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『東風吹かば』

2021.01.14 10:25

 長いこと一人暮らしをしていたお婆ちゃんが、うちへ引っ越してくることになった。もう、家事を自力でこなすのが難しくなってしまったから、とのことで。お母さんのお母さんだから嫁姑問題はなさそうだけど、「途中からの同居って大変なんだって」なんて、学生時代の友達が言っていたのを覚えている。「だから、結婚するとき、親との同居も考えてるなら最初から同居しちゃった方がいいよ」と。私は孫だけど、それでも正直、「途中からの同居」に対して憂鬱になっている。親戚とはいえこれまで家族ではなかった、よその人がいきなり家族になるのだ。今後は、家にいても心身ともに休まらないのではないだろうか。

 今日はいよいよ、引っ越しの日。ついさっき業者が荷物を運び出したところだ。「杏南、お婆ちゃん呼んできて。もう行くよって」

「うん」

 お母さんに言われて、居間から少し奥まったところにあるお婆ちゃんの寝室へ向かう。昔ながらの日本家屋。部屋はほとんどが畳張り。廊下のすぐ外が庭になっていて、松、いぬつげの木、さざんか、つつじ、山桜、柿に金柑、ぼけの木、南天……いろいろ生えている。

 荷物のなくなった家。もともと片付いた家だったけど、やはりなんだかもの寂しい。

「お婆ちゃん、お母さんがもう行くよって」

 言いながら襖を開ける。

「あぁ、そう? ひろちゃん」

「私、杏南だよ」

「あぁ! ごめんね杏南ちゃん」

 年寄りによくあるやつ。ひろちゃんは私の従姉妹である。仕方ないとは分かっているけれど、あまりいい心地はしない。

「今ねぇ、梅を見ていたのよ」

 よいしょ、と立ち上がりながらお婆ちゃんは言った。

「梅?」

「そう、そこから見えるでしょう」

 窓の外を見ると、梅の木が白くて小さな花を咲かせている。

「うん、見えるよ」

「あれはねぇ、お婆ちゃんが小さい頃からこの家にある木なのよ」

 この話、長くなるのだろうか。面倒臭いな、と思いつつ、とりあえず「へぇ」とだけ返す。

「お婆ちゃんが小さい頃植えた梅干しの種がね、あんなに大きくなったのよ」

「へぇ……?」

 え、何それ。梅干しの種って生きてるの?




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