原油の下落が止まらない理由と連動する新興国通貨
原油の下落が止まらないので、ロシアが青色吐息の状況が続いている。ロシアの経済成長モデルは非常に単純で、原油と天然ガスがすべて。原油が上昇すれば、ロシアの輸出価格が増大し景気が拡大する。原油収入で得た外貨は金やユーロ、ドルなどの外貨準備として膨らむ。
が、原油価格の下落が起こればその流れが逆転する。
①原油価格が下がり、②国内企業の業績が悪化する。③ロシア国内から資金の引き上げが起こり、ロシア通貨のルーブルが売られ、ドルが買われると、輸入物価が上昇してしまうため、④ロシア中銀は保有するドルを売却して、ルーブル買いのオペレーションに走る。通貨安を食い止めるために、金利の引き上げを狙うも国内景気が悪化するため、外貨準備を切り崩してルーブル安を抑える。経済危機が起こる循環は常に同じ流れ。
では、なぜ原油価格の下落が続くのか?
欧州向けのエネルギービジネスがやはり根幹にあるのだと思う。(ロシアへのエネルギー依存度を低下させたい)
米国はイラクのクルド人を救出する目的で限定空爆を開始したが、もともとはトルコと北イラク間で今年の3月にパイプラインが完成した影響が強い。この時に起こったのが、ウクライナ問題でロシア‐ウクライナ経由のガス供給の道は絶たれてしまっている。ライバルを駆逐したわけだ。
そして、シリア問題ではさらに問題が複雑化している。地政学的に見て、シリアの場所はロシア‐中国向けと欧州向けの中東の窓口にあたるところである。
中東各国、および米国にとってはテロ支援国家として邪魔なシリアを排除したい狙いがある。(クルド人国家を起こしてその蜜にありつけたいという思惑あり。)
テロ支援国家は、シリア‐イラン‐イラクで、ガスパイプライン協定を結んでおり、今後はそこから得られるエネルギーを欧州向けやアジア向けに拡大したい狙いがある。当然、そのことを面白く思わない連中がいる。それが、カタールとサウジアラビアである。中東は大きく分けると、2つの民族対立が生じている。(聖地を巡る問題はここでは取り上げない)シーア派か?スンニ派か?という問題である。
画で示したように、イラク‐シリア‐イランラインはシーア派。対するカタール、サウジはスンニ派と民族間の対立もあって、カタールは一度、トルコとシリアラインでガスパイプラインの建設計画を持ち上げたが断られている。カタール(埋蔵量世界第3位)も自国のLNGをアジアや欧州向けに販売したいが、それには民族問題を抱え、地政学的に邪魔なシリアを駆逐しなければならないというわけだ。
そしてサウジアラビア・・とりあえずシーア派が嫌いらしい。いや、イランが嫌いだ。核開発に着手するイランの動きをどうにかして、止めたいのだろう。
そこでサウジは米国に協力して原油価格の引き下げ要請に応じている。米国は今年の4月と9月に2度サウジに対して原油価格の引き下げ要請をしている。4月はロシアがクリミア半島を併合したことに対してであり、9月は電話会談の他にケリー国務長官がサウジに出向き、交渉したようだ。9月11日の原油価格は92ドル前後だが、そこから現在では17%以上の下落となっている。サウジが増産に踏み切り、アジア向けの原油の販売価格を引き下げて、ダンピング合戦となっている。10月にはアメリカでの販売価格も引き下げ、カタールもこれに続いている。(ここが非常にミソ)財政均衡ラインを割っている他の産油国は、ロシア含めて増産に踏み切り、かつダンピング競争に加勢している。彼らにとっては採算が合わなくなってきており、より多くの原油を輸出しなければならず、それが供給過多となり、さらに原油の引き下げを誘っているというのが市場の見方だろう。
これにより、困るのはテロ支援国家のイラク、イラン、シリア、ロシアである。
カタール‐サウジ‐米国による価格引き下げ圧力により、国家運営能力が著しく低下しているのは想像に難くないだろう。ロシアにとって、原油価格が12ドル下落すれば、ロシアの国家歳入は400億ドル減少し、原油価格が10ドル下落すれば原油輸出国から輸入国へ0.5%程世界GDPの割合いがシフトする。イラクはISISなど戦費調達におけるコストが増大し、原油の財政均衡ラインは107ドルと言われている。
ロシアの体力を削ぐことに成功すれば、シリアのアサド政権やイランへの資金供給元となっていたロシアは、自国の対応に迫られ外交に口出しできる状態ではなくなってしまう。同時に、国内で絶大な支持率を誇るプーチン氏への風当たりも強くなり、今までのような強硬姿勢を貫くことが難しくなってしまう。
肉を切らせて骨を断つ戦術ではあるが、サウジと米国のこの戦術は過去にも成功体験がある。1986年の原油の大幅下落がそれだ。他には1991年、1998年などの米国の戦略的原油備蓄の開放などによる原油価格の引き下げがロシア経済を破綻に追い込んでいる。今回の、サウジも参入させての対ロシア政策という面から見れば、現在の状況はレーガン政権がサウジに対して原油価格引き下げを要請した1986年辺りの様相に状況が似ている。旧ソ連の、イスラム同胞であるアフガンへの侵攻に激怒していたサウジはレーガン政権の要請に同意し、石油大増産に着手。30ドルを超えていた原油価格は10ドルニアまで大幅下落し、旧ソ連の弱体化含め、イラクの弱体化にも成功させている。結局これが旧ソ連経済を直撃し、ペレストロイカの破綻やエリツィン改革の失敗につながり、旧ソ連の解体の運びとなっている。
そして、気になる動きが一点。個人的には、ルーブル/ドルの動きと連動するフラジャイル5の動きが気になるところ。ともに、リーマンショック後の安値を割り込んでしまい、データ算出時点では2008年比からの下落率はほぼ同じ規模だった。ここにきて、ルーブルの動きがリーマンショック時のボラティリティを凌駕してきており、青天井となっている・・・・・・・
ということを考慮すると、フラジャイル5(インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカ、トルコ)のどの通貨がかが、大きく売られる局面が見られるのではないかと考えている。
11月 9th, 2014 【再送終】
陰謀論でもなんでもなく、現在の原油の動向は過去のサウジアラビアの共産圏(旧ソ連)への対応を見れば手に取るようにわかる。
そしてサウジの原油コストは30$以下である。