”save the どん平” と荒川・尾久の旅
世間では、”安玉”と言えば「安全地帯」の玉置浩二を指すらしい。
でも私の中では断然、女優・安藤玉恵さん!
「切断」より©️塚田史香
三浦大輔主宰の劇団「ポツドール」の元看板女優であり、NHK朝ドラ「あまちゃん」で北三陸観光協会の職員・栗原しおり役でお茶の間でもすっかりお馴染みに。私的には、彼女の芝居にガツンとやられたのが山下敦弘監督『松ヶ根乱射事件』(2006)。閉鎖的な田舎町で、断る術を知らずに男たちに弄ばれてしまう無垢な女性・春子役を演じていて、そのリアルさに芝居であることを忘れてしまったほど。今や舞台はもちろん、映像の世界でも欠かせないバイプレーヤーです。
そんな彼女の実家は、下町の東京都荒川区西尾久にある、とんかつ店「どん平」。
©️どん平
1950年創業で、あの「孤独のグルメ」の井之頭五郎もSeason3の第10話で訪れた名店です。番組内で五郎さんはもう一つの名物・酒鍋(豚しゃぶしゃぶ&寄せ鍋)を堪能。さらに半とんかつと麦とろのミニセット定食を追加注文しました。相変わらず昼から食べ過ぎの五郎さんですが、それだけ箸が進んでしまったということですね。
なのに、なのに、コロナ禍の影響で酒鍋コースのある宴会の予約は入らず、ピンチに。そこで安藤さんが立ち上がりました。2階のお座敷を活用したとんかつ弁当付きの安藤さんの一人芝居公演を。題して「SAVE THE どん平 安藤玉恵による”とんかつ”と”語り”の夕べ」。
11月30日の夜に行われた第4回の夕べに行って参りました。
演目は劇団「地蔵中毒」の大谷皿屋敷さん書き下ろしによる「切断」。あの大島渚監督『愛のコリーダ』でも描かれた阿部定事件がテーマです。実は事件が起こった待合「満佐喜」
があったのが尾久。性交中に亡くなった愛する男性の性器を切り取って、持ち帰った猟奇事件として語られがちですが、当時の状況と阿部定の心情を独自の解釈で尾久出身の安藤さんが再現するという趣向です。
「切断」より©️塚田史香
「切断」より©️塚田史香
いやぁ、何がいいって、事件ゆかりの尾久で、お座敷で見るという風情。さらに観戦予防対策を鑑みて観客は24人限定です。こんな間近で名女優の熱演を観劇できるという贅沢なひととき。さらにこの日は上映後にゲストの落語家・立川志の春さんとのトーク付き。志の春さんも阿部定をテーマにした阿部定物語「定吉二人キリ」を上演しており、事件の裏話も飛び出した。その中でも語られていましたが、定本人が映画にも出ているんですね。それが石井輝男監督『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』(1969)で、インタビューに応じています。
しかし1960年(昭和35年)に起こった事件なのですが、いまも多くの人を魅了している様子。なんと12月22日午後9時放送のNHK BS 「アナザストーリーズ 運命の分岐点」で「阿部定事件 〜昭和を生きた妖婦の素顔〜」として取り上げられることが決定。安藤さんも番組に登場するそうです。
さて、上演後は店舗1階でとんかつ定食(ワンドリンク付き)をいただきました。これがまたびっくり。初めて出会った食感と味。
©️どん平
角煮のように一度煮込んだ豚を揚げており、さらにデミグラスソースがかかっているのです。口に入れた瞬間、お肉がほろっと崩れて、甘い肉汁が広がっていく。歯が悪くてとんかつを諦めていた人もこれならOKでは? この唯一無二のとんかつを提供している「どん平」を守らなアカンでしょ。公演は不定期開催でSNSなどでで次回公演をお知らせしているので、SAVE THE どん平!にご賛同いただける方、安藤さんの芝居を間近で観劇したい方はぜひチェックを! 問い合わせ先はantama.tonkatsu@gmail.com
ちなみに東京観光としても楽しめる事ウケアイ。最寄駅は都電さくらトラム(都電荒川線)の宮ノ前駅。どん平のある宮前商店街には、安藤さんのご親戚が営んでいる「ちいさなピザ屋」に、こんなレトロな甘味処に
夜に一際輝く喫茶&スナック「ニュー木の実」も。
安藤玉恵という超個性的な女優がいかにして育まれたのか。この街に来てちょっとだけ理解できたような気がします。