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難しい方でも妊娠を!…その②

2016.09.06 06:09


みなとみらい夢クリニック院長 貝嶋弘恒先生のお話 
『i-wish ママになりたい 体外受精の現状と安心と安全』より


不妊治療は時間との勝負! 患者さんごとに最適な治療法を見つけて的確な治療をすることで良い結果へ結びくのです




hCGがつくる悪い周期  

 また、hCGもよくありません。hCGは、LHとよく似ていることから卵胞を成熟させ、排卵を促進する目的で、また、黄体ホルモンを補充することからもよく用いられます。これが、新しい周期の卵胞発育を邪魔してしまうことになるのです。

  体外受精では、大きく育った卵胞から採卵しますが、中等度サイズ以下のものは採卵をせず、そのまま卵巣に残します。小さな卵胞は退縮して体に吸収されますが、中等度サイズの卵胞はhCGによって退縮できなくなり、次周期に持ち越され遺残卵胞になってしまいます。

 遺残卵胞は、新しい周期にエントリーされた卵胞と一緒に、また育ち始めます。そこで問題となるのは、遺残卵胞の方が先に成長し、本来の卵胞の成長を妨げてしまうことです。一人前にE2も分泌しますので、ホルモン数値的にも十分に成長したと判断されますが、実は、そのホルモン値は遺残卵胞のもの。しかし、成長した遺残卵胞からは妊娠に適した卵子を得ることはできません。そのため、遺残卵胞を作ってしまった周期には妊娠することは叶わず、それ以降も同じ方法を繰り返した場合には、遺残卵胞を作り続ける周期が繰り返されることになってしまうのです。


 薬が使えないことも… 

 遺残卵胞は、hCGが作り出すもの。それ以降の周期を悪い周期にしてしまい、これを修正し、もとの周期に戻すのは大変なことです。例えば、ピルを使用して月経を止め、遺残卵胞を消す方法もありますが、ピルを使用できる卵巣機能があれば、まだいい方です。年齢が高く、卵巣機能が低下している方は、ピルが使用できないケースもあります。

 その場合には、遺残卵胞のなくなる周期まで、何周期かを見送らなければなりません。ところが、40才を超えていると、その時間は大変惜しいのです。


 卵巣を強く刺激する方法で発展してきた体外受精だが

  自然な妊娠は、1個の卵子で成立しています。初期の体外受精も、自然周期でした。当時の自然周期体外受精で一番困ったのは、採卵手術の際にすでに排卵済みのケースがあり、卵子が確保できないことにありました。

  そこで、採卵時期をコントロールしやすくするために、排卵を抑制することが必要となったのです。また、採卵手術の際、卵子確保の効率の悪さから排卵誘発剤を使用して多くの卵胞を育て、多くの卵子を確保することが考えられ、実践されてきました。そして、胚培養技術、環境が安定しない中、妊娠率を上げるために複数個の受精卵を移植することで体外受精は発展してきたわけです。

  一方でリスクも大きく、多胎を増やし、母子を命の危険にさらすこともありました。私も周産期に携わっていた時期には、体外受精による双子や三つ子、四つ子の出産もありました。胎児数が増えれば、命の問題、そして障害を持つ可能性も高くなります。その現状を深く知るだけに、避けなければならないという意識が強く働いています。

  今は、強い薬で排卵を抑制しなくても、多量の排卵誘発剤で卵胞を育てなくても、複数の胚を移植しなくても、1個の卵子、1個の受精卵、1個胚移植で十分な妊娠率が得られるように医学的にも技術的にも発展してきているのです。


 人は、1個の卵子で妊娠できる 

 多くの卵子を採る、多くの受精卵を移植するという数で勝負してきた体外受精から、質で勝負をする体外受精にかわらなければならない時がきていると考えています。

  早期排卵を抑制し、多くの卵胞を育てる体外受精は、確かに医療者側にとっては大変都合のいい治療方法です。なぜなら、採卵日を都合良くコントロールすることができ、人手の少ない夜、土日などをはずして採卵手術日を決めることができるからです。しかし、自然周期ではそうはいきません。今でこそ、ホルモン値を診る、卵胞サイズを診ることから排卵済みのケースは少なくなりましたが、採卵日を自分に都合のいいようにはコントロールはできません。ですから、医療者にとっては、とても手間のかかる方法です。 

  当院は、約半数の治療周期が誘発剤を使用しない方法での採卵になります。完全なドラックフリーではなく、採卵はGnRHアゴニストを使用していますが、卵胞を育てるのは自力です。人は1個の卵子で妊娠できる力をもともと持っているわけですから、必要以上に卵子を確保したり、薬で助けることはなく、結果、リスクも少ないのです。ただし、国内の90%以上の治療施設は薬を使って卵子を確保しようとする方法で、それが主流なのです。誘発せずにGnRHアゴニストだけで採卵という方法を主にしているのは、おそらくここだけではないかと思います。 


難しい方でも妊娠を!…その①
難しい方でも妊娠を!…その③ 


 みなとみらい夢クリニック院長 貝嶋弘恒先生のお話
 2014年5月 『i-wish ママになりたい 体外受精の現状と安心と安全