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Pink Rebooorn Story

第1章 その10:「今日からがん患者」

2016.09.04 06:06




 金曜日、針生検の結果を聞くために、私たちはクリニックにいた。




 「痛みは落ち着きましたか?」

 先生は私にそう訊ねた。

 その言葉を使って「気持ちの整理はついたか」ということを私に確認してくれているかのようだった。先生の表情はこの前と同じように優しかった。

 「あまり気にしないようにしていました」と私は嘘を言った。

 先生の様子が非常に穏やかだったので、(結果、良いものだったのかも…!)と、私は内心、期待をしてしまっていた。そして先生の次の言葉を待った…。




 「がん細胞が見つかりました。」




 それをその場で聞いていたのは、私と、夫と、母。

 私たちは静かにそれを受け止めた。

 私は、荒ぶる本心を捨てて、その場所に準備してきた感情を置き換えた。この時には、涙は出なかった。今まで悔しさで一生分の涙を流して、もう一滴も残っていないような感じだった。




 「今日からがん患者。」と、乾いた心でそう思った。




 「乳がんステージⅡb、大きさ4.3センチ」




 (※1週間後、K病院で改めて検査した結果、4.7センチだった。たったの1週間で0.4センチも大きくなるなんて、驚異の進行スピードらしい。後に判明するKi67(※)は信じがたいほど高い数値だった。)

 先生の説明によれば、ステージⅡというのは、腫瘍のサイズが2.1〜5cmのことを示すとのこと。5センチ以上になると、ステージⅢとなる。

 そして、その後に示されている「b」というのは、「リンパ節への転移がある」ということを示すらしい。私のリンパ節には少し腫れが見られるということだった。




 左胸の痛みは慢性化してきており、わきの下にもジンジン、ピリピリとした痛みが広がるようになってきていた。痛みを感じるたびに、しこりが大きくなって、浸潤(しんじゅん※)・転移しているんじゃないだろうかと不安になった。しこりは、石にかぶせた布を上から触っているような、異常な硬さだった。




 転移。先生は、そのことについては、特段の補足説明をしなかった。何かもう一つ、言いたそうにしていることがあるような気がしたけれど、その後の説明としては、このあとの私の治療はK病院にゆだねられるということだけだった。




 (無視した胸の検診結果が、まさかがんだったなんて、誰が思うだろうか。)

 (あの時は子宮の手術でそれどころじゃなかったんだ…。)

 (でも、あの時に、きちんと胸の精密検査も受けていれば。)




 過去を振り返り、そこに後悔の素材を見つけては、自分への言い訳作りに躍起になっている自分がいた。

 そして、同行してもらっていた夫と母親に対して、また病気になってしまって申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。




 2015年5月22日。その日から私は、ステージIIbのがん患者になった。














※ このストーリーを読んでくださっているすべての方へ

乳がんの早期発見はとても大切なことです。発見が早いほど、治療や手術方法の選択肢が増え、乳房温存など、自分の希望する方法を医師と相談して決めることができます。日本人女性の12人に1人が乳がんになるといわれています。面倒くさがらずに、ぜひ、検診を受けてください。