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ヒトはなぜ人間に進化した? 12の仮説とその変遷

2020.12.30 08:52

一指李承憲@ILCHIjp

人は皆、一人でこの世にやってきて、一人で去ります。人間はもともと寂しい存在です。人生は孤独な道だと自覚できずに、寂しいと心を痛める人が多いのです。あることに没頭したり、何かに執着しているときは、しばし寂しさを忘れられます。しかし、本来の自然な姿は寂しいものです。


https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/091700262/  【ヒトはなぜ人間に進化した? 12の仮説とその変遷】 より

ヒト属の新種ホモ・ナレディ発見にあたり考えた

イスラエルの発掘地点で見つかった原始的な握斧。79万年前以前の物で、ホモ・エレクトスが作ったと考えられる。最古の石器は330万年前という古さだ。(Photograph by Kenneth Garrett, National Geographic Creative)

人間とはなんとすぐれた生きものだろう。この言葉には誰もが強く同意するに違いない。他の生物と比べてみれば、人間という存在は明らかに際立っている。

だが、先日、原始的な特徴と現代的な特徴をあわせもつヒト属の新種ホモ・ナレディが発見された。もちろん、ホモ・ナレディは人間(ホモ・サピエンス)ではないけれど、実際のところ、類人猿のみならず動物全体の中でホモ・サピエンスを唯一無二のものとしているのは何なのだろう。そして、私たちの祖先は、その「何か」をいつどのように獲得したのだろうか。(参考記事:「小顔のヒト属新種ホモ・ナレディを発見、南ア」)

 過去100年で、おびただしい数の学説が出されている。中には、人類の進化についてだけでなく、提唱者の生きた時代を物語る説もある。12の主な仮説を紹介しつつ、この機会に考えてみたい。

1.道具を作る

 人類学者ケネス・オークリーは、1944年の論文で「ヒトが独特なのは道具を作る点だ」と書いた。見つけた物を道具として使う行動は類人猿にも見られると説明しつつ、オークリーは「特定の用途に合わせて棒や石の形を変えるのは、明らかに人間らしい最初の活動だった」と述べた。1960年代初め、古人類学者ルイス・リーキーは、道具作りを始めてヒトへと進化したのが、約280万年前に東アフリカに住んでいた「ホモ・ハビリス」(器用な人)という種だとした。だが、ジェーン・グドール氏らの研究で明らかにされたように、チンパンジーも特定の用途のために棒から道具を作れる。例えば枝切れから葉を落として、地中にいる虫を「釣る」こともできるのだ。手のないカラスさえも非常に器用な行動を見せる。(参考記事:「動物の知力―言葉を話す、仲間をだます、道具を考え出す」)

2.殺し屋

 人類学者レイモンド・ダートによれば、現生の類人猿と我々の祖先との違いは、常習的に殺りくをする攻撃性にあるという。すなわち我々の祖先は「生きた獲物を乱暴に捕らえ、息絶えるまで殴打し、死骸を八つ裂きにし、その温かい血をすすり、苦悶しつつ死んだ青ざめた獣の肉をむさぼり食うことで、飽くことのない飢えを満たしていた」肉食生物だというのだ。今読むと安っぽい小説のようだが、第二次世界大戦の大量殺戮の記憶がまだ新しかった1953年には、ダートの「キラーエイプ仮説」は人々の共感を呼んだ。(参考記事:「人類発祥の地は東アフリカか、南アフリカか」)

アウストラロピテクスの化石のうち最初に発見された「タウング・チャイルド」の頭骨を手に取るレイモンド・ダート。人類進化の「キラーエイプ」仮説を提唱した。(Photograph by David L. Brill, National Georgaphic Creative)

3.食料を分かち合う

 1960年代になると、キラーエイプよりもヒッピー的な人間観が主流になった。人類学者グリン・アイザックは、動物が死んだ地点から別の地点へ意図的に死骸が移された証拠を発見。運ばれた先で、動物の肉が共同体全員に分配されたと考えた。アイザックの見方では、食料の分配が始まると、どこに食料があるかという情報共有の必要が生じる。これにより、言語など人間に特有の社会的な振る舞いが発達したとされた。

4.裸で泳ぐ

 そのしばらく後、「水瓶座の時代」とも呼ばれるニューエイジ・ムーブメントの頃に、脚本家のエレイン・モーガンが新たな説を広めた。ヒトが他の霊長類とこうも違うのは、水辺および水中という異なった環境で進化したからというものだ。体毛が薄くなるとより速く泳げるようになり、二足歩行によって水中を歩きやすくなった。この「水生類人猿説」は現在、科学界では一般に否定されているが、2013年に英国の博物学者でTVプレゼンターのデイビッド・アッテンボロー氏がこの説を支持した。

5.物を投げる

 人類学者リード・フェリング氏は、我々の祖先がヒトへと進化したのは、石を速く投げる能力を身につけたときだと考えている。旧ソビエト連邦ジョージア(グルジア)のドマニシには、約180万年以前の初期人類の遺跡がある。フェリング氏はここで、ホモ・エレクトスが集団で石を投げ、襲ってくる野生動物を追い払って獲物を守っていた証拠を見つけた。「ドマニシの人々は小柄でした」とフェリング氏。「この一帯は大型のネコ科動物がそこかしこにいました。どうやって身を守り、アフリカからここまでたどり着いたのでしょうか? 答えの1つは、投石です」。動物への投石は人類の社会化ももたらしたとフェリング氏は主張する。成功するためにはチームワークが必要だからだ。(参考記事:「「初期人類はすべて同一種」とする新説」)

ジョージア(グルジア)、ドマニシでの考古学的発見に触発されて描かれた絵。ホモ・エレクトスの女性がシカの死骸をハイエナから守るため、石を投げようとしている。(Photograph by John Gurche, National Geographic Creative)

6.狩る

 チームワークをより強く促したのは狩りだと主張したのは、人類学者シャーウッド・ウォッシュバーンとC.S.ランカスターだ。2人は1968年の論文で、「我々の知性、関心、感情、そして基本的な社会生活は、本質的にはすべて、狩りにうまく適応したという進化の産物だ」と述べた。例えばヒトの脳が大きいのは、いつどこで獲物を見つけるかという情報を多く蓄積するためだという。また、狩りは女性が採集をするという男女の役割分担にもつながったと言われる。だが、ここで疑問が出てくる。女性も大きな脳を持っているのはどうしてなのか?

7.食べ物とセックスを取引する

 より端的に言うと、一夫一婦制だ。C・オーウェン・ラブジョイ氏が1981年に発表した学説によれば、人類進化の決定的な分岐点は、約600万年前に起こった一夫一婦制の開始だという。それまでは、どう猛なオスが他のオスを蹴散らして勝者となり、メスとの生殖を独占していた。しかし一夫一婦制の下でメスが好むのは、食料の調達がうまく、そばにいて子育てを手伝ってくれるオスだ。ラブジョイ氏いわく、我々の祖先が二足歩行を始めたのは、それによって両手が自由になり、より多くの食料をメスに届けられるから、とのことだ。(参考記事:「チンパンジー、食べ物とセックスを取引?」)

8.肉を(調理して)食べる

 大きな脳は大量の栄養分を欲しがる。大脳皮質や小脳皮質などの灰白質が必要とするエネルギーは、実に筋肉の20倍だ。草食生活をしていては脳の発達はあり得なかったと一部の研究者は主張する。むしろ、人類の脳が進化したのはたった1度、タンパク質と脂肪の豊富な栄養源である肉を200~300万年前に食べ始めたときだという。また、人間に独自の行動である火を使った調理は、食物を消化しやすくする。人類学者リチャード・ランガム氏によれば、我々の祖先は火で調理を始めてから、肉をかみ切ったり潰したりするのに力を使う必要がなくなり、その分のエネルギーを脳に回せるようになった。その後も脳は発達を続け、自分の意志でビーガン(完全菜食主義者)を選ぶという判断を下せるまでになったのだという。(参考記事:「槍を使って狩りをするチンパンジー」)

自然死したゾウの死骸を原始的な石器で解体するのにどれだけ時間がかかるか、考古学者たちが実験。男性1人で、1時間に約45キロの肉を切り出せた。(Photograph by David L. Brill, National Geographic Creative)

9.炭水化物を(調理して)食べる

 あるいは、人類の脳は炭水化物を溜め込むことで大きく発達できたのかもしれない。最近の論文によれば、私たちの祖先が調理法を発明すると、塊茎(ジャガイモなど)のようなデンプン質の植物が脳にとって優れた栄養源となり、しかも肉より容易に入手できた。唾液に含まれるアミラーゼという酵素は、炭水化物を分解して、脳に必要なグルコースという糖分へと変える。英ロンドン大学の進化遺伝学者マーク・G・トーマス氏は、人類はDNAの中にアミラーゼ遺伝子のコピーを多く持っていると指摘。この特徴は、塊茎状の摂取が人類の脳の爆発的な発達を後押ししたことを示唆するものだと記している。(参考記事:「古代都市の子孫は免疫系が進化?」)

10.二足歩行をする

 人類進化の決定的な転機は、私たちの祖先が木から下り、直立して歩き始めたときだったのだろうか?「サバンナ起源説」の提唱者たちは、気候の変化がサバンナへの適応を促したと主張する。300万年前にアフリカの気候が乾燥し、森林が減少して草原に取って代わられた。これが、直立する霊長類に有利に働いた。立ち上がって背の高い草よりも上から辺りを見渡し、捕食者を見つけたり、食料と水源が遠く離れた広い範囲を効率的に移動したりできた。この説の問題点は、2009年、現在のエチオピアで、440万年前に生きていたラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)の化石が見つかったのだ。この地域は当時、湿潤で森林に覆われていた。にもかかわらず、ラミダス猿人の「アルディ」は二足歩行をしていた。(参考記事:「最古の女性“アルディ”が変えた人類進化の道」)

11.適応する

 米スミソニアン博物館人類起源プログラムを指揮するリチャード・ポッツ氏は、人類進化は1度の契機によるものではなく、気候変化の影響の積み重ねと考えている。ポッツ氏によれば、300万年近く前にヒト属が出現した頃、気候は湿潤と乾燥の間で変動していた。自然淘汰によって、予測できない変化が絶えず起こる状況でも耐えられる霊長類が生き残ったのだ。ポッツ氏は、順応性自体が人間を定義づける特徴だと唱えている。(参考記事:「最古のヒト属化石を発見、猿人からの進化に新証拠」)

12.団結し、征服する

南アフリカのピナクルポイントで見つかった、初期のホモ・サピエンスによる投てき武器。人類学者のカーチス・マリアン氏は、人類の協調能力の反映とみる。(Photograph by Per-Anders Pettersson, Getty Images)

 人類学者カーチス・マリアン氏は、グローバル化時代に合致する人類起源の見方を提示している。我々は究極の侵略的種族だというものだ。1つの大陸に数万年も閉じ込められた後、我々の祖先は地球全体を支配下に置いてしまった。なぜこんな偉業が可能だったのか? マリアン氏によれば、鍵は遺伝的に備わっていた協調性だ。この性質は利他主義ではなく、争いに由来する。協力に長けた霊長類のグループは対立するグループよりも有利になり、その遺伝子が残った。「我々の祖先の発達した認知能力にこのような独自の性質が加わったことで、新しい環境にも巧みに適応できるようになった」とマリアン氏は記している。「また、イノベーションを促す役割も果たし、高度な投てき武器という画期的な技術を考案した」

 これらの説は果たして正しいのか、それとも誤っているのだろうか。

 優れた説は多いが、いずれも先入観にとらわれている。「人類は1つあるいはいくつかの分かりやすい特徴によって定義でき、ホモ・サピエンスへと至る必然的な道のどこか1カ所で起こった進化上の事件が決定的な転機となった」というものだ。

 だが、彼らは現生人類のベータ版ではないし、「何か」を目指して進化していたわけではない。ただ、アウストラロピテクスやホモ・エレクトスとして生き抜いていただけだ。獲得した特徴のどれか1つが決定的となったわけでもない。進化の歴史に必然の帰結などというものはあり得ない。道具を作り、石を投げ、肉とイモを食べ、協調性と順応性が高く、大きな脳を持ち、殺りくをするサルが、結果的に私たちになった。そして、進化は今も続いている。

※ホモ・ナレディ発見についての詳細は、9月30日発売の『ナショナル ジオグラフィック日本版』2015年10月号で図解や写真を含めて詳しく紹介します。