えるわ。

   

   じゃ、ちょっと待ってて。




   花はここ…。

   缶コーヒーは…ここでいいか。


   よし。



(以下、結人の天の声と会話)


   結人。


   元気か?

   母さんと一緒か?


   ちょっと忙しくしてて、久しぶりになってごめんな。


   会社の方は、今のとこ大丈夫だ。

   ちょっと大変な時もあったけど、なんとかなった。


   あー、俺な。

   あの写真、たまに眺めるんだ。つらい時。


   そしたらなんか元気でる。不思議とな。


   それと…。


   今日、光莉と一緒に来てる。


   お前に伝えときたいことがあって…。


結人:やっと、くっついたんでしょ?


遥人:結人…?


結人:僕からしたら、やっとだよ。


   光莉が遥兄のこと好きなの知ってたし、遥兄もすぐ好きになると

   思ってたし。


   なんですぐ行動しなかったの?


遥人:いや、それは…。


結人:僕に遠慮してたんでしょ?


   弟が好きだった人だからって、踏み込めなかったんでしょ。


   バカだなぁ、遥兄。

   …僕はもう、いないのに。


遥人:お前もあいつも俺のことすぐバカっていう…。


結人:だいたい光莉の気持ちに気づいてなかった時点でおかしいよ。

   僕でさえ、気づいたのに。


   いや、僕だから気づいたのかな…。


   だから遥兄。

   あえてお願いするよ。


   光莉をずっと愛してあげて。


   僕の分もずっと。


   二人分の愛情もらったら、あいつが今まで貰えなかった愛情も

   満たされるかなって。


遥人:結人…。


結人:遥兄だから託すんだよ。

   

   …お願い。


遥人:ほんとなんで、お前の方が弟なんだろうな。


   しっかりしてて、優しくて、強い。


   そういえば、お前さ。


   秘書に会わせてあげるっって言っておきながら、全然会わせて

   くれなかったの、わざとだろ?


結人:ふふ。わかったの?

   僕のささやかな最後の抵抗だよ。


   二人が再会したらこうなることはわかってたからね。

   それぐらい許してよ。


   なんとくね、二人が惹かれ合うとこは目の前ではみたくないなぁって。


   ごめんね。


遥人:いや。


結人:遥兄…。

   

   ……ひとりにしてくれなかったでしょ? 光莉が。


遥人:うん。

   ひとりだって考えること自体、間違ってた。

   

   俺には、光莉も結人も、母さんも父さんも。…会社の仲間もいる。


結人:そのうち、あいつと家族になるんでしょ?


遥人:まぁ、うん。そう考えてる。


結人:あー、また僕に遠慮してる?


   その遠慮は僕に失礼だよ。


   それに二人がくっついて嬉しいんだ。

   遥兄も光莉も幸せになってほしい。


   つらい経験をして来た二人だからこそ、幸せになってほしんだ。


   だから、何十年か後、二人がこっちに来た時、ニコニコしてなかったら

   許さないからね。


遥人:まぁ、頑張るわ。


   何十年か後、お前に会える時まで一生懸命、生きていく。


結人:うん。そうして。


   頼むね。


   ほんとに頼むね。


遥人:…また来るわ。


結人:ふふ。無理しなくていいよ。


   うん、期待しないで待ってる。


遥人:あぁ。


(結人の天の声と会話終了)



光莉:遥人。


   お話、終わった?


遥人:あーうん、終わった。


光莉:…どうしたの?


遥人:え?


光莉:なんかあったの?


遥人:何が?


光莉:なんかニコニコしてる。

   だからなんかいいことあったのかなって。


遥人:…うん、あったよ。

   ちょっと、嬉しいこと。


光莉:そっか。


   あ。私も結人にお参りする。



遥人M:結人に手を合わせる光莉を見ながら、こいつらにも色々あって、

    乗り越えて、それでそのお陰で今の俺があるんだなって

    考えさせられていた。



光莉:よーし。


遥人:え?もういいの?


光莉:え?ちゃんと話したよ?


   “これからもよろしく“って。


遥人:“これからも“…か。


   そっか。そうだな。

   これからも、だな。


光莉:そうだ。

   あのね、この近くにあの青いお茶が飲めるカフェがあるんだって。

   帰りに寄ってみない?


遥人:あー、紫色に変わるんだっけ。


   じゃあ、ちゃんと変わるかどうか確認しにいくか。


光莉:うん!



遥人M:きっとこれからも俺が弱気になったりしたら、こいつら二人に

    こう言われるんだろう。



光莉:バカじゃないの?遥人。


結人:バカだなぁ、遥兄。



遥人M:でもそれがきっと俺が生きていく糧になるんだろうな。



光莉:じゃ、行こ。


遥人:ちょっと待て。

   お前、ちゃんと隣歩けよ。一歩後ろじゃなくて。

   今は、秘書じゃないんだからさ。


光莉:…うん!


遥人:じゃ、行くぞ。

   こけんなよ。


   ほら、手。



遥人M:そんなやりとりを、結人が笑顔で見ている気がした。

    きっとこれからも、ずっと。