父親と娘の結婚挨拶 [1:1:0]
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0:父親が怖い顔で黙り込んでいる。
0:娘は婚約者と共に座布団に座って難しい顔をしている。
涼子:お願い!
父親:だめだ
涼子:お願いって!
父親:だめだ
涼子:どうして、お父さん言ってくれたよね?
涼子:「お前が選んだ人ならば、きっといい人なんだろうな」って・・・
涼子:なのにどうして!
父親:だめだ
父親:だめだといったらだめだ
涼子:・・・こんなにかっこいいのに?
父親:だめだ
涼子:一流企業に勤めてるのよ?
父親:だめだ
涼子:由緒正しい家柄の、長男よ?
父親:だめだ
涼子:彼ね、やさしいの、私が料理してると、手伝ってくれるの
父親:だめだ
涼子:・・・お父さんと気も会うはずよ?
父親:気が合う?
涼子:え、ええ!
涼子:彼ね、電車が好きなの!
父親:ほう?
涼子:一緒に歩いていてね、電車が走っているのが見えるとね、そっち見るの
涼子:彼が電車を見ている時のまなざしはとっても熱烈なのよ
涼子:もうね、電車に嫉妬するくらい
涼子:お父さんも、電車好きでしょ?
父親:ああ、好きだ
涼子:お父さんのジオラマすごいもんね
父親:ただの趣味だがな
涼子:そ、そうだ!彼にジオラマ見せてあげましょうよ!
涼子:彼電車好きだから、きっとジオラマにも感動するはずよ!ほら!
父親:だめだ
涼子:なんで・・・
涼子:ねえ、お父さんは、おかあさんとなんで結婚したの?
父親:何?
涼子:だから、お父さんとお母さんのなれそめ、聞いたことなかったよね
父親:ああ、話したことないな
涼子:なんで?どこで出会ったの?
父親:学校だ
涼子:高校?
父親:・・・大学だ
涼子:へえ、大学
涼子:それで、大学で出会って、どっちから告白したの?
父親:それは・・・お父さんからだ
涼子:ふうん、どうして?
父親:どうしてって・・・
涼子:どうして?なんでお父さんはお母さんに告白したの?
父親:・・・好きだったからだ
涼子:でしょ!?
涼子:私も、イル男(いるお)君が好き
涼子:だからこうやって付き合って、結婚するの
父親:だめだ
涼子:どうしてよ!
父親:・・・
涼子:彼のどこが気に入らないの?
涼子:学歴?家柄?職業?年齢?役職?
涼子:ちなみに彼ね、役職は部長
涼子:まだ26歳、すごいでしょ?
涼子:こんなに完璧な人いないの、私ほんとうに彼の事が好き
父親:涼子
涼子:お父さんになんと言われようと、私彼と結婚するから
父親:涼子
涼子:それに、お母さんだって良いって言ってくれたし
涼子:電話で彼の話した時「あらあ、そんないいひと、涼子にはもったいないわね」って、認めてくれたもん
父親:涼子
涼子:もういい、お父さんに合わせた私が悪かった
涼子:私ももういい大人、両親の了承がなくても結婚できますから
父親:涼子
涼子:それじゃ、今日はもう帰ります
父親:涼子
涼子:ほら、いこうイル男君
父親:涼子!
0:間
涼子:・・・なに
父親:まあ、落ち着きなさい
涼子:落ち着きなさい?
涼子:私がこんなに話してるのに「だめだ」しか言わないお父さんの前でどうやって落ち着けっていうの!?
父親:涼子
涼子:・・・
父親:ほら、そこに座りなさい
涼子:・・・(座る)
父親:あのな、いいか涼子
涼子:・・・ん
父親:イル男君、だったな
涼子:うん
父親:君は、確かに、その・・・かっこいい、うん、かっこいいな
涼子:うん、でしょ?
父親:それに、いい企業に勤めているらしいな
涼子:そう、すごいのよ、大企業の部長さん
父親:ああ、うん
父親:そして、「優しい」ようだ
涼子:ええ、とっても優しいの、いっつも私の事気遣ってくれる
父親:そうだな、そうなんだよな
涼子:あと、電車もすき
父親:それは私と一緒だな
涼子:そう、お父さんと話も合うと思うよ!
父親:ああ、電車が走ってると、なんだったっけか
涼子:見るの、目で追うの、こーやって
父親:そ、そうか・・・
父親:ふむ・・・
涼子:どう?わかってくれた?
父親:うーん・・・
0:間
涼子:あのさ、お父さん
父親:うん?
涼子:私さ、もう34歳なんだよ
涼子:これまでいろんな人と付き合って、実家に連れてきたこともあったけど
涼子:結局うまくいかなくて、ずるずる独身引きずって、ようやく出会えた運命の相手なの
涼子:たぶん、これが最後のチャンスだとおもう
涼子:(イル男をさすりながら)だって、こんな素敵な相手いないもん
0:イル男、照れくさそうに笑う(ように見える)
父親:あ、ああ、そうだな、それはわかっているよ
涼子:でしょ?
涼子:だから、改めてお願いするね
涼子:イル男君との結婚を許してください!
0:間。イル男が少し動く。
父親:だめだ
涼子:どうして!!
父親:だからその涼子
涼子:うん・・・
父親:イル男君が、涼子にとっての理想の相手なのは分かった
父親:才色兼備、文武両道、優しくて思いやりがある
涼子:うん、そうよ
父親:・・・二人で同棲してるのか
涼子:ええ、今は同棲してるわ、元住吉で
父親:ああ、元住吉で
涼子:うん・・・
父親:君らが一緒に過ごしてきた中で、きっといろいろあっただろうな
父親:喧嘩と同じ数、仲直りしただろうし、助け合って、二人は結婚という選択に思い至ったわけだ
涼子:話し合ったわ
父親:ああ・・・
0:間
父親:でもな、涼子
涼子:何?
父親:イル男君は、ワニだろう?
0:間
涼子:え?
父親:いや「え?」ではなくて、イル男君はワニだろう?
涼子:そうよ?
父親:いやいやいや、え?
父親:その「そうよ?」っていうのは「そうよ?あたりまえじゃない、ワニ以外何に見えるの?」の「そうよ?」か?
涼子:お父さん何言ってるの、イル男君がワニ以外に見えるの?
父親:い、いや・・・ワニに見える
涼子:そりゃね、ワニだからね
父親:・・・あのな涼子
涼子:あ、もうこんな時間、お父さんウチに今鶏肉ある?
父親:ん?鶏肉?どうして
涼子:イル男君のごはん、出来れば胸肉がいいんだけど
父親:ええと、なにがいいのかな、簡単なものであればお父さん作るけど
涼子:いや、生でいいわ
涼子:生が一番喜ぶの
父親:ワニじゃないか・・・
涼子:だからワニって言ってるじゃない、ほらーイル男君ーごはんにしましょーねー
父親:まて涼子、イル男君の苗字、もしかして
涼子:え?苗字?言ってなかったっけ?
父親:あ、ああ、聞いてなかったな
涼子:黒子田(クロコダ)よ
父親:クロコダ・・・
父親:クロコダ・・・イル男・・・
父親:クロコダイル・・・
父親:ワニじゃないか
涼子:だからワニって言ってるじゃない
父親:え?涼子?
涼子:なによ、結婚許してくれないなら私帰るから
父親:いやちょ、まってって
涼子:なによ
父親:ワニと結婚するの・・・?
涼子:そうよ
涼子:私ね、もう人間とは結婚できない気がしたの
涼子:今まで付き合ってきた人、みんなダメ男だったし
涼子:というか、私と付き合うとみんなダメ男になっちゃうの
涼子:お世話し過ぎるっていうか、愛を注ぎ過ぎちゃうの
父親:ちょ、涼子?
涼子:でもね、ワニならその心配もないでしょ?
涼子:いくら愛と鶏肉を注いでも、ダメになることはないでしょ?
涼子:ていうかそもそもダメになったかどうかもわからないじゃない?
父親:ちょ、あの、涼子?
涼子:だってそもそも言葉がわからないわけだから、この人ダメになっちゃったなって判断する材料もないわけで
父親:涼子!
涼子:そういう点で行くと、気楽かなって
父親:涼子って!
涼子:なによ!人が喋ってる時に!
父親:ワニが・・・
涼子:あー、イル男君、まーたそうやって噛みついてー
涼子:お腹すいちゃったのかなー?
父親:ちょ、涼子、まずいって、右腕ワニに包まれてるって
涼子:ん?大丈夫だよ、いつもの事だし、あまがみあまがみ
父親:そ、そうなのか・・・
涼子:とにかく、私もう人間は良いかなって思ったって話
涼子:前の彼氏と別れて、落ち込んでる時、イル男君に出会ったの
父親:涼子?
涼子:バーで泣いてる私に、そっとお酒奢ってくれて
涼子:わたし、我慢できなくなっちゃって、仕事のうっ憤とか、元カレの愚痴とかぜーんぶ聞いてもらってさ
父親:涼子!
涼子:だから!私が今イル男君とのなれそめを(喋ってるのに)!
父親:ワニが・・・ワニが高速回転してるって!
涼子:えっ
父親:ちょ!涼子!とにかくワニ取らないと!
涼子:こら!イル男君!そんな急がなくてもちゃんとエサあげるから!
父親:お前もエサって言ってるじゃないか!ちょ、ほんと、まずいって!
涼子:お父さん!大きい声出さないでよ!大声出すとワニが興奮するから!
父親:ほらもうワニって言ったね!お父さんワニとは結婚させないからね!
涼子:ちょ、イル男!痛い!痛いって!
父親:涼子まってろ!今取るからな!
涼子:痛い痛い痛い痛い!
父親:うおぉりゃ!
0:がばっ
0:ワニが涼子の右手からはずれる。
父親:はぁ・・・はぁ・・・
涼子:いたた・・・
0:しばらく、息を整える二人。
涼子:イル男君・・・あなたがそんなことする人なんて思ってなかった
涼子:私ね、暴力振るう人だめなの
涼子:私はいいよ?どれだけ傷ついても、その傷さえも「ああ、愛なんだな」って思えるから
涼子:でも、私たちに子供が出来たら?
涼子:子供にも同じことする?ううん、きっとする
涼子:そしたらわたし「ごめんなさい」って思っちゃう
涼子:だからねイル男君
父親:涼子
涼子:ん?
父親:ワニ、逃げていったよ、窓から
涼子:・・・そっか
涼子:お別れも・・・言えなかったね・・・
父親:涼子
0:間。涼子は少し泣いている。
0:父親は釈然としない表情で佇んでいる。
涼子:ま、もう私も失恋には慣れちゃったわ
涼子:でもね、私、こっそり気になってた人がいるの
涼子:近くのカフェで働いてる店員さんでね?
涼子:ファロ男(ファロオ)さんっていうの
父親:・・・苗字は?
涼子:バッ!
父親:「バッ」?
涼子:そう、バッ!
涼子:罵倒の罵と書いてバッ!
涼子:バッファロ男さん
父親:バッファローだな
涼子:とってもたくましくてね、重量は1トンくらいあるの
父親:バッファローだな
涼子:相手を攻撃する時は自慢のツノで突進するの
父親:バッファローだな
涼子:異名は「黒い死神」
父親:バッファローだな
涼子:でも普段はとってもおっとりしてておとなしいバッファローなの
父親:ほら、もうバッファローって言っちゃってるもん
涼子:偶蹄目(ぐうていもく)ウシ科、バイソン属
父親:バッファローだな
涼子:群れはオス同士、もしくはメスと子供
父親:バッファローだな
涼子:最高速度時速60キロメートル
父親:バッファローだな
涼子:(あなたが知りうるバッファローに関する知識)
父親:バッファローだな
涼子:(あなたが知りうるバッファローに関する知識)
父親:バッファローだな
涼子:(あなたが知りうるバッファローに関する知識)
父親:バッファローだな
0:(上記のくだりは何回繰り返してもいいです。飽きるかネタが尽きるかしたら枠を閉じてください)
0:バッファロー情報が羅列される中、画面はだんだんとフェードアウトしていく
0:幕
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