電気ウナギならぬ発電細菌が拓く未来
20年前に「電気をつくる細菌がいます!」などと言っていたら、かなり白い目で見られたはずです。しかし最近では、電気をつくる細菌はよく知られるようになり、「電気微生物学」なる研究分野まで確立されています。近年のクリーンエネルギーに対する関心の高まりから、微生物発電も注目を集めています。
微生物(細菌)を利用した発電装置は微生物燃料電池と呼ばれ、微生物が燃料(主に有機物: 有機物とは炭素を含む化合物。たとえば炭水化物、脂肪、蛋白質など)から電子を取り出すための触媒として用いられます。微生物は様々な有機物を分解できる能力を持っているため、化学触媒では分解できない多種多様な物質、材料から電気を作り出すことができます。
私たち人間を含む生物は、有機物を酸化し(食べ物を取り入れ燃やしている)、酸素を還元(酸素に電子を渡している)することで生きるために必要なエネルギー(ATP)を得ています(呼吸、代謝反応)。電気をつくる微生物では、酸素のような化学物質の還元反応ではなく、導電性固体(体外の金属)にそのまま電子を捨てる能力を持っています。
シュワネラ菌などの電気をつくる微生物(発電細菌)は、様々な有機物(例えばゴミや廃水に含まれる有機物)を酸化分解し発電を行うことができます。そのため、省エネルギー・創エネルギー型の新しい廃棄物・廃水処理技術への利用も期待されています。その新技術は微生物燃料電池と呼ばれ、現在実用化にかなり近い段階まで研究開発が進んでいます。
実は、この発電する細菌は、土の中や海の底、私たちの体内など、地球上のいたるところにおよそ100種類程度います。これらの細菌による発電を利用すれば、バッテリーのない環境の中でも、半永久的なエネルギー源として活用できる可能性が注目されています。
生物界では持ちつ持たれつの共生が重要ということでしょうか、2015年に驚くべき研究成果が発表されました。なんと発電とは逆に、電気を利用して生きている細菌も見つかったのです。つまり、電気エネルギーを利用して、有機物をつくる微生物の存在が世界で初めて明らかにされたのです。
電気を食べて、二酸化炭素からアミノ酸と糖を作って成長や増殖ができるこの菌は、鉱山などにいることでよく知られている「鉄酸化菌」でした。この細菌は、最近ではパイプラインの鉄から電子を引き出し、腐食に関与することも分かってきました。もしかしたら、電子を与える発電細菌をパイプラインに共存させたら、腐食は防げるかもしれません。
海底には熱水噴出孔とよばれる地下から熱水が噴出している場所があり、生命のゆりかごにもなっていますが、最近の調査で、熱水噴出孔は燃料電池のように常に電気が流れていることが明らかになっています。そうすると、発電する細菌、電子を利用する細菌が共に存在し、共生して生命活動を営んでいる可能性もあります。
私達の腸内細菌にも発電細菌がいることが分かっていますが、もしかすると電気を利用する菌も腸内に存在し、両方の菌が腸内環境を保つのに役割を果たしているのかもしれません。腸内も熱水噴出孔と同様、生命のゆりかごかもしれません。腸、大切にしたいですね。 (by Mashi)
電気がなかった時代の大切なエネルギ-源だった炭を詠んだ小林一茶の句
・炭くだく手の淋しさよかぼそさよ
参考文献:1) Atsumi Hirose et al., Electrochemically active bacteria sense electrode potentials for regulating catabolic pathways. Nature Communications volume 9, Article number: 1083 (2018) 2) Tanaka K et al., The endogenous redox rhythm is controlled by a central circadian oscillator in cyanobacterium Synechococcus elongatus PCC7942. Photosynth. Res. (2019) 142:203-210.