「365」(0:0:2)
【配役】
ワタシ:不問
キミ:不問
ワタシ:歳をとるとさ
キミ:うん
ワタシ:前は楽しいって思えてたことでも
キミ:ことでも?
ワタシ:あまり楽しいって思えなくなったりするんだよ。
キミ:んー、例えば?
ワタシ:例えばさ、一緒にデートした遊園地だったり
キミ:うんうん
ワタシ:興味も無いけど大好きだった人が好きだった映画のエピローグとか
キミ:スタッフロール後のNGシーンとか?
ワタシ:スタッフロール後のNGシーンとか。
ワタシ:この間試しに、君がおすすめしていた舞台がリバイバル公演していたからさ
キミ:え!?行ったの!?
ワタシ:試しに行ってみたんだよ。
キミ:だれと!?
ワタシ:ひとりで。微塵も面白くなかった。
キミ:失礼な!それひとりで見に行ったからじゃないの?楽しくなかったの。
ワタシ:ひとりで見に行ったからかな。
キミ:うん、絶対そう。
ワタシ:そう、かもしれないなあ。
キミ:そうだよ絶対。
ワタシ:歳をとるとさ、甘ったるい恋愛ものも、なんだか手を出すのも億劫になるんだよ。性欲だけは、うなぎ登りに、ピークを迎えてるのにさ。
キミ:性欲はもうどうしようもないね。
ワタシ:食の好みとかもさ、かなり変わったんだ。
キミ:へえ?かなり偏食だよね?
ワタシ:かなり偏食だったんだけどさ。今では魚も食べるし、なんなら一番嫌いだったしいたけもたべれるようになった。
キミ:え、すごいね。代わりに食べさせられてたのに。
ワタシ:…代わりに食べさせてたの、ほんとごめん。美味しいや、椎茸。
キミ:でしょ?だから言ったじゃん。食わず嫌いなんだって。
ワタシ:歳をとるとさ
キミ:うん
ワタシ:いろんなものが変わるね。
キミ:そうだね、そうかもしれない。案外歳をとることって悪くないことなのかもね。
ワタシ:…悪くないよ、歳をとるのも。
キミ:変わらないこともあるしね
ワタシ:(細く長いため息を吐く)
キミ:例えば、どれだけ年月が経ったとしても名作の映画は名作のまま語り継がれるし。
ワタシ:帰りに、キミの好きな映画でも借りて帰ろうかな。
キミ:悲しくても嬉しくても、歳をとってもとらなくても、ハーゲンダッツのラムレーズン味はいつまでも等しく美味しい。
ワタシ:そういえば今年はまだラムレーズン食べてない。
キミ:キミの事を想うだけで、死んでしまうほうがマシなんじゃないかって思うくらい胸が張り裂けそうで
ワタシ:帰りにラムレーズンを買って帰ろう。そしてラムレーズンを食べながら映画を観るんだ。
キミ:前は楽しいって思えていたことでも
ワタシ:…いつかは乗り越えなきゃならない。
キミ:どうして変わらずにこの気持ちが残ってしまうのか
ワタシ:さ、そろそろ行こうかな。
キミ:…この日だけが永遠に続けばいいのに。
ワタシ:また来年も来るよ。
キミ:また来年も、きっと…来てくれるよね…。
キミ:365日分の1日くらい、わがまま言っても、いいよね…。
ワタシ:ばいばい。
キミ:…ばいばい。