Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

臍帯とカフェイン

「VISIT」(2:0:0)

2020.12.10 11:34

【配役】

ハインスタイン:男性

リッジエル:男性

※演じる方の性別は不問といたします。

(ハインスタインを女性配役で演じる際、神父ではなく、シスターとして言い換えても構いません。)

(またその他、性別変更をした際に生じるセリフの改変は許可いたします。)


リッジエル:8月14日 クエンティン中央刑務所 面会室。

リッジエル:それでは、いまから会話を録音させて頂きます。

リッジエル:まずは取材を受けていただいたことに感謝致します「神父」。ご機嫌は如何ですか。

ハインスタイン:悪くはないね。しかし、いけ好かない。

ハインスタイン:まずはきちんと名前を名乗ったらどうかね?

リッジエル:これは、失礼しました。お詫びします神父。

リッジエル:数多くの取材依頼の中から私を選ばれたとうかがっていたので、てっきりご存知かと思いまして。

リッジエル:私はリッジエルと申します。

リッジエル:私も改めてお名前をお伺いしても?あの、記録の為に。

ハインスタイン:リッジエル。リッジエルリッジエルリッジエル。

ハインスタイン:「ガブリエル・M・ハインスタイン」だ。

ハインスタイン:今日は有意義な時間にしようじゃないか、リッジエルくん。

リッジエル:は、はい。よろしくお願いします。

リッジエル:それでは、まず貴方が今回起こした事件についてお伺いします。

リッジエル:貴方は神父という職業でありながら

リッジエル:38名を殺害した容疑で逮捕され…

リッジエル:その、裁判所から先日死刑を宣告されましたね。

リッジエル:本当に間違いはないんでしょうか?

ハインスタイン:正確には、38名の殺害と、1名の監禁と傷害だ。

ハインスタイン:物事は正確に伝えていただけないかね?リッジエルくん。

リッジエル:・・・・・・一体なぜそんなことを?貴方のような人が。

ハインスタイン:貴方のような人?君は私の何をみて、そう言っておるのかね?

ハインスタイン:それに、それに君はあれだね。

ハインスタイン:夜の経験が無いだろう?

リッジエル:・・・・・・っ。

リッジエル:今は貴方のことを聞かせてくれませんか神父。

ハインスタイン:段階も踏めず、甘いピロートークも無しに女が股を開くとでも?

ハインスタイン:なあ。リッジエルくん。

ハインスタイン:下手したら君は恋人がいた事も無いのではないかね?

リッジエル:私のことをあれこれ詮索するのはやめていただけますか。

リッジエル:質問に答えていただきたい。先に進みません。

ハインスタイン:それとも本当はリッジエルちゃんなのかな?

ハインスタイン:だとすれば呼称はリジー。

ハインスタイン:可愛いくまちゃんのぬいぐるみを抱きながらマザーグースのおとぎ話を聞きながら眠っている。

ハインスタイン:そういう顔をしているね?

リッジエル:・・・質問を変えましょう。答えていただけないようなので。

リッジエル:貴方にとって人を殺すことは何を意味しているんですか。

ハインスタイン:「話を聞いてくれない」

ハインスタイン:「質問が進まない」

ハインスタイン:「時間だけが過ぎる」

ハインスタイン:今、君の心の中はどうなっていたかね?

ハインスタイン:私に向けて、何を考えていた?

リッジエル:貴方はまるで私で暇つぶしでもしているかのようですね。

リッジエル:質問には答えていただけないのでしょうか。

ハインスタイン:最後まで聞きたまえ、リッジエルくん。

ハインスタイン:今君は私に苛立ちを覚えている。違うかい?

リッジエル:(諦めて手帳を閉じます。)

リッジエル:貴方も人の心がまだのこっているようですこし安心しました神父。

リッジエル:私の気持ちを分かってもらえていたとは。

リッジエル:でも苛立ちとは少し違います。

リッジエル:まるで貴方が、私の祖父のようだと。

リッジエル:からかって、はぐらかして、時間だけを引き延ばそうとする。

ハインスタイン:私が最初に言った言葉を忘れたのかね?

ハインスタイン:有意義な時間にしよう、そう伝えたはずだ。

ハインスタイン:……面白い返答をするね。実に良い。

ハインスタイン:ああ、なぜ殺したか、だったかな。

ハインスタイン:君は、日曜日に教会へのミサには行く信仰深い人間だったかね?リッジエルくん。

リッジエル:いえ、残念ながら私はカトリックではないので。

ハインスタイン:そうか。それは「善い事」だ。

ハインスタイン:賛美歌を歌い、聖書を読み、懺悔をし、最後には生を受けたこと。

ハインスタイン:そして主への感謝を言葉にし、クッキーを貰い、家路につく。

ハインスタイン:その、クッキーを頬張る姿が。

ハインスタイン:美しく思えた。

ハインスタイン:それが。一番最初の。エマを殺した理由だよ。

リッジエル:美しいから殺したと・・・?

ハインスタイン:ああ。実に悲しかった。

ハインスタイン:実に儚かった。実に愛しかった。

リッジエル:貴方は他に37名・・・殺害していますが。

リッジエル:殺した理由はみな違うのですか。

ハインスタイン:アルバート・フィッシュ。

リッジエル:え?

ハインスタイン:ヘンリー・リー・ルーカス。

ハインスタイン:ペーター・キュルテン。

ハインスタイン:ジェフリー・ダーマー。

ハインスタイン:アーサー・ショー・クロス。

ハインスタイン:……知っているかね?

リッジエル:まさか、あなたは被害者全員の名前を・・・。

ハインスタイン:ふ、勉強不足だね。リッジエルくん。

ハインスタイン:君は記者歴……一年未満だったね?ならば仕方あるまい。

ハインスタイン:今挙げた名前は、過去五人以上を殺害した「シリアルキラー」の名だよ。

ハインスタイン:彼らは口々に言った。

ハインスタイン:「殺すことに理由などない」……と。

リッジエル:すみません、別に興味がなかったもので。

リッジエル:・・・貴方も彼らと同じだというのですか?

ハインスタイン:「理由など関係ない」と言う話さ。

ハインスタイン:例えば。

ハインスタイン:君は恋人がいた、もしくは誰かに恋焦がれたことはあるかい?

リッジエル:・・・思い出したくありません。

ハインスタイン:では、口に出さなくてもいい。

ハインスタイン:想像してみてくれたまえ。

ハインスタイン:その人のどこが魅力的であったのか。

ハインスタイン:首筋の筋肉の形?

ハインスタイン:それとも暖かく囁くような落ち着きのある声?

ハインスタイン:シナモンアップルパイを大きな口で頬張る姿かもしれない。

ハインスタイン:そして。例えば。今日。

ハインスタイン:リッジエルくん。

ハインスタイン:君はなぜ、

ハインスタイン:どのような理由で、

ハインスタイン:私に取材をしたいと思って、

ハインスタイン:ここに来たのかね?

リッジエル:貴方がどんな人なのか、興味があったからです神父。

ハインスタイン:38人を殺し、そして1人を暴行した、この私を、かね?なぜ?

リッジエル:その貴方だからですよ。

リッジエル:世界中が貴方のことを知りたがっている。

リッジエル:何があなたをそうさせたのか。

リッジエル:皆あなたの話を聞きたがっているんですよ。

ハインスタイン:それはそれは光栄なことだ。

ハインスタイン:しかしそれを人々はこう呼ぶ。

ハインスタイン:「興味」と。

ハインスタイン:「好奇心」と。

ハインスタイン:違うかね?

リッジエル:おそらく、娯楽。でしょうね。

ハインスタイン:その君たちの娯楽と、私が殺した理由に大きな違いがあると思うかね?

ハインスタイン:リッジエルくん。

リッジエル:君たち、なんて纏めないでいただきたいですね、神父。

リッジエル:私は、あなたの殺人を娯楽として待ち望んでいる人達とは違います。

ハインスタイン:本当に?そうと言いきれるかね?

リッジエル:貴方と話す前は確かに、そうだったかもしれない。

リッジエル:でも今は、私は貴方という存在がこの世にいることが恐ろしい。

リッジエル:(リッジエルは、恐ろしいといいつつ神父から目を逸らすことができない。)

リッジエル:貴方は、貴方が先ほど名前をあげた他の殺人犯たちとは違います。

ハインスタイン:(食い気味に。リッジエルの眼を捉えたまま)

ハインスタイン:それがわかるだけ上等だ、実に「善い」よ、リッジエル。

ハインスタイン:地下鉄を待つ時、ホームで並ぶ目の前の酒臭い男の背を押してみたいと思ったことは?

ハインスタイン:スマホを弄りながら近づいてくるヒッピーがそのまま車に轢かれたらいいと考えた事は?

ハインスタイン:SNSで、嫌いな配信者に死ねと書き込んだことは?

ハインスタイン:誰がそれをとめた?理性だ。法律だ。周囲だ。

ハインスタイン:そこに、摂理はない。道徳は要らない。クッキーを割って口に運ぶ必要もない。

ハインスタイン:リッジエル、違うだろう、リッジエル。

ハインスタイン:君は違う。そんな道徳などと言う思考放棄に追従する安っぽい人間ではない。

ハインスタイン:リッジエル、リッジエルリッジエル。

ハインスタイン:君がききたいのは、大衆のためでは、ない。

ハインスタイン:君が広めたいのは、私のスクープでは、ない。

ハインスタイン:リッジエル、先程から口元が緩んでいるのを、

ハインスタイン:君は気づいているかね?

リッジエル:神父。私はこう思うのです。

リッジエル:貴方が人を殺すことに理由はあるのですよ、神父。

リッジエル:私は貴方の祖父のような振る舞い。

リッジエル:美しいと思い、エマを殺したこと。

リッジエル:私に、「貴方の人らしい姿」と「人でない姿」をみせたのはわざとでしょう。

リッジエル:神父。私はもうすこし貴方の言葉を聞かなければいけませんが、

リッジエル:確信に近いものを感じているんです。

リッジエル:貴方は・・・、

リッジエル:貴方は、あなたが感じた「愛」そのままに人を救ったのではないですか?

リッジエル:人は貴方の精神が理解できないから、あなたを死刑にするのです。

リッジエル:酒臭い男の背を押してみたいのが愛だとしたら、

リッジエル:ヒッピーを車に轢かれればいいと考えるのも愛だとしたら、

リッジエル:嫌いな配信者に死ねと描き込むことも愛だとしたら。

リッジエル:貴方が私に取材させたのも、愛だとしたら。

リッジエル:貴方はとても人間なのに、まったく人間ではない。

リッジエル:神父、今のあなたの表情を鏡で見せてあげたい。

ハインスタイン:くく……くっくっく……はっはっはっは!!!!!!

ハインスタイン:(高らかに笑う)

リッジエル:し、神父・・・?私はなにか間違いましたか?

ハインスタイン:エマ、リンダ、マイルストン、メイ、カナート、マチルダ、トマ、ライムス、ダニー、ニック、アリス、キム、ヨウコ、クリストラ、クーペ、チャンドラ、リックソン……

ハインスタイン:全員私の被害者だ。

ハインスタイン:リッジエルくん。いや、リッジエル。

リッジエル:はい。

ハインスタイン:君は「素晴らしい」よ。

ハインスタイン:リッジエル、他に聞いておきたいことはあるかね。

リッジエル:貴方は、裁判の際にこういったそうですね、

リッジエル:「自分はいつでも刑務所から脱獄できる」と

リッジエル:どうするつもりなのですか。

ハインスタイン:そんな事かね。

ハインスタイン:簡単な話だ。

ハインスタイン:「もう、私は脱獄している」よ。

ハインスタイン:リッジエル。

リッジエル:え。(リッジの手は震えている。)

ハインスタイン:「もう、そこに、私はいるだろ?」

リッジエル:……っ!

ハインスタイン:さあ、もう面会時間は終わりのようだよ。

ハインスタイン:看守たちの目が痛い。

リッジエル:ふふ、あなたでもそんなことを考えるのですね。

リッジエル:私も、もっと、人間を愛せるようになるでしょうか。

リッジエル:あなたのように。

リッジエル:……私は人に愛されたことがないのに。

ハインスタイン:それを「証明」してみせたまえ。

ハインスタイン:リッジエル。聖書には書いてあるだろう。

ハインスタイン:まず、隣人を、愛せ、と。

ハインスタイン:(少しの間をあけ)

ハインスタイン:ほら、脱獄できた。

ハインスタイン:もう彼は、人を切り開いてみたくて、堪らない。

ハインスタイン:(静かに、暗く、笑う声でフェードアウト)



※彼方千尋 さんとの合作台本となります。

http://www.chihirokanata.site/

https://twitter.com/Cknkam1