飛び込め!十二の夏に。
2016.09.01 00:23
階段を駆け上がる足音に
苛立ちが混じる。
「おかえり」の言葉に返事はない。
滲むこめかみの汗に紛れて
うっすらと光る涙。
台所で人参を切る手も止まる。
なんてきついんだろう、
これが見守るということ?
今かけるどんな言葉も
キミのなぐさめにはならないだろう。
呼びかけても叫んでも
響くことのないように思う十二の心。
頼りなげな自分に嫌気がさす。
なんてむつかしいのだろう、
これが育てるということ?
守りたくなる。
救い出したくなる。
あなたを悩ませる、すべてのものから。
けれど。
理由なき反抗を
繁茂する自我を
変わってゆく身体を
友だちとの憂鬱を
消えない傷を
全て投げ出したくなるこの気持ちを
思い知ったなら、
ぜんぶ抱きしめたまま
進むしかないから。
ぜんぶ引き連れて
今日を超えていくしかないから。
この世のすべての経験に
色をつけ
音をたて
手ごたえを残して
走れ、描け、生きろ!
息を切らし、汗をかき、焼きつけろ!
迎え来る一陣の強い陽射しも
跳ね返す勢いで
走り出す手に負えない感情を
光るプリズムの水しぶきにかえて
得体の知れない新しい自分に、
十二歳の熱い夏に、
今だ、飛び込め!