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臍帯とカフェイン

沖田メンタるクリニック③(ワルキューレ編)(1:1:0)

2020.12.10 11:00

【配役】

沖田:男性

ワルキューレ:女性

※演じる方の性別は不問といたします。


沖田:(電話で話すような感じで)

沖田:はい・・・はい・・・そうですね、わかりました。

沖田:はい、また来週の火曜日に!ええ、お待ちしております!

沖田:・・・ふう、今日はなんだかカウンセリングの依頼が多いなあ。

沖田:おっと、皆さま、お久しぶりです。沖田メンタルクリニックへようこそ!

沖田:私は医院長の沖田、と申します。

ワルキューレ:すいませーん!

沖田:おっと・・・誰か来たみたいですね。

沖田:はーい、空いてますよー!(外にいるワルキューレを大声で呼ぶ)

ワルキューレ:あら、空いてたのね。よかった。

沖田:おっと、これはこれは!ワルキューレさん!お久しぶりです!

ワルキューレ:ええ、ご無沙汰しておりますわ。沖田せんせ。

沖田:前にいらっしゃったのは、オーディンさんの先端恐怖症の治療の時・・・ですかね?

ワルキューレ:ええ、その通りですわ。自身の目をつぶすことで、世界のすべての知恵を

ワルキューレ:得られると、賢人ミーミルに言われて・・・

ワルキューレ:いざその場では豪気に構え「いざ!世界のために!」と片目をつぶしたはいいものの

ワルキューレ:それ以来えんぴつでもお箸でも尖ったものをみると

ワルキューレ:冷や汗がとまらなくなってしまったオーディンの付き添いで来たとき以来ですわ。

沖田:簡潔にまとめていただいてありがとうございます。あれからオーディンさんはいかがですか?

ワルキューレ:ええ、とても落ち着いていて。この間も箸を器用に使ってジャパニーズフェイバリットフーズの

ワルキューレ:SUSHI(外国人風に)をおいしそうに食べていらっしゃいましたわ。

沖田:お箸を使って!それはよかった!かなり回復していらっしゃいますね!

ワルキューレ:本当に沖田せんせにはなんとお礼を申していいのか。

沖田:いやいや。そんなそんな。医師として当然のことをしたまでですよ。ははは!

沖田:それで、本日はオーディンさんは・・・?

ワルキューレ:いえ、本日は主君はおりません。

沖田:あれ?じゃあお薬だけ処方ですかね?

ワルキューレ:いえ、本日は、わたくしのことでご相談があるのです。

沖田:あら。ワルキューレさんが?一体どうしたんですか?

ワルキューレ:・・・はい。あの。ここでの話って・・・

沖田:・・・?ああ、はい。大丈夫ですよ。誰にも漏らしません。

沖田:安心して、心のままにお話ししてください。

ワルキューレ:・・・はい。沖田せんせは、ワルキューレというものをご存じですか?

沖田:ん・・・?ごめんなさい。どういう意味ですか?

ワルキューレ:・・・私、ワルキューレという名前じゃないんですよ。

沖田:えっ!!?

ワルキューレ:やはりご存じないですよね。ワルキューレというのは、いわば役職のようなもので

ワルキューレ:わたくし、本当は「ブリュンヒルデ」という名前なのです。

沖田:ええ!そうだったんですか!それは今まで失礼いたしました・・・!

ワルキューレ:いえいえ。主君オーディンもわたくし達のことを「ワルキューレ」と一緒くたに呼びますので。

ワルキューレ:それでですね、その、オーディン様のご趣味・・・というのが今回かなり、その

ワルキューレ:わたくしの悩みの種となっておりまして・・・。

沖田:オーディンさんの趣味・・・?えーっと、ちょっとまってくださいね。

沖田:えーと、オーディンさんのところは「北欧神話」ですよね。

ワルキューレ:え、ええ。そうですわ。

沖田:たしかこの辺りに・・・あったあった!「週間!僕の私の北欧神話」!たしかこれの創刊号に・・・

ワルキューレ:沖田せんせ、こういうので勉強してたんですか・・・。

沖田:面白いですよ!読みますか?

ワルキューレ:い、いえ、遠慮しておきますわ。

沖田:えー?面白いのに。・・・っとあったあった!なになに。

沖田:エインヘリヤルと呼ばれる「英雄」たちの魂を集め、来るべき巨人との闘いに備えている・・・と。

ワルキューレ:それは趣味ではなく仕事のほうですわ。

沖田:あ、そうなんですね。てっきりキン肉マン消しゴム集める感覚と一緒なのかと。

ワルキューレ:ば、ばかになさらないでくださいます?!そんな感覚だったら、わたくし達が集めてるんですのよ!?そのキン肉マン消しゴムを!

沖田:え、やっぱり集めてるんですか?キンケシ。

ワルキューレ:そうだったらという、たとえ話です!!

沖田:ははは、そんなに怒らないでくださいよ。趣味・・・となるとこちらですかね?

沖田:「夜な夜な来たるべきラグナロクのために、エインヘリヤルたちに猪のゼリームニエルや蜜酒(みつしゅ)を

沖田:ワルキューレたちを使いエインヘリヤルたちに振舞わせ鋭気を養わせている」・・・キャバクラですか?

ワルキューレ:ちがいます!

沖田:どこからどう見てもキャバクラ、いや、キュレクラじゃないですか。

ワルキューレ:ちがいますーーーー!

沖田:エインヘリヤルもキュレ嬢・・・じゃなかったワルキューレさんたちが連れてきてるんですよね?

沖田:・・・同伴出勤じゃないですか?

ワルキューレ:黄昏の海より出でし、7つの宝剣(ほうけん)よ。汝(なんじ)の放つ光にて

ワルキューレ:この愚かなる者に永久の地獄を与えたたまえ!奥義!ニーベルン・ヴァ

沖田:(割り込むように)うわーーー!すいません!すいませんって!ちょっとした精神科医ジョークじゃないですか!

沖田:そんな100コンボくらい出しそうな究極必殺技出さないでくださいよ!

ワルキューレ:危うくあなたをエインヘリヤルにするところでしたよ。

沖田:ほんっと北欧の方々は過激だなあ・・・

沖田:で、これでもないというなら趣味というのはなんなんです?

ワルキューレ:・・・はい、その、詩人や歌人などのパトロンを・・・することなんですよ。

沖田:パトロン・・・?

ワルキューレ:支援者といいますか・・・もっと言えば、プロデューサーといいますか。

沖田:・・・ぷろぢゅーさー・・・。

ワルキューレ:はい・・・。

沖田:・・・それが、ワルキュー・・・じゃなかったブリュンヒルデさんにどう関係が・・・?

ワルキューレ:・・・ワルキューレって、いっぱい居るんですよ。

沖田:ふむ・・・。何人ほどいらっしゃるんですか?

ワルキューレ:・・・ざっと9人から41人ほど・・・。

沖田:9人から41人ってもう意味わからないんですけど。

ワルキューレ:いやもう、多すぎて私たち自身もあまり把握していないというか。

沖田:なるほど・・・。文献によってばらつきがでる、どの情報が正しいのかわからない神話あるあるですね。

ワルキューレ:とってもメタメタしいですけど、つまりはそういうことですね。

沖田:それで、そのオーディンさんの趣味が結局どのように悩みの種なんです?

ワルキューレ:・・・るんです。(小声で)

沖田:え?なんです?

ワルキューレ:だから!その・・・・私たちをプロデュースするって・・・言い始めたんです・・・。

沖田:・・・・ほう?

ワルキューレ:・・・アイドルとして。

沖田:・・・・アイドル。

ワルキューレ:・・・グングニル娘(むすめ)。(ぼそりとつぶやくように)

沖田:・・・ぶふ(笑いをこらえるような)

ワルキューレ:・・・ワルキューレ41(フォーティーワン)。(ぼそりとつぶやくように)

沖田:・・・・ぐぶ(笑いをこらえるような)

ワルキューレ:・・・渡りヴァルハラ走り隊。(ぼそりとつぶやくように)

沖田:・・・ぴゅ・・・ふ(笑いがこらえきれない)

ワルキューレ:・・・・おフェンリル倶楽部!!!

沖田:ぶは!!!!!!!!!もうそれは卑怯すぎますよ!おフェンリル倶楽部!!!?

沖田:ぬふ・・・ぶくふふふ・・・ブリュンヒルデさん・・・アイドルになるんですか!!

ワルキューレ:笑わないでくださいまし!!ほんとに!!!もう!!!ほんとに!!!!

沖田:だって!あまりにも!!!!あまりにもですよそれは!!!

沖田:ちなみに僕は個人的に渡りヴァルハラ走り隊を推したいですね!

ワルキューレ:推しとかいいんですもう!!!まじめに聞いてくださいまし!!!!

沖田:・・・おほん、失礼いたしました。あまりにもブリュンヒルデさんや、あのお堅い北欧神話の方々の

沖田:イメージからかけ離れた内容だったものでつい。でも冷静に考えてみたら北欧神話の皆さんは

沖田:美男美女ぞろいですし、ブリュンヒルデさんも甲冑などを脱いだら金髪異国系美少女ですもんね。

ワルキューレ:・・・それ自体はやぶさかではないのですが。

沖田:あ、やぶさかじゃないんだ。

ワルキューレ:なにか?

沖田:いえ、別に。

ワルキューレ:・・・わたくし、あがり症なんですの。

沖田:あがり症?

ワルキューレ:はい・・・。

沖田:俗にあがり症というのは人前で話すのが苦手だったり、社会的にコミュニケーションがとりづらくて

沖田:人と話すこと自体に障害がある方を指します。あれ、なんか初めて医者っぽいこといってる気がしません?ねえ?

ワルキューレ:はい?

沖田:いやすいません、リスナーさんたちに向けた言葉でした。

沖田:私から見るとブリュンヒルデさんはあがり症に見えないんですがね・・・?

ワルキューレ:日常生活や、エインヘリヤルのスカウト、戦争のときの鼓舞(こぶ)など

ワルキューレ:そういったものは大丈夫なんです。

ワルキューレ:でも、どうしてもマイクを持ってステージに立つと、頭が真っ白になって、何もできなくなってしまい・・・。

沖田:ははーん、なるほど。それはおそらくあがり症の中でも「パフォーマンス限局(げんきょく)型 社交不安症」というものですね。

ワルキューレ:パフォーマン・・・?げん・・・きょく・・・?

沖田:この症状は、ある限定的な状況の中でノルアドレナリンという成分が脳内分泌され・・・っと

沖田:細かくはいいですね、簡単に言えば「局地的(きょくちてき)なあがり症」というやつです。

沖田:アイドルと戦場という絶対に交わるはずのない部分での、自身の立ち位置の移動で

沖田:すこしナイーブになっている部分もあるのでしょう。

ワルキューレ:・・・アイドルとしてのデビュー公演が、すぐにはじまってしまうのです。

ワルキューレ:沖田せんせ。なんとかならないでしょうか?

沖田:一般的に、こういったあがり症というものは日々のトレーニングなどで克服するもので一長一短でどうにかなるものではありません。

ワルキューレ:やっぱり・・・そうですよね・・・。

沖田:・・・しかし、ここは沖田メンタルクリニック。神々さえも頼りにする駆け込み寺です。

沖田:なんとか、いたしましょう!ほかの神様に力をお借りして!!!!

ワルキューレ:な、なんと!沖田せんせ!あなたという人は!

沖田:ずばりあがり症なんてものは過去の記憶があるから、その時の記憶やトラウマを呼び寄せた結果発症することがほとんどです。

沖田:つまりトラウマそのものとなっている記憶がそもそもとして無ければ!あがってしまうなんてことは起こり得ないわけです!

ワルキューレ:ちょ、ちょっと・・・せんせ?

沖田:ご紹介いたしましょう!!ギリシャ神話から!!!記憶を司る神様!「ムネモシュネ」さんから頂いた!!

沖田:レテ河(がわ)の水です!!!この水はなんとまあ不思議ひとなめすれば昨日のことを!ふたなめすればあの辛い失恋を!

沖田:そしてすべて飲み干せば何もかもを忘れられる究極の水!

ワルキューレ:せ、せんせ。なんか、なんかこわいですわ・・・!

沖田:嘘だと思うのならわたくしがほんの少し舐めて見せましょう!ぺろーり・・・!

沖田:びぇっ・・・・!

ワルキューレ:せ、せんせ!?

沖田:・・・ふう、今日はなんだかカウンセリングの依頼が多いなあ。

沖田:おっと、皆さま、お久しぶりです。沖田メンタルクリニックへようこそ!

沖田:私は医院長の沖田、と申します。

ワルキューレ:せ、せんせ!沖田せんせ!ちょ、ちょっと!しっかりしてください!

ワルキューレ:最初に戻っちゃってます!!!

沖田:えーっと・・・ワルキューレさん?本日はいかがなさいました?

ワルキューレ:ああああーーーーもう!!!!

演出:(5秒ほど間をあけ)

沖田:ふー・・・なんだか今日はいつもの倍働いてしまったようなそんな感覚ですね。

沖田:おや、皆さま、いらっしゃったのですね。ご紹介が遅れました、わたくし、この沖田メンタルクリニック

沖田:医院長の沖田、と申します。

沖田:あれ?自己紹介はもうした?おっと、まだ記憶があいまいですね、これは失礼。

沖田:あれからブリュンヒルデさんはいぶかしげにレテ河の水をお持ち帰りになられました。

沖田:いやあ、なんとか克服できるとよいのですが。

沖田:おっと、こんな時間にまた電話だ。

沖田:はい、こちら沖田メンタルクリニック。沖田が承ります。

沖田:おお、これはこれはオーディンさん。ブリュンヒルデさんから聞きましたよ。

沖田:なんでもワルキューレさんたちでアイドルユニットを作るそうじゃないですか!

沖田:え・・・?やめた・・・?

沖田:なんでですか!もったいない!美女ぞろいでしょ?私、渡りヴァルハラ走り隊って名前結構気に入っていて・・・

沖田:え?センターの?ブリュンヒルデさんが?自身のことを何も覚えてなくて?使い物にならない?

沖田:あー・・・・はは・・・・ははは・・・。

沖田:な、なるほど・・・?それで・・・今後はどうするんですか?

沖田:全国の?お亡くなりになられたアイドルたちを集めて?ビフレスト坂46(フォーティシックス)として?

沖田:デビューさせるって?・・・はは・・・ははははは。

沖田:それ、需要ありますかね・・・?はい、はい・・・またいつでもいらっしゃってください。

沖田:ここは沖田メンタルクリニック、24時間いつでも。神様ですらうけいれ・・・ん?

ワルキューレ:すいませーん!

沖田:あ、あれ?ブリュンヒルデさん!?どうしたんですか、こんな時間に!

ワルキューレ:職を失ったので、責任もってここに置いてください。

沖田:・・・・ええっ!!???