産婦人科をホームドクターに…その①
三軒茶屋レディースクリニック院長 保坂猛先生のお話
『i-wish ママになりたい 40歳からの不妊治療』より
患者さんにとってまだ敷居の高い不妊治療!
早期治療を呼びかけるだけでなく 婦人科がもっと身近な存在になれたら…
三軒茶屋レディースクリニック院長
保坂猛先生
画一的な治療ではなく 状態に合った方法を
■40歳前後になると妊娠率が低くなるのは、どのような背景があるのでしょう?
30代後半になると卵子の数が少なくなって来るのは周知の通りかと思いますが、残っている卵子も質が悪くなると言われています。それが妊娠率の低下につながると考えられます。
それからもうひとつ、20代、30代が妊娠に適した身体だとすると、加齢とともに段々、女性の身体自体が妊娠しにくい状態になってくることもあります。たとえば子宮筋腫や子宮内膜症といった疾患は加齢に伴って増えてきますから、それも妊娠を妨げる一因になります。それだけでなく、妊娠した場合での妊娠中の合併症も増えてくる結果になります。
このような女性の年齢と妊娠についての関心は、最近になって高まっていますから、年齢について気にされる患者さんも増えてきたように感じます。 ただ、高年齢だから何もできないというわけではありませんから、まずはどのような方法が考えられるのか、その方法を探しましょうと患者さんご夫婦にお伝えします。
高年齢の方に対しては、ときにネガティブな事実も伝えなければならないこともありますが、事実を伝えることで治療がよりスムーズに進むようになります。
大切なのは、その方に合った説明の仕方です。
人それぞれの人生の中で、いろいろな事情や選択があって、そして40歳を迎え、40歳を過ぎ、そこに不妊ということが出てくるのです。
その場合、どのような治療が考えられて、通院はこのようになり、結果、どのくらいのことが期待できるのか、逆に難しい点はなにか等々、しっかり伝えることで患者さんも理解していきます。
その時に、患者さんそれぞれ個人差がありますから、そこで、高年齢だからこの方法だけというような画一的な治療をするのではなく、より細やかに方法を考えていきましょうということです。高年齢化とともに卵巣の機能は下がってきますから、一般的には弱い刺激で治療をしたほうが良いのですが、人によっては強い刺激のほうが期待できる場合もあります。ただ言えることとして、高年齢になると「体外受精」という話になることは多いです。
ARTでダメなら終わり…
体外受精は最後の砦?
■年齢を考慮して最初から体外受精を希望される方が多いのですか?
なかには最初から体外受精を希望される方もいらっしゃいますが、それよりも「体外受精をする前にできる治療はないですか?」と言われる方が多いですね。みなさん、年齢に関係なく、できることなら自然に妊娠したいという気持ちがあるものです。
体外受精に関しては、経済的な面で気にされる方もいますが、患者さんの様子から、体外受精=刺激の強い薬をたくさん使って、できるだけ多くの卵を採るために排卵誘発をする、結果、身体はどうなる? 将来どうなる? といった不安も少なくないように感じます。ですから、説明をするときにも「刺激周期ばかりでなく、低刺激や刺激、あるいは薬を一切使わずに自然な状態だと、こういう結果が考えられます」というケースが結構ありますね。そうすると「少し薬を使ってみようかな」とか、具体的なことが患者さん自身、見えてくるようです。
つまり、患者さんにとって「体外受精」というのは、まだまだ重いキーワードなんだと感じます。
それから、「体外受精をしてもダメだったら、もう子どもはあきらめなければ…」と言ってくる方や、「体外受精を何回やって妊娠しなかったらお手上げですか?」と聞いてくる方もいます。
アメリカなどでは卵子提供が進んでいますから、何度か体外受精をしても妊娠にいたらない「卵子提供を利用してはどうですか」と勧めたりしますが、日本はそういう環境ではありません。したがって、体外受精が最後の砦であり、できるまで繰り返すこととなり、結果、回数はどうしても多くなりがちです。
ただ、体外受精と回数に関しては非常に不確定な要素もあります。卵巣の周期はさまざまで、良い場合は、突然、妊娠に結びついたりします。
そのため、妊活や治療をはじめられて短期間のうちに妊娠するケースもあります。
あとから振り返ってみても、「これを準備したからよかった」というような要因は見えないのです。
考えられることとしては、まだ良い周期が残っているということなのでしょう。
それが、毎月でなく、年に1回でもあり、そのときに妊娠に結びつくのでしょう。そのようなことから、「体外受精は○回で終わり」という話ではなく、チャンスとの出会いを考え、「少ないチャンスを逃さないことが大事になってくる」と患者さんにはお伝えします。
本人の希望を尊重した治療も大事…。
結果を求めて努力するのが医師の役目!
■年齢を考えると、基本は短期集中で治療をするということでしょうか?
年齢的に余裕がないと、「毎月が勝負」という感じになりがちで、少ないチャンスをいかに活かすかという点に目がいきがちなのは確かです。ただ、そうなると患者さん自身、急かされているというか、追い詰められるような感覚になりかねません。その結果、どうしても治療を受ける気持ちになれなくて何周期か治療をお休みする方も出てきます。プレッシャーやストレスがかかるんですね。
そして数ヵ月後に治療を再開したりするのですが、そのときに成績が良いこともあります。そのようなケースを目の当たりにすると、無理に急かされて治療をするのではなく、インターバルも必要なのかな、と感じたりします。
もちろん、誰にでも起こりうる話ではありませんが、何が幸いするかは本当にわからないですね。
高年齢との関係も、その限界も然りです。
■治療法については先生から提示するのですか?
治療法についての説明はしますが、ご本人の希望に応えた治療をすることも大事だと思います。もちろん、完全に間違っている場合はお伝えしますが、治療の決定権は患者さんにありますし、希望を尊重することは必要だと感じます。
実際に多いのは、先ほども申し上げたように体外受精のときに、なるべく薬を使わないでほしいという希望ですね。注射はイヤなので内服薬にしてほしいという方もいます。
逆に卵をたくさん採りたいので注射をたくさん打ってくださいという方もいるのですが、注射を打っても反応が期待できない方もいますから、その場合はきちんとお伝えします。
ただ、難しい状況で必ずしも結果が期待できない場合でも、患者さんの要望を聞き、トライすることもでてきます。たとえ難しい治療だとしても、そこで結果を出せるように頑張るのが私たちの役目ですからね。