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らての台本置き場

父親と娘の結婚挨拶 [1:1:0]

2021.01.07 13:34

0:父親が怖い顔で黙り込んでいる。

0:娘は婚約者と共に座布団に座って難しい顔をしている。

涼子:お願い!

父親:だめだ

涼子:お願いって!

父親:だめだ

涼子:どうして、お父さん言ってくれたよね?

涼子:「お前が選んだ人ならば、きっといい人なんだろうな」って・・・

涼子:なのにどうして!

父親:だめだ

父親:だめだといったらだめだ

涼子:・・・こんなにかっこいいのに?

父親:だめだ

涼子:一流企業に勤めてるのよ?

父親:だめだ

涼子:由緒正しい家柄の、長男よ?

父親:だめだ

涼子:彼ね、やさしいの、私が料理してると、手伝ってくれるの

父親:だめだ

涼子:・・・お父さんと気も会うはずよ?

父親:気が合う?

涼子:え、ええ!

涼子:彼ね、電車が好きなの!

父親:ほう?

涼子:一緒に歩いていてね、電車が走っているのが見えるとね、そっち見るの

涼子:彼が電車を見ている時のまなざしはとっても熱烈なのよ

涼子:もうね、電車に嫉妬するくらい

涼子:お父さんも、電車好きでしょ?

父親:ああ、好きだ

涼子:お父さんのジオラマすごいもんね

父親:ただの趣味だがな

涼子:そ、そうだ!彼にジオラマ見せてあげましょうよ!

涼子:彼電車好きだから、きっとジオラマにも感動するはずよ!ほら!

父親:だめだ

涼子:なんで・・・

涼子:ねえ、お父さんは、おかあさんとなんで結婚したの?

父親:何?

涼子:だから、お父さんとお母さんのなれそめ、聞いたことなかったよね

父親:ああ、話したことないな

涼子:なんで?どこで出会ったの?

父親:学校だ

涼子:高校?

父親:・・・大学だ

涼子:へえ、大学

涼子:それで、大学で出会って、どっちから告白したの?

父親:それは・・・お父さんからだ

涼子:ふうん、どうして?

父親:どうしてって・・・

涼子:どうして?なんでお父さんはお母さんに告白したの?

父親:・・・好きだったからだ

涼子:でしょ!?

涼子:私も、イル男(いるお)君が好き

涼子:だからこうやって付き合って、結婚するの

父親:だめだ

涼子:どうしてよ!

父親:・・・

涼子:彼のどこが気に入らないの?

涼子:学歴?家柄?職業?年齢?役職?

涼子:ちなみに彼ね、役職は部長

涼子:まだ26歳、すごいでしょ?

涼子:こんなに完璧な人いないの、私ほんとうに彼の事が好き

父親:涼子

涼子:お父さんになんと言われようと、私彼と結婚するから

父親:涼子

涼子:それに、お母さんだって良いって言ってくれたし

涼子:電話で彼の話した時「あらあ、そんないいひと、涼子にはもったいないわね」って、認めてくれたもん

父親:涼子

涼子:もういい、お父さんに合わせた私が悪かった

涼子:私ももういい大人、両親の了承がなくても結婚できますから

父親:涼子

涼子:それじゃ、今日はもう帰ります

父親:涼子

涼子:ほら、いこうイル男君

父親:涼子!

0:間

涼子:・・・なに

父親:まあ、落ち着きなさい

涼子:落ち着きなさい?

涼子:私がこんなに話してるのに「だめだ」しか言わないお父さんの前でどうやって落ち着けっていうの!?

父親:涼子

涼子:・・・

父親:ほら、そこに座りなさい

涼子:・・・(座る)

父親:あのな、いいか涼子

涼子:・・・ん

父親:イル男君、だったな

涼子:うん

父親:君は、確かに、その・・・かっこいい、うん、かっこいいな

涼子:うん、でしょ?

父親:それに、いい企業に勤めているらしいな

涼子:そう、すごいのよ、大企業の部長さん

父親:ああ、うん

父親:そして、「優しい」ようだ

涼子:ええ、とっても優しいの、いっつも私の事気遣ってくれる

父親:そうだな、そうなんだよな

涼子:あと、電車もすき

父親:それは私と一緒だな

涼子:そう、お父さんと話も合うと思うよ!

父親:ああ、電車が走ってると、なんだったっけか

涼子:見るの、目で追うの、こーやって

父親:そ、そうか・・・

父親:ふむ・・・

涼子:どう?わかってくれた?

父親:うーん・・・

0:間

涼子:あのさ、お父さん

父親:うん?

涼子:私さ、もう34歳なんだよ

涼子:これまでいろんな人と付き合って、実家に連れてきたこともあったけど

涼子:結局うまくいかなくて、ずるずる独身引きずって、ようやく出会えた運命の相手なの

涼子:たぶん、これが最後のチャンスだとおもう

涼子:(イル男をさすりながら)だって、こんな素敵な相手いないもん

0:イル男、照れくさそうに笑う(ように見える)

父親:あ、ああ、そうだな、それはわかっているよ

涼子:でしょ?

涼子:だから、改めてお願いするね

涼子:イル男君との結婚を許してください!

0:間。イル男が少し動く。

父親:だめだ

涼子:どうして!!

父親:だからその涼子

涼子:うん・・・

父親:イル男君が、涼子にとっての理想の相手なのは分かった

父親:才色兼備、文武両道、優しくて思いやりがある

涼子:うん、そうよ

父親:・・・二人で同棲してるのか

涼子:ええ、今は同棲してるわ、元住吉で

父親:ああ、元住吉で

涼子:うん・・・

父親:君らが一緒に過ごしてきた中で、きっといろいろあっただろうな

父親:喧嘩と同じ数、仲直りしただろうし、助け合って、二人は結婚という選択に思い至ったわけだ

涼子:話し合ったわ

父親:ああ・・・

0:間

父親:でもな、涼子

涼子:何?

父親:イル男君は、ワニだろう?

0:間

涼子:え?

父親:いや「え?」ではなくて、イル男君はワニだろう?

涼子:そうよ?

父親:いやいやいや、え?

父親:その「そうよ?」っていうのは「そうよ?あたりまえじゃない、ワニ以外何に見えるの?」の「そうよ?」か?

涼子:お父さん何言ってるの、イル男君がワニ以外に見えるの?

父親:い、いや・・・ワニに見える

涼子:そりゃね、ワニだからね

父親:・・・あのな涼子

涼子:あ、もうこんな時間、お父さんウチに今鶏肉ある?

父親:ん?鶏肉?どうして

涼子:イル男君のごはん、出来れば胸肉がいいんだけど

父親:ええと、なにがいいのかな、簡単なものであればお父さん作るけど

涼子:いや、生でいいわ

涼子:生が一番喜ぶの

父親:ワニじゃないか・・・

涼子:だからワニって言ってるじゃない、ほらーイル男君ーごはんにしましょーねー

父親:まて涼子、イル男君の苗字、もしかして

涼子:え?苗字?言ってなかったっけ?

父親:あ、ああ、聞いてなかったな

涼子:黒子田(クロコダ)よ

父親:クロコダ・・・

父親:クロコダ・・・イル男・・・

父親:クロコダイル・・・

父親:ワニじゃないか

涼子:だからワニって言ってるじゃない

父親:え?涼子?

涼子:なによ、結婚許してくれないなら私帰るから

父親:いやちょ、まってって

涼子:なによ

父親:ワニと結婚するの・・・?

涼子:そうよ

涼子:私ね、もう人間とは結婚できない気がしたの

涼子:今まで付き合ってきた人、みんなダメ男だったし

涼子:というか、私と付き合うとみんなダメ男になっちゃうの

涼子:お世話し過ぎるっていうか、愛を注ぎ過ぎちゃうの

父親:ちょ、涼子?

涼子:でもね、ワニならその心配もないでしょ?

涼子:いくら愛と鶏肉を注いでも、ダメになることはないでしょ?

涼子:ていうかそもそもダメになったかどうかもわからないじゃない?

父親:ちょ、あの、涼子?

涼子:だってそもそも言葉がわからないわけだから、この人ダメになっちゃったなって判断する材料もないわけで

父親:涼子!

涼子:そういう点で行くと、気楽かなって

父親:涼子って!

涼子:なによ!人が喋ってる時に!

父親:ワニが・・・

涼子:あー、イル男君、まーたそうやって噛みついてー

涼子:お腹すいちゃったのかなー?

父親:ちょ、涼子、まずいって、右腕ワニに包まれてるって

涼子:ん?大丈夫だよ、いつもの事だし、あまがみあまがみ

父親:そ、そうなのか・・・

涼子:とにかく、私もう人間は良いかなって思ったって話

涼子:前の彼氏と別れて、落ち込んでる時、イル男君に出会ったの

父親:涼子?

涼子:バーで泣いてる私に、そっとお酒奢ってくれて

涼子:わたし、我慢できなくなっちゃって、仕事のうっ憤とか、元カレの愚痴とかぜーんぶ聞いてもらってさ

父親:涼子!

涼子:だから!私が今イル男君とのなれそめを(喋ってるのに)!

父親:ワニが・・・ワニが高速回転してるって!

涼子:えっ

父親:ちょ!涼子!とにかくワニ取らないと!

涼子:こら!イル男君!そんな急がなくてもちゃんとエサあげるから!

父親:お前もエサって言ってるじゃないか!ちょ、ほんと、まずいって!

涼子:お父さん!大きい声出さないでよ!大声出すとワニが興奮するから!

父親:ほらもうワニって言ったね!お父さんワニとは結婚させないからね!

涼子:ちょ、イル男!痛い!痛いって!

父親:涼子まってろ!今取るからな!

涼子:痛い痛い痛い痛い!

父親:うおぉりゃ!

0:がばっ

0:ワニが涼子の右手からはずれる。

父親:はぁ・・・はぁ・・・

涼子:いたた・・・

0:しばらく、息を整える二人。

涼子:イル男君・・・あなたがそんなことする人なんて思ってなかった

涼子:私ね、暴力振るう人だめなの

涼子:私はいいよ?どれだけ傷ついても、その傷さえも「ああ、愛なんだな」って思えるから

涼子:でも、私たちに子供が出来たら?

涼子:子供にも同じことする?ううん、きっとする

涼子:そしたらわたし「ごめんなさい」って思っちゃう

涼子:だからねイル男君

父親:涼子

涼子:ん?

父親:ワニ、逃げていったよ、窓から

涼子:・・・そっか

涼子:お別れも・・・言えなかったね・・・

父親:涼子

0:間。涼子は少し泣いている。

0:父親は釈然としない表情で佇んでいる。

涼子:ま、もう私も失恋には慣れちゃったわ

涼子:でもね、私、こっそり気になってた人がいるの

涼子:近くのカフェで働いてる店員さんでね?

涼子:ファロ男(ファロオ)さんっていうの

父親:・・・苗字は?

涼子:バッ!

父親:「バッ」?

涼子:そう、バッ!

涼子:罵倒の罵と書いてバッ!

涼子:バッファロ男さん

父親:バッファローだな

涼子:とってもたくましくてね、重量は1トンくらいあるの

父親:バッファローだな

涼子:相手を攻撃する時は自慢のツノで突進するの

父親:バッファローだな

涼子:異名は「黒い死神」

父親:バッファローだな

涼子:でも普段はとってもおっとりしてておとなしいバッファローなの

父親:ほら、もうバッファローって言っちゃってるもん

涼子:偶蹄目(ぐうていもく)ウシ科、バイソン属

父親:バッファローだな

涼子:群れはオス同士、もしくはメスと子供

父親:バッファローだな

涼子:最高速度時速60キロメートル

父親:バッファローだな

涼子:(あなたが知りうるバッファローに関する知識)

父親:バッファローだな

涼子:(あなたが知りうるバッファローに関する知識)

父親:バッファローだな

涼子:(あなたが知りうるバッファローに関する知識)

父親:バッファローだな

0:(上記のくだりは何回繰り返してもいいです。飽きるかネタが尽きるかしたら枠を閉じてください)

0:バッファロー情報が羅列される中、画面はだんだんとフェードアウトしていく

0:幕