手品師と見破り師の生放送 [0:0:3]
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0:テレビ番組のセットは森林の様相を呈している。
0:左右に1人用のソファーがあり、中央には司会者の台が据え置かれている。
0:ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が流れ番組が始まり司会者が話し始める。
司会者:「私には矛盾が多い。なぜなら私が大きいからである。」
司会者:18世紀を生きたアメリカの詩人、ウォルトホイットマンの言葉です。
司会者:11歳で職についた彼は人間の在り方に深く悩みました。
司会者:新聞記者を辞め、自らの政党から新聞を発売。1940年代の出来事です。
司会者:彼は自らの矛盾、そして人間が持つ矛盾を人生をかけて活字に起こしました。
司会者:矛盾。
司会者:それは人間が先天的に持つある種のヤマイのようなもの。
司会者:矛盾。
司会者:それは人を悩ませ、惹きつけ、時には気付きを与えてくれる知恵の原石。
司会者:【パラドックスの森】
司会者:人はこの森をそう呼びます。
司会者:矛盾を持つ二人の人間が、今夜もこの森で出会うとか、出会わないとか。
司会者:今夜はTARアナウンサー、泉が、ぶつかり合うパラドックスを生放送でお届けします。
司会者:おや?誰か来たようですね。
0:セットの下手から手品師が登場する。
司会者:こんばんは
マジシャン:こんばんは
司会者:パラドックスの森にようこそいらっしゃいました
マジシャン:ええ、よろしくお願いいたします
司会者:はい、よろしくお願いします。
司会者:今のお気持ちは?
マジシャン:そうですね、まあ、いつも通りですね
司会者:いつも通り、ですか
マジシャン:はい
司会者:怖く、ありませんか?
マジシャン:怖い?私に怖がる理由なんてありません。
司会者:そうですか・・・ではネロさん、いつものいただいても、よろしいでしょうか
マジシャン:ああ、はい・・・
マジシャン:クイット、種は見つかったかな?
0:VTRカットイン。以下は司会者役がテンションをマックスにしてゲストを紹介する。
司会者:稀代の魔術師、ネロ!
司会者:彼を知らないものはもはやいないだろう!
司会者:2040年、世界を震撼させたビッグベン消失トリックは記憶に新しい!
司会者:マジシャン協会の日本支部長を務める彼のキメ台詞「クイット、種は見つかったかな?」は若者の間で大流行。
司会者:しかーし!
司会者:彼は彼のマジックを「超能力」と公言しているぅ
司会者:種があるとしたら、それは彼の持って生まれた超能力ということなのかぁ!
司会者:今夜、パラドックスの森に堂々参戦!
0:スタジオカットイン
司会者:はい、ということで
マジシャン:ありがとうございます
司会者:いえ、本当に、最近はテレビつけたらネロさんですもんね
マジシャン:いえ、そんな(笑)
司会者:ネロさんの活躍は世界を変えた!なんて言われてますけど、あながち大げさじゃありませんよ
マジシャン:いやあ、それはちょっと大げさなんじゃあないかな
司会者:そう仰ると思いまして、当番組スタッフが調べたんですけど・・・
マジシャン:え?
司会者:えーまず、下北沢、マジックショップXEN(ゼン)・・・
司会者:ご存じですか?
マジシャン:いえ・・・
司会者:なんと、ここの店長、ネロさんに憧れてマジックを始めて、今やマジックショップを開いてしまったとのことでして
マジシャン:へえ
司会者:あと、ネロさんの十八番のマジックあるでしょう?指先から水が出るあの・・・
マジシャン:これですか?(ちょろちょろ)
司会者:おおお!・・・って大丈夫なんですかそんな軽はずみに披露しちゃって
マジシャン:ええ、これは超能力ですから、もうほんと、おしっこみたいなもんなんで
司会者:スタジオでおしっこするのはやめてくださいね
マジシャン:おしっこではないですよ、これは「指から水」・・・略して・・・
マジシャン:指、水、ですね
司会者:あんまり略せてないと思うんですが・・・
マジシャン:で、なんですか?
司会者:ああ、そうでした、その、ネロさんの超能力は今や社会現象になっております
マジシャン:ああ、そのことですか、あんまりいいニュースじゃないんで、微妙ですがね(笑)
司会者:そうですね、失礼しました
マジシャン:いえ・・・
見破り師:(遠くから)おーい
司会者:おや?何か聞こえませんか?
マジシャン:え?
司会者:声が、ほら、聞こえません?
見破り師:おーい、誰かー
マジシャン:ええ・・・確かに・・・
0:セットの上手から見破り屋登場。
見破り師:ああー!やっと人にあえた!!
司会者:おーまさか今夜の二人目の・・・
見破り師:ええ、森は方向感覚が取れなくて、迷ってしまって・・・
マジシャン:はは(笑)
司会者:ということは、あなたが・・・
見破り師:ええ、カメレオン太田、見抜き屋です
0:VTRカットイン
司会者:カメレオンーー太田ァァァァ!
司会者:漫才コンビセットポジション、ツッコミ担当でありながら営業の傍らマジックを見破る見抜き屋を名乗る!
司会者:動画投稿サイトの自身のチャンネルでは数々のマジシャンを打ちのめし、今やそちらの収入が営業収入の4倍とのこと!
司会者:職業、お笑い芸人
司会者:今宵はマジシャンネロにどんなツッコミを入れていくのかぁ!
0:スタジオカットイン
司会者:ということで・・・
見破り師:ちょっと悪意ありません?僕の紹介
マジシャン:(笑)
司会者:いえ、ほんと、今大活躍されてるようで・・・
見破り師:結(ゆい)チューブでね
司会者:いえいえ、漫才だって、ご参加されてるじゃないですか
マジシャン:ご参加って(笑)
見破り師:そっちが本業なんですよ!
司会者:いやー、私は好きですけどね、エセ関西弁漫才
見破り師:えー、ありがとうございます
見破り師:まあ関西の方には相当嫌われてますけどね
マジシャン:はは
司会者:そんな太田さん、今日はおひとりでいらっしゃっていただいて
司会者:今日は相方のジャッカルさんは?
見破り師:家にいますよ
司会者:家ですか
見破り師:ええ、家でテレビ見てます
マジシャン:(笑)
司会者:じゃあ、太田さんがジャッカルさんの分まで頑張ってくださいね
見破り師:いえいえ、ありがとうございます
司会者:はい、じゃあ、どうぞ、座ってください
見破り師:ええ、失礼します
0:少しの間
司会者:では改めて、パラドックスの森
司会者:この番組では二人のゲストをお招きして、矛盾したそれぞれの特技で戦っていただきます。
司会者:今夜はスーパーマジシャンネロさんと、見破り屋芸人太田さんをお招きして、マジック見破り勝負をしていただきます。
司会者:ちなみに太田さん、超能力は信じていらっしゃいますか?
見破り師:いえ、信じてません
司会者:信じていない
見破り師:ええ、一ミリも信じてませんね。
見破り師:トリックのないマジックなんてこの世に存在しませんから。
司会者:自信のほどは
見破り師:完璧です
0:手品師、大きく深呼吸をする
司会者:ネロさん、大丈夫でしょうか
マジシャン:ええ、でもやっぱりちょっと、緊張しますね
司会者:緊張ですか
マジシャン:はい、僕実は、太田さん大好きなんですよ
司会者:へえ、そうだったんですね
マジシャン:ええ
マジシャン:太田さんっていうか、セットポジションが好きで
マジシャン:カリフォルニアマーキーの頃から動画とか見てました(笑)
司会者:カリフォルニアマーキー?
見破り師:僕らの前のコンビ名ですね
司会者:ああ、なるほど(笑)
見破り師:ありがとうございます
マジシャン:いえいえ
マジシャン:まあでも、僕もプロですからね、負けるつもりはありませんよ
見破り師:手加減無しですか
マジシャン:もちろんです
司会者:さて、では今夜の森の掟を説明させていただきます
見破り師:はいはい
マジシャン:はい
司会者:ひとつ、ネロさんのマジックは4台のカメラで撮影させていただきます。
司会者:視聴者のみなさんは、見破り屋となって様々なアングルからご覧ください。
司会者:また、太田さん
見破り師:はい
司会者:太田さんのモニターで、同様に4つのモニター映像が見られるようになっております。
司会者:太田さんには肉眼で、そしてモニター映像でネロさんのマジックを見破っていただきます。
見破り師:いいんですか?すぐ見破ってしまいますよ?
マジシャン:太田さん、僕のマジックに種はありません、どこからでもかかってきてください
見破り師:クイットですか
マジシャン:ええ(笑)
司会者:よろしいでしょうか
見破り師:わかりました
司会者:そして今夜は、もう一つ、掟がございます。
見破り師:ほう
司会者:太田さんがマジックを見破る際に、回数制限を設けます
見破り師:なるほど
司会者:2回まで、マジックの種を宣言してOKです
見破り師:2回ですか
司会者:一度間違えても、もう一度考えるチャンスがありますが、
司会者:二度目に間違えると、太田さんの敗北、迷い人となってこの森を一生さまよい続けることでしょう・・・
見破り師:困るなあ、次佐賀わいわいランドでロケなんですけど・・・
見破り師:まあ、一発で当てればいいってことでしょ
司会者:そうですね
司会者:掟は以上になりますが、大丈夫そうでしょうか
マジシャン:いつでも行けますよ
司会者:太田さんは
見破り師:ええ、いつでも
司会者:わかりました。
司会者:ではこれから、ネロさんにはマジックをひとつ披露していただきます。
司会者:披露が終わったら、太田さんにはそのマジックの仕掛けを言い当てていただきます。
見破り師:はい、おねがいします
司会者:パラドックスの森、TARスタジオから生放送でお送りしております。
司会者:今宵森に飲み込まれるのは、彗星のごとく現れたスーパーマジシャンネロか!
司会者:はたまた見破り芸人セットポジション太田か!
司会者:運命の時です。
司会者:検証、スタートです!
0:ネロのマジックがスタートする
マジシャン:はい、では、あらためまして太田さん、よろしくお願いいたします。
見破り師:あらためましたね、お願いします。
マジシャン:ええ
マジシャン:僕、さっきも言ったんですけど、セットポジションさんの漫才本当に好きなんですよ
見破り師:・・・
マジシャン:あのネタ面白いですよね、なんだっけ、チャンピオン戦の時の
見破り師:カジノですか?
マジシャン:ああ、そうそう!カジノのネタ。
見破り師:ええ、ありますね
マジシャン:僕もね、何度かカジノ行ったことあるんですけど、太田さんありますか?
見破り師:いえ、僕はないですね、日本から出た事ないんで
マジシャン:ああ(笑)
マジシャン:カジノにね、ディーラーさんっているでしょう?
見破り師:ええ
マジシャン:ディーラーさんの手先見てるだけで面白いんですよ、カジノって
見破り師:はあ
マジシャン:あのディーラーさんの手さばきって、実はマジックと似たところがありまして・・・
マジシャン:たとえばこんな感じで、まず、トランプを取り出すんですけど
司会者:おーっとぉ、マジシャンネロ、まずは空中からトランプを出現させたぁ!
見破り師:・・・
マジシャン:で、取り出したトランプをよーく混ぜて・・・
マジシャン:混ぜます?
見破り師:じゃあ・・・
マジシャン:どうぞ
司会者:さあ、ネロが取り出したトランプを混ぜる太田、スタジオには何とも言えない緊張感が走ります。
見破り師:いいですか?
マジシャン:ええ、混ざりましたよ
見破り師:ありがとうございます
マジシャン:まあ、最初は初級なんでね、オーソドックスに・・・
マジシャン:一枚、好きなカードを選んでください
見破り師:はい
マジシャン:それでいいですね?
見破り師:・・・
マジシャン:では、私、目をつぶっていますので、太田さん覚えて、カメラにも見せてあげてください。
見破り師:はい・・・大丈夫です
マジシャン:はい、じゃあカードを伏せて、こちらの山札に差し込んで
見破り師:どこでもいいんですね?
マジシャン:ええ、どこでも
見破り師:じゃあ、ここ
マジシャン:はい、ありがとうございます。
マジシャン:では太田さん、視聴者の皆さん、ここから目を離さないでくださいね
マジシャン:ビギン、魔法の世界へようこそ
見破り師:おー、生で聞くの初めて
マジシャン:(笑)
マジシャン:このカードの束には、太田さんの選んだカードが入ってますね?
見破り師:ええ
マジシャン:では、この束、太田さん、両手を広げて、上と下で抑えておいてください
見破り師:こうですか
マジシャン:いいですね、ありがとうございます。
マジシャン:そしてここに、ネロパワーを注入していきます
見破り師:おお・・・来い!
マジシャン:シーーーーーーーシャーーーーー
司会者:さあ、太田が掴んだカードの束にネロが今、パワーを注入していきます。
マジシャン:ネロパッパッパッパ
見破り師:?
マジシャン:たあぁ!
見破り師:絶妙にダサいですね
マジシャン:まあ、なんでもいいんです、掛け声は
見破り師:はあ
マジシャン:そしたら太田さん、手を開いて、そちらの束、表にして確認してください
マジシャン:さきほど選んだカード、見当たりますでしょうか
見破り師:・・・ないですね
マジシャン:あれ、ないですか・・・おかしいなあ
マジシャン:どこへいったんだろう
司会者:おーっと、太田の選んだカードはどこに行ったのか・・・
見破り師:・・・
マジシャン:ん?太田さん、肩の所、なにか乗ってますね、なんですかそれ
見破り師:ん?
司会者:な、なんとー!
司会者:太田の肩にトランプが一枚乗っております!!
見破り師:ははー
マジシャン:そのカード、念のため、カメラに見せてもらってもいいですか?
見破り師:・・・スペードの7
マジシャン:さっき太田さんが選んだカードは?
見破り師:スペードの7、ですね
司会者:見事!ネロが太田のカードを当てたー!
マジシャン:クイット 種は見つかったかな?
司会者:そして決め台詞ー!みなさま、ごらんいただいたでしょうか
司会者:これがネロのマジックでございます。
マジシャン:ありがとうございました
司会者:シンプルなカードマジックでここまで見せてくるとは
司会者:ネロさん、やはりとんでもないマジシャンですねあなたは
マジシャン:いえいえ
司会者:私も4つのモニターを見ていましたが、全くわかりませんでした。
司会者:さて・・・太田さん
見破り師:はい・・・
司会者:ずいぶんと難しい顔をされているようですが、大丈夫ですか?
見破り師:ええ
司会者:わかりました
司会者:では、太田さん
司会者:ネロさんのひとつめのマジック
司会者:種は分かりましたでしょうか?
0:間
見破り師:わかりました
司会者:え・・・えっと、わかったんですか?
見破り師:ええ、わかりましたよ
司会者:あの、太田さん、ちょっと台本と違
見破り師:(さえぎって)実に簡単なトリックですねこれは、視聴者の方も気づいた方いるんじゃありませんか?
司会者:太田さん?えっと・・・
見破り師:ネロさん
マジシャン:なんでしょう
見破り師:ちょっと僕を甘く見過ぎましたね、こんな子供騙しで来るとは
マジシャン:そこまで言いますか
司会者:あの、えっと
司会者:えー!少々電波が乱れているので!一旦CMを!
見破り師:待ってください泉(いずみ)さん
司会者:え?
見破り師:これは生放送なんです、CM時間中にネロさんが逃げたらどうするんですか
マジシャン:逃げる?僕が?
見破り師:ええ、あなたは種のないマジックが売りでやっているんでしょう?
マジシャン:ええ、実際に僕のマジックは超能力ですからね
見破り師:ほーーん
見破り師:そうですかーそうですか
見破り師:じゃあそんなあなたのマジックに、もし種が存在して、もしその仕掛けが暴かれた日には、あなたは大ウソつきになるわけだ
司会者:ちょ、太田さん?どうしたんですか!
マジシャン:・・・何が言いたいんです?
見破り師:あなたは大ウソつきです
マジシャン:なんだってぇ!?!?!?
司会者:ちょ、ネロさんまで!
マジシャン:黙って聞いてれば子供騙しだの嘘つきだの、ネチネチネチネチ言いやがってよぉ!
マジシャン:あーいいよ!いいよ!当ててみろよ!お前みたいな節穴メガネに俺のマジックを見破れるとは思わないけどなあ!
司会者:ちょ、放送事故!カメラ止めて!
見破り師:はーあ?節穴メガネだと?ガリガリの小枝みたいなお前に言われたくないね!
マジシャン:上等だ節穴メガネ太田!当ててみろよ!
見破り師:だから当てるって言ってんだろ!栄養が耳まで通ってないから聞こえなかったのかなー?
マジシャン:んだとー!
マジシャン:おい泉!
司会者:え?私ですか?
見破り師:お前以外にこのスタジオに泉がいるのかよ!
司会者:いえ!いません!
見破り師:じゃあお前だろうよ!
司会者:はい!すみません!
マジシャン:泉ぃ!
司会者:はい!
マジシャン:進めろ・・・
司会者:・・・へ?
マジシャン:進めろぉおぉおおおおおおおおお!
マジシャン:番組をぉぉぉおおおおおおおおおおお!
マジシャン:進めろぉぉおおおおおおおおおおお!
司会者:え、えっと・・・
0:間
司会者:え、ええと、ネロ・・・さんの、マジックが終わったので・・・
司会者:太田さん
見破り師:太田でぇす・・・
司会者:ヒッ・・・
司会者:太田さん・・・あの、その
見破り師:もごもご喋ってんじゃねーよ!
見破り師:てめぇアナウンサーだろーが
司会者:は、すみません!
司会者:えっと・・・太田さん、ネロさんのマジックの種、見破ってください・・・
司会者:まず、最初に、ネロさんが空中から、トランプを出現させました・・・
司会者:ここは、どうでしたでしょうか?
見破り師:それな、簡単だ
司会者:簡単、ですか?
見破り師:ああ、泉、お前ネロの職業知ってるか
司会者:え?
司会者:えっと・・・マジシャンでは?
見破り師:ちげーーーよ!
見破り師:マジシャンになる前の職業だよ
司会者:いや、ちょっとそこまでは・・・
見破り師:印刷会社勤務だったんだよ、ヤツは
司会者:へ・・・?
見破り師:印刷会社だよ!
見破り師:いいか?トリックはこうだ
見破り師:ネロはマジシャンになる前、印刷会社に勤めていた。
見破り師:来る日も来る日も会社に通い、機械のメンテナンスをする単調な日々
見破り師:人ってのはな、単調な作業を続けてると頭がおかしくなっちまうんだ
見破り師:そしてある日、こいつは思いついたんだよ
見破り師:体にプリンターを埋め込めば、会社に行かなくても仕事ができるんじゃないかってな
見破り師:思いついたその夜に、こいつは実行した
見破り師:毎晩、家に帰ると会社からくすねてきた印刷機の部品を体に取り付けていった
見破り師:そして1年後、こいつは会社をやめた。
見破り師:2040年のビッグベン消失トリックを覚えてるか?
司会者:え、ええ・・・
見破り師:あれはな、ビッグベンが実際に消えたわけじゃあない
見破り師:ビックベンを一瞬でペイントして、背景に同化させたんだ
見破り師:持ち前の印刷機能を使ってな・・・
司会者:ええと、つまり
見破り師:こいつは超能力人間なんかじゃない、超印刷人間だ
司会者:宙(ちゅう)から出現したトランプは?
見破り師:一瞬で印刷したんだろうな
司会者:あなたの肩に乗っていたトランプは?
見破り師:一瞬で印刷したんだろうな
0:間
司会者:あの、太田さん、それがあなたの答えなんですか?
見破り師:ああ
司会者:わかりました・・・では、ネロさん
マジシャン:・・・
司会者:ネロさん?
マジシャン:・・・
司会者:あの、ええと、太田さんはこう言っていますが
司会者:その、マジックの真相は・・・
マジシャン:どうして・・・
司会者:え?
マジシャン:どうしてそれを知っているんですか・・・
司会者:えっと、ネロさん
マジシャン:太田さん!その話をどこから聞いたんですか!
司会者:ネロさん!?
マジシャン:・・・わかりました、認めましょう
マジシャン:視聴者の皆さん
マジシャン:申し訳ありませんでした。
司会者:あ、あのネロさん、これテレビなんで、急に謝罪とかは!
マジシャン:すみませんでしたぁ!!
司会者:ネロさあああああん!
マジシャン:私は、私は超能力者なんかじゃあありません!
マジシャン:太田さんの言う通り、言う通り・・・
マジシャン:ハイブリットインク用複合機、インクジェットプリント、レーザープリントに対応
マジシャン:さらに目で見たものをスキャンして、3Dプリントにまで対応している次世代プリンターを内蔵した
マジシャン:プリンター人間なんです!!
司会者:あの!ネロさん!もうほんと意味が!
マジシャン:泉さん・・・私の負けです・・・
司会者:あのねネロさん
マジシャン:泉さん!!早く私を逮捕してください!!
司会者:いやこれ逮捕とかそういうシステムじゃありませんから!
マジシャン:ファンを、視聴者を、そして業界を裏切った私に・・・!
マジシャン:プリンターの高機能を隠して独占していた私に!
マジシャン:どうか・・・どうかお裁きを・・・
司会者:ちょ、もうほんと顔上げてくださいって!
見破り師:おい、顔上げろよ
司会者:はい?
マジシャン:・・・太田さん?
見破り師:お前は、今、自分の罪を告白したんだ、みんなだって、許してくれるさ
マジシャン:太田さん・・・
見破り師:それに、すごいじゃないか
見破り師:色乗りのいいハイブリットインク使用可能で、スキャンもコピーも出来る複合機
見破り師:おまけにインクジェット、レーザープリント両方に対応してるって話だ
見破り師:それって、文字の印刷が多いオフィスでも、写真を鮮やかに印刷したい家庭でも、どっちでも使えるってことじゃねえか
マジシャン:でも、でも私は皆さんをだまして・・・
見破り師:なあネロ
マジシャン:はい・・・?
見破り師:3Dプリントも出来るのか
マジシャン:ええ、一応・・・
見破り師:どこまで再現できるんだ
マジシャン:太田さんのミニチュアを、髪の毛まで再現できるかと
見破り師:そうか
マジシャン:はい・・・
見破り師:それってもう、十分イリュージョンだと思うんだけどな
マジシャン:へ・・・?
見破り師:だってそうだろ?そこまで緻密な3Dプリントができりゃあ日本建築業界は飛躍的な進歩を遂げるだろう
見破り師:インクジェットとレーザープリントの複合機?聞いたことねえ
見破り師:それが実現すれば今までより低コストで販売できる
見破り師:日本の印刷業界が変わるよ
見破り師:それはさ
見破り師:もう十分超能力って言っていいんじゃねえのかなあ
マジシャン:太田さん・・・!
司会者:なんだこれ
見破り師:あーあ、熱くなって損したぜ
見破り師:泉さん
司会者:・・・あ、はい
見破り師:俺の負けだ
見破り師:残念ながら、こいつは本物の超能力者だったみたいだ
見破り師:あばよ
司会者:あ、あの太田さん!?
司会者:ちょ、勝手に帰らないでください!
司会者:太田さーーーん!?
0:間
司会者:えっと・・・ネロさん
マジシャン:(しくしく泣いている)
司会者:え、えーーー
司会者:今夜のパラドックスの森ですが・・・
司会者:ね、ネロさんの、勝利!です!
0:一応ファンファーレが流れる
司会者:はい、という事で、ネロさんコメントを!
マジシャン:(しくしく泣いている)
司会者:はい!ありがとうございました!
司会者:では、今夜のパラドックスの森、生放送でお送りしましたが・・・
0:スタッフから司会者にカンペが提示される
司会者:え・・・?ああ・・・えっと・・・
司会者:どうやら、局の事務所に全国の印刷会社から電話が殺到しているようです!
司会者:みなさん!今夜の放送を機に日本の印刷業界が変わるかもしれません!
司会者:それでは、はい、もうほんと、今夜はこの辺で
司会者:パラドックスの森ではあなたの身の回りにあるパラドックスを募集しております。
司会者:こちらのアドレスまで、住所、氏名を添えてご応募ください。
司会者:採用された方には番組特性ステッカーをプレゼント!
司会者:どしどしご応募ください!
司会者:次にパラドックスの森に迷い込むのはテレビの前のあなたかもしれない!
マジシャン:(しくしくしくしく)
司会者:また来週-!
0:画面が徐々にブラックアウトしていって、そのままCMが流れ始める。
0:その翌年、世界の印刷機が集まる国際フォーラムにて、日本の印刷機がグランプリを受賞することとなるが、それはまた別のお話。
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