木製灯籠の修理と調査
最近、貴重な「神殿型木製灯籠」を入荷しました。
入荷時は、障子紙が剥がれ埃塗れでした。釘は錆び、台の板が外れ掛かっていました。
とりあえず全体を水洗いして、痛んだ部分の修理をする事にしました。
全体のサイズは、
高さ38.5センチメートル
屋根幅29.5センチ
屋根の奥行き31センチメートル
で、台の部分は、
高さ8.25センチメートル
横幅17.5センチメートル
奥行き18.5センチメートル
です。
更に、屋根の上部には、吊り下げ用の針金が取付けられています。
全体の風化状態を見ると、昭和初期以前の灯明だと思われ、神殿型であることから行灯(あんどん)ではなく、神社仏閣等に関係する灯籠であろう と思います。
神様をお祀りする社(やしろ)に置かれた灯明(灯籠)の可能性が強く、色々灯籠の種類を調べてみましたが、結局、明確な結論には至りませんでした。
しかし、貴重な民俗文化資料ではないか と思っています。
ろうそくは、後から立てたものですが、床板には火で焦がした痕があります。
屋根の内側にも、ろうそくの火で焦がした痕があります。
正面の扉は取り外しが出来、内側に障子紙の痕が残っていました。
底の裏側を見ると精巧に作られ、今でも神具製造されていそうな規格品的要素も感じます。
板が腐食していたため、慎重に修理しました。
障子紙を貼ると、元の姿に修復されました。
ろうそくで焦がした床には、とりあえずアルミ箔を敷きました。
非常に味わいがある灯籠に生まれ変わりました。
私は、この灯籠について、秋葉山信仰に関係する灯籠ではないか?と思っています。
浜松市天竜区春野町にある秋葉神社は、火防の神様として江戸時代から参拝信仰のブームになりました。
県西部やその周辺地域では、参拝者の道しるべに「秋葉山常夜灯」が各所に立てられ、今尚、文化の名残に石灯籠やお堂(常夜灯)が残っています。
町内によっては、部落(町内)の代表者が秋葉神社に参拝して御札を貰い、各戸に配付して台所に貼っている風習が残っている場所があると思います。
私の町内でも、つい最近まで行なわれており、通称「秋葉さん」と呼ばれて親しまれた「小型でお堂形式の常夜灯」を各戸に回し、毎晩、当番の家が灯火する風習が続いていました。
最近では高齢化等で「秋葉さん」の引き継ぎが負担になる当番が増え廃止になりました。
ちょっと調べたところ、正式名称は「秋葉山常夜箱」と言う様ですが、私がこの灯籠を見掛けた時、「秋葉さん」の風習が有ったのを思い出しました。
諺に、「秋葉山から火事」と言う戒めもある様です。
それは「戒めるべき立場の人が自ら過ちを犯すこと」を例えにした教えとの事です。
今回入荷した神殿型灯籠にも、危うく火災を起こしそうな焦げ痕があったりするので、これが県西部又はその周辺地区の風習で使用された「秋葉さん(秋葉山常夜箱)」ではないか?と考えています。
或いは、この灯籠が元々の規格品であったならば、その様に「秋葉さん」にも成るし、他にも神様をお祀りするお堂(社殿)の灯明にも利用できる神具だと思います。
私達がこの令和時代に、消息しない新型コロナウィルスの恐怖に晒されているのを考えると、先祖の願い(信仰や風習)に共感できるものがあると痛感します。
今回入荷した灯籠が「秋葉山常夜灯(箱)」とは断定できませんが、用途が何であれ当庵の何処に置いても魅力ある文化の証(あかし)だと考えています。