のすたる爺の日々余命日記(笑)

遠き恋 金魚二匹の 放生会 ~駄文・昭和追想~

2016.09.09 13:59


遠い過去のことだ・・

 

往時恋が愛に変わろうとしていた

少し脳味噌緩(ゆる)いんじゃないか、とさえ

 思えるような三つ年下の小娘と

 時折の其れでも精一杯の逢瀬を重ねた短い夏。 


小生の棲み暮らした東京のあまり高級じゃない住宅地 

軽自動車一台通れるかどうか、な道幅の・・ちいさな商店街。

 近接する神社の名の付いた細長い路地で 

そこそこ賑やかに2~3日行われた夏の祭り。


 浴衣が着たいと言ったそいつに自宅から持ってこさせ 

男物の三尺で昆布巻きのように巻いて蝶結びのように結んで

 夕闇に紛れて安アパートを出た夏の夜・・・

 神社には存外立派な神輿もあり参詣の人で賑わい

 細い路地の商店街にも結構な数の露店が並んでいて・・

 小生は其処で初めて串に刺さった団子を露店で売るのを見た。


 なにせ北国の田舎青年だ、露店の甘味はぽっぽ焼き(謎)

 連れの小娘に其の怪し気な甘味の話などしながら

 他郷の祭りをなんとなく楽しみつつ逢引きをしていた時

 目に留まった金魚すくいの露店で其れをねだった小娘。


 存外に器用にポイを使い二匹・・さあっと掬いあげ・・ 

露店商に嬢ちゃん上手いねなどと言われながら 

ビニール袋の二匹の金魚、安っぽい琉金だったが 

其れを不思議な笑みで暫くしゃがみ込んで見つめて居た。




 家まで持って帰るのか?と聴いた小生に其の小娘が 

死んじゃうと可哀想だから何処かの川に放してあげるの、と 

さらに透明な笑みで振り返って言ったのを覚えて居る。 


・・何処までも二匹で一緒に泳いでいってほしいなあ・・ 


遠回りをして近くの寺の横の結構大きな川 

コンクリートの堤防の一番水面に近いところから放した時 

其の小娘は何処か遠くに投げるように呟いて小生の手を握った・・


 少し驚くような強さで、幾分汗ばんだ小さな掌を精一杯広げて。


 あの時あの子が何を想い何を考えて居たのか・・ 

今となっては知るすべもなく、思い起こしても意味の無い 

遠い淡い追憶に過ぎぬとは重々判っているのだが。


あの金魚たちは都会の川を泳いで何処に行ったのだろうなあ。 

今の小生は其処が永遠の楽園であることを密かに夢見て居る。


 多分其処にはあの小娘も共に在る、と確信しながら。