Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

コミュニティベーカリー 風のすみか 原材料一つ一つの物語 ②

2020.12.15 12:11



ABOUT  /  コミュニティベーカリー風のすみか



「コミュニティーベーカリー 風のすみか」では、すべてのパンに天然酵母の“AKO酵母”を使用して、保存料・添加物は一切使用せず、ゆっくり発酵させ、手間を惜しまず美味しいパンをつくることを大切にしています。

(コミュニティベーカリー風のすみかHPより抜粋)


ジブリの森美術館にほど近い、協同ネット法人本部一階には「コミュニティベーカリー風のすみか」というパン屋があります。

「赤ちゃんからご年配の方まで、毎日のように食べられるパンを食卓に届けられるように」というコンセプトで、すべてに「天然酵母」「国産小麦」「国産のライ麦」「無農薬野菜をつかった自家製の具材」を使用しているこのパン屋には、連日小さなお子さん連れのお母さんや多くの家族連れが訪れ賑わっています。


地域のお宅やお店、保育園などにパンを配達もし、地域の中で安心安全なパンを中心に人が繋がれるパン屋。『コミュニティベーカリー』というネーミングの通りですが、実は、この名前には他にも理由があります。

「風のすみか」は、2004年に「若者が働く体験ができる場所をつくりたい」という呼びかけにより、地域や全国から想いに賛同していただいた方々から協賛金を募り設立しました。ですから、厨房では若者やスタッフの他に、今でも地域のお母さんたちが協力し、あんこやカレーなど中の具材も全て手作りしてくれています。


若者たちはここで働くことで、働く仲間や職人、スタッフの他に、地域のお母さんやお客さん、保育園の子どもたちなど、多くの地域の人たちと出会います。

安心安全なパンを通じて多くの人たちに出会いながら、自分の仕事がちゃんと人に届く経験を積み重ね「今の自分で働いていける」という気持ちが持てるようになっていきます。



すべてに「天然酵母」「国産小麦」「国産のライ麦」「無農薬野菜」というこだわり



「風のすみか」は、今年で設立16年となりますが、同じ法人で働く私自身、「風のすみか」が「安心安全な材料だけをつかっているパン屋」という認識はありながらも、一つ一つの材料に隠された物語までは正直知りませんでした。


今回のインタビューにより、ここで働く若者たちにとって、この物語の一つ一つや職人のこだわりにパンを通じて毎日触れること自体もしっかり教育力に繋がっているのだと考えるに至りました。


今回は、法人が運営する「コミュニティベーカリー風のすみか」の工房長である矢口と、若者たちの研修を担当している廣瀬にインタビューを行います。


「上野さんのライ麦」との出会い



丸山:「風のすみか」と「上野さんのライ麦」との出会いを教えてください。


矢口:パン屋を立ち上げた当時に(ハードパンをすべて国産小麦で作ろうと考えていたから)「ライ麦パンも国産のライ麦で作りたい」と言う話から始まっている。


しかし国産のライ麦というのはなかなかなかった。


「とにかく国産でハードパンを作りたい」と、探したところ、国産で無農薬でやっているという上野さんが作っている唯一のライ麦を見つける。

そこで、直に上野さんに(当時の職人たちが)会いに行き、話を聞きに行った。


上野さんは、最初「ルヴァン」(東京都渋谷区の天然酵母の草分け的な存在)の専務に依頼され、共同開発で日本唯一の国産のライ麦をつくった。


だから最初はさ、上野さんに「ルヴァンが良いって言わないと譲れない」と言われてしまうんだよ。

そこで、ルヴァンにも行き「単なるパン屋でなく、こういう挑戦をしてる」とか「メンバーを連れて行き、若者と創っている特別なパン屋なんだ」という話をして「じゃあ譲るよ」という話をいただいて、やっと今に繋がってる。


しかも、「風のすみか」では、上野さんのライ麦は粉にする前の状態で受け取り。若者たちは、ライ麦を毎回ひいて製品にしている。ここまでしているところはなかなかないだろうね。





廣瀬:「国産のライ麦がないから作ってくれ」と直談判されて作り始めたってすごいよね。

この手紙が毎回「ライ麦」や「いろいろ米」(風のすみかにて販売している無農薬のお米)とともに届くんだけれど、この想いに感動する。

(裏表に紙いっぱいにびっしりと書かれたその手紙には、ライ麦やいろいろ米を育てている日々の苦労や葛藤が記されている。ライ麦パンを食べるときには、この上野さんの物語や想いを一緒にいただいてるのだと感じる)


そんな上野さんとのご縁もあって、いろいろ米も「風のすみか」で売らせてもらっている。

上野さんは元々コメ農家の人。「上野さんが無農薬のいろいろ米を作っているんだ」「じゃあ、コンセプトが合うからうちでも売らせて欲しい」と依頼をして、ずっと売らせてもらっている。


無農薬のお米なんて、とても贅沢だよね。先日「娘がこれしか食べなくて」と言って買ってくれるお母さんがいたよ(笑)。





上野さんの「ライ麦づくり」



〈自然農の勉強会で一緒だった方より帰りの車中で「上野さん、パン用のライ麦を作っておられる人知りませんか?」と尋ねられまして「牛の飼料用のライ麦は作っておられる人はしっておりますが、パン用のライ麦は知りません」と返答したところ「では上野さんライ麦をつくって頂けませんか?」と頼まれ(中略)「作ります」と即答しまして、ライ麦栽培に取り組み始めました。(中略)草丈が2メートル以上、倒れることで我が家の収穫作業機、自脱型コンバインは故障の連続。収穫ロスも多く、収穫作業に7月の暑さも加わり想像を絶するものでした。でも何とか収穫してパン屋さん(ルヴァン)に納品。国産のライ麦が欲しかったと喜ばれ、初めて心通わせる野良仕事が実現、嬉しかったです。〉


〈ライ麦作りを通じて、色々な出会いがあったんですよ。ルヴァンのオーナー・甲田さんはそのひとり。忘れられないのが、甲田さんに言われた言葉「目的は平和、美味しいパンは、平和をつくるための手段で、目的じゃない」自分への農への向き合い方を問われた気がしてショックでした。(後略)〉


『上野長一といろいろ米のものがたり』水谷正一著より




上野さんのライ麦は上野さんの苦労と努力と誠実さでできている


小さな「コミュニティベーカリー風のすみか」というパン屋には、10年近く同じ法人に勤めている私の想像をはるかに超えた沢山の物語と想いが詰まっていた。