「VISIT」(2:0:0)
【配役】
ハインスタイン:男性
リッジエル:男性
※演じる方の性別は不問といたします。
(ハインスタインを女性配役で演じる際、神父ではなく、シスターとして言い換えても構いません。)
(またその他、性別変更をした際に生じるセリフの改変は許可いたします。)
リッジエル:8月14日 クエンティン中央刑務所 面会室。
リッジエル:それでは、いまから会話を録音させて頂きます。
リッジエル:まずは取材を受けていただいたことに感謝致します「神父」。ご機嫌は如何ですか。
ハインスタイン:悪くはないね。しかし、いけ好かない。
ハインスタイン:まずはきちんと名前を名乗ったらどうかね?
リッジエル:これは、失礼しました。お詫びします神父。
リッジエル:数多くの取材依頼の中から私を選ばれたとうかがっていたので、てっきりご存知かと思いまして。
リッジエル:私はリッジエルと申します。
リッジエル:私も改めてお名前をお伺いしても?あの、記録の為に。
ハインスタイン:リッジエル。リッジエルリッジエルリッジエル。
ハインスタイン:「ガブリエル・M・ハインスタイン」だ。
ハインスタイン:今日は有意義な時間にしようじゃないか、リッジエルくん。
リッジエル:は、はい。よろしくお願いします。
リッジエル:それでは、まず貴方が今回起こした事件についてお伺いします。
リッジエル:貴方は神父という職業でありながら
リッジエル:38名を殺害した容疑で逮捕され…
リッジエル:その、裁判所から先日死刑を宣告されましたね。
リッジエル:本当に間違いはないんでしょうか?
ハインスタイン:正確には、38名の殺害と、1名の監禁と傷害だ。
ハインスタイン:物事は正確に伝えていただけないかね?リッジエルくん。
リッジエル:・・・・・・一体なぜそんなことを?貴方のような人が。
ハインスタイン:貴方のような人?君は私の何をみて、そう言っておるのかね?
ハインスタイン:それに、それに君はあれだね。
ハインスタイン:夜の経験が無いだろう?
リッジエル:・・・・・・っ。
リッジエル:今は貴方のことを聞かせてくれませんか神父。
ハインスタイン:段階も踏めず、甘いピロートークも無しに女が股を開くとでも?
ハインスタイン:なあ。リッジエルくん。
ハインスタイン:下手したら君は恋人がいた事も無いのではないかね?
リッジエル:私のことをあれこれ詮索するのはやめていただけますか。
リッジエル:質問に答えていただきたい。先に進みません。
ハインスタイン:それとも本当はリッジエルちゃんなのかな?
ハインスタイン:だとすれば呼称はリジー。
ハインスタイン:可愛いくまちゃんのぬいぐるみを抱きながらマザーグースのおとぎ話を聞きながら眠っている。
ハインスタイン:そういう顔をしているね?
リッジエル:・・・質問を変えましょう。答えていただけないようなので。
リッジエル:貴方にとって人を殺すことは何を意味しているんですか。
ハインスタイン:「話を聞いてくれない」
ハインスタイン:「質問が進まない」
ハインスタイン:「時間だけが過ぎる」
ハインスタイン:今、君の心の中はどうなっていたかね?
ハインスタイン:私に向けて、何を考えていた?
リッジエル:貴方はまるで私で暇つぶしでもしているかのようですね。
リッジエル:質問には答えていただけないのでしょうか。
ハインスタイン:最後まで聞きたまえ、リッジエルくん。
ハインスタイン:今君は私に苛立ちを覚えている。違うかい?
リッジエル:(諦めて手帳を閉じます。)
リッジエル:貴方も人の心がまだのこっているようですこし安心しました神父。
リッジエル:私の気持ちを分かってもらえていたとは。
リッジエル:でも苛立ちとは少し違います。
リッジエル:まるで貴方が、私の祖父のようだと。
リッジエル:からかって、はぐらかして、時間だけを引き延ばそうとする。
ハインスタイン:私が最初に言った言葉を忘れたのかね?
ハインスタイン:有意義な時間にしよう、そう伝えたはずだ。
ハインスタイン:……面白い返答をするね。実に良い。
ハインスタイン:ああ、なぜ殺したか、だったかな。
ハインスタイン:君は、日曜日に教会へのミサには行く信仰深い人間だったかね?リッジエルくん。
リッジエル:いえ、残念ながら私はカトリックではないので。
ハインスタイン:そうか。それは「善い事」だ。
ハインスタイン:賛美歌を歌い、聖書を読み、懺悔をし、最後には生を受けたこと。
ハインスタイン:そして主への感謝を言葉にし、クッキーを貰い、家路につく。
ハインスタイン:その、クッキーを頬張る姿が。
ハインスタイン:美しく思えた。
ハインスタイン:それが。一番最初の。エマを殺した理由だよ。
リッジエル:美しいから殺したと・・・?
ハインスタイン:ああ。実に悲しかった。
ハインスタイン:実に儚かった。実に愛しかった。
リッジエル:貴方は他に37名・・・殺害していますが。
リッジエル:殺した理由はみな違うのですか。
ハインスタイン:アルバート・フィッシュ。
リッジエル:え?
ハインスタイン:ヘンリー・リー・ルーカス。
ハインスタイン:ペーター・キュルテン。
ハインスタイン:ジェフリー・ダーマー。
ハインスタイン:アーサー・ショー・クロス。
ハインスタイン:……知っているかね?
リッジエル:まさか、あなたは被害者全員の名前を・・・。
ハインスタイン:ふ、勉強不足だね。リッジエルくん。
ハインスタイン:君は記者歴……一年未満だったね?ならば仕方あるまい。
ハインスタイン:今挙げた名前は、過去五人以上を殺害した「シリアルキラー」の名だよ。
ハインスタイン:彼らは口々に言った。
ハインスタイン:「殺すことに理由などない」……と。
リッジエル:すみません、別に興味がなかったもので。
リッジエル:・・・貴方も彼らと同じだというのですか?
ハインスタイン:「理由など関係ない」と言う話さ。
ハインスタイン:例えば。
ハインスタイン:君は恋人がいた、もしくは誰かに恋焦がれたことはあるかい?
リッジエル:・・・思い出したくありません。
ハインスタイン:では、口に出さなくてもいい。
ハインスタイン:想像してみてくれたまえ。
ハインスタイン:その人のどこが魅力的であったのか。
ハインスタイン:首筋の筋肉の形?
ハインスタイン:それとも暖かく囁くような落ち着きのある声?
ハインスタイン:シナモンアップルパイを大きな口で頬張る姿かもしれない。
ハインスタイン:そして。例えば。今日。
ハインスタイン:リッジエルくん。
ハインスタイン:君はなぜ、
ハインスタイン:どのような理由で、
ハインスタイン:私に取材をしたいと思って、
ハインスタイン:ここに来たのかね?
リッジエル:貴方がどんな人なのか、興味があったからです神父。
ハインスタイン:38人を殺し、そして1人を暴行した、この私を、かね?なぜ?
リッジエル:その貴方だからですよ。
リッジエル:世界中が貴方のことを知りたがっている。
リッジエル:何があなたをそうさせたのか。
リッジエル:皆あなたの話を聞きたがっているんですよ。
ハインスタイン:それはそれは光栄なことだ。
ハインスタイン:しかしそれを人々はこう呼ぶ。
ハインスタイン:「興味」と。
ハインスタイン:「好奇心」と。
ハインスタイン:違うかね?
リッジエル:おそらく、娯楽。でしょうね。
ハインスタイン:その君たちの娯楽と、私が殺した理由に大きな違いがあると思うかね?
ハインスタイン:リッジエルくん。
リッジエル:君たち、なんて纏めないでいただきたいですね、神父。
リッジエル:私は、あなたの殺人を娯楽として待ち望んでいる人達とは違います。
ハインスタイン:本当に?そうと言いきれるかね?
リッジエル:貴方と話す前は確かに、そうだったかもしれない。
リッジエル:でも今は、私は貴方という存在がこの世にいることが恐ろしい。
リッジエル:(リッジエルは、恐ろしいといいつつ神父から目を逸らすことができない。)
リッジエル:貴方は、貴方が先ほど名前をあげた他の殺人犯たちとは違います。
ハインスタイン:(食い気味に。リッジエルの眼を捉えたまま)
ハインスタイン:それがわかるだけ上等だ、実に「善い」よ、リッジエル。
ハインスタイン:地下鉄を待つ時、ホームで並ぶ目の前の酒臭い男の背を押してみたいと思ったことは?
ハインスタイン:スマホを弄りながら近づいてくるヒッピーがそのまま車に轢かれたらいいと考えた事は?
ハインスタイン:SNSで、嫌いな配信者に死ねと書き込んだことは?
ハインスタイン:誰がそれをとめた?理性だ。法律だ。周囲だ。
ハインスタイン:そこに、摂理はない。道徳は要らない。クッキーを割って口に運ぶ必要もない。
ハインスタイン:リッジエル、違うだろう、リッジエル。
ハインスタイン:君は違う。そんな道徳などと言う思考放棄に追従する安っぽい人間ではない。
ハインスタイン:リッジエル、リッジエルリッジエル。
ハインスタイン:君がききたいのは、大衆のためでは、ない。
ハインスタイン:君が広めたいのは、私のスクープでは、ない。
ハインスタイン:リッジエル、先程から口元が緩んでいるのを、
ハインスタイン:君は気づいているかね?
リッジエル:神父。私はこう思うのです。
リッジエル:貴方が人を殺すことに理由はあるのですよ、神父。
リッジエル:私は貴方の祖父のような振る舞い。
リッジエル:美しいと思い、エマを殺したこと。
リッジエル:私に、「貴方の人らしい姿」と「人でない姿」をみせたのはわざとでしょう。
リッジエル:神父。私はもうすこし貴方の言葉を聞かなければいけませんが、
リッジエル:確信に近いものを感じているんです。
リッジエル:貴方は・・・、
リッジエル:貴方は、あなたが感じた「愛」そのままに人を救ったのではないですか?
リッジエル:人は貴方の精神が理解できないから、あなたを死刑にするのです。
リッジエル:酒臭い男の背を押してみたいのが愛だとしたら、
リッジエル:ヒッピーを車に轢かれればいいと考えるのも愛だとしたら、
リッジエル:嫌いな配信者に死ねと描き込むことも愛だとしたら。
リッジエル:貴方が私に取材させたのも、愛だとしたら。
リッジエル:貴方はとても人間なのに、まったく人間ではない。
リッジエル:神父、今のあなたの表情を鏡で見せてあげたい。
ハインスタイン:くく……くっくっく……はっはっはっは!!!!!!
ハインスタイン:(高らかに笑う)
リッジエル:し、神父・・・?私はなにか間違いましたか?
ハインスタイン:エマ、リンダ、マイルストン、メイ、カナート、マチルダ、トマ、ライムス、ダニー、ニック、アリス、キム、ヨウコ、クリストラ、クーペ、チャンドラ、リックソン……
ハインスタイン:全員私の被害者だ。
ハインスタイン:リッジエルくん。いや、リッジエル。
リッジエル:はい。
ハインスタイン:君は「素晴らしい」よ。
ハインスタイン:リッジエル、他に聞いておきたいことはあるかね。
リッジエル:貴方は、裁判の際にこういったそうですね、
リッジエル:「自分はいつでも刑務所から脱獄できる」と
リッジエル:どうするつもりなのですか。
ハインスタイン:そんな事かね。
ハインスタイン:簡単な話だ。
ハインスタイン:「もう、私は脱獄している」よ。
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:え。(リッジの手は震えている。)
ハインスタイン:「もう、そこに、私はいるだろ?」
リッジエル:……っ!
ハインスタイン:さあ、もう面会時間は終わりのようだよ。
ハインスタイン:看守たちの目が痛い。
リッジエル:ふふ、あなたでもそんなことを考えるのですね。
リッジエル:私も、もっと、人間を愛せるようになるでしょうか。
リッジエル:あなたのように。
リッジエル:……私は人に愛されたことがないのに。
ハインスタイン:それを「証明」してみせたまえ。
ハインスタイン:リッジエル。聖書には書いてあるだろう。
ハインスタイン:まず、隣人を、愛せ、と。
ハインスタイン:(少しの間をあけ)
ハインスタイン:ほら、脱獄できた。
ハインスタイン:もう彼は、人を切り開いてみたくて、堪らない。
ハインスタイン:(静かに、暗く、笑う声でフェードアウト)
※彼方千尋 さんとの合作台本となります。
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