木を使ったみんなに優しい歩道(その1)
視覚障害者の方々は歩行される際、大きな情報源として路面に敷設された黄色い視覚障害者誘導用ブロックを用いています。しかし、この誘導用ブロックだけを頼りに、十分に安全な歩行ができるとはいえません。もし、雑多な屋外で誘導用ブロックから逸れてしまった場合、多くの空間情報があふれるなかで、誘導用ブロックを発見するのはとても大変です。誘導用ブロックを発見できずに誤って車道に飛び出してしまったら、非常に危険です。
一方で、視覚障害者の方々は、日常生活において聴覚を重要な情報源にされています。聴覚情報をもとに周囲の環境を頭の中に描き、メンタルマップを作り出します。白杖で周囲の物体を叩いたり擦ったりすることで生じる音により、空間を把握することができます。
研究会では、会長である工学研究院の樋口准教授を中心に、この「音」による空間の把握に着目して、視覚障害者の方々の歩行を安全に支援する木製の歩道舗装を開発しました。これは、屋外の一般的な舗装材料であるコンクリートやアスファルトと音響特性が全く異なる木材を舗装に用いることで、視覚障害者が白杖で叩いたときに発生する音の違いにより、空間を把握していただくものです。歩道の舗装が木材であると、車道や境界ブロックの素材であるアスファルトやコンクリートとの音の違いを認識しやすく、車道への飛び出しを防止する効果が期待できます。
九州大学伊都キャンパスに実装した総延長18mの試験歩道では、42名の視覚障害者の方々に協力いただいて歩行実験が実施されました。実験において、アスファルト舗装の歩道からは車道に飛び出してしまう方がいらっしゃいましたが、木製舗装の歩道から車道に飛び出した方はいませんでした。車道への飛び出し防止機能が確認されたこの木製歩道は、実証実験を終えて、公共空間での社会実装の段階に入っています。
九州大学伊都キャンパスに実装された木製バリアフリー歩道
<開発メンバー>
九州大学工学研究院 樋口明彦
九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 羽野暁
国土交通省寒地土木研究所 榎本碧
九州大学景観研究室