40歳の方は比較的妊娠します…その②
おち夢クリニック名古屋 桑波田暁子先生のお話
『i-wish ママになりたい 40歳からの不妊治療』より
ご夫婦の子どもへの希望と治療をすることへの限界
治療後の選択肢も複雑に絡み合う、とても厳しいけれども意味深い治療です。
おち夢クリニック名古屋
桑波田暁子先生
悪いことばかりではない、 40歳からの不妊治療
それでも、昔のカルテを参考に見ていると、『この人が?』という方が妊娠していて驚くケースもあります。
『絶対に厳しいなぁ』と治療をしながらこちらが思っていても、そういう方が妊娠され、赤ちゃんができて、『自分も無理だと思っていたところに、ちゃんとできて幸せに育てています』という知らせが来ることもあります。
そのような方の子どもへの愛し方をみていると、とてもいいと思いますよ。
■女性のからだも、新しい命も尊いですよね。
医師によっては、高年齢だから治療をカットしたり、患者さんをカットするという考えもあるかもしれませんが、私にはそのような考え方に、あまり馴染めないところがあります。
患者さんは自分のお金で希望を持って来ているわけですし、そういう人を排除することはできません。妊娠してもらって、一人でも多くの子どもが生まれれば素 晴らしいことじゃないですか。十分、治療をしていく意味はあるかと思いますし、希望を持って来られて、どうしてもご主人の赤ちゃんが欲しいということであれば、同じ女性としてもなんとかしてあげたいと思います。
■卵が限界、治療が限界な時には、しっかり治療ができないと伝えるのですね?
それはもう、治療できませんと言いますね。
そのほか、卵そのものに可能性があったとしても、治療に苦しんでいる人がいらっしゃいます。治療が辛くても自分からやめれないという方、そういう方には『苦しんでやることではないですから、もう潮時じゃないですか』と話します。
私にとって治療ができるのは、『可能性が低いということを分っているけれども、万が一でも自分の卵でなんとかしたい』という方です。そのような人には、こちらも黙って治療していきますね。 それには治療の適応がありますから、その適応内であれば、積極的にやめましょうということは言わな いです。
ただ、それ以外の選択肢があるということを伝える機会も増えてきました。
中には卵子提供を選ぶ人もいますし、世の中には親のいないお子さんもたくさんいますから、養子にして愛情を持って育てていくという選択肢もあるのでは、と伝えます。
■養子縁組の選択肢では具体的な組織などの紹介もしていますか?
ご自分で調べて臨まれるように話しています。
不妊治療では、年齢に関係なく、若い方でも自分の子どもを妊娠・出産できない方もいますので、そのような方にも、子どもを育てるチャンスとして養子縁組もあることを紹介します。そこでご主人の子にこだわるのでしたら、卵子提供もあることをお話しま す。
ただ、当院で直接的に実施団体を紹介したり、卵子提供をすることはしていません。
■45歳くらいになると限界を感じても、それ以上、50歳でも治療に来られる方もいらっしゃいますよね。
いらっしゃいます。そして、卵が採れるからすごいですけどね。
■それはすごいですね。女性の体には驚かされますね。
でもそういう人は、やめろと言われるのが、ものすごい怖いんですって。もう自分でも出てこないかもしれない、ダメかもしれないと思っているのに、『先生から辞めろと言われるんじゃないかと怖くて』と言います。
けれども、そのような方には『あなたが本当にご夫婦でお子さんが欲しくて治療したいということであれば、協力 はしますよ』と話します。
確かに厳しいのはもう間違いないですし、他の選択肢も考えてくださいという話もしますが、中には、50歳近くで妊娠されて出産する方もおります。
私も、本当にもうダメだ、この先あきらめた方がいいのではないかと心では思っていた方が、胚盤胞にも育たなくなり、ダメもとで桑実胚で戻したら妊娠され、その方が『私、どうして妊娠したのか分らない』というものですから、『いいえ、それはアナタの努力ですよ!』と…。
■高年齢不妊治療に限らず、取材先の産科や不妊専門施設で、50歳を超えての出産例も聞くことがあります。それは稀なケースでしょうが、女性の個人差には編集部も驚くばかりです。
本当ですね。ご夫婦がお子さんを希望されて 出産していくことの尊さというのは、社会の中でも計り知れない部分があるということをつくづく感じるものです。
■そのような話は、その方もきっとどこかで辛い思いや決心、苦労があったのではないかと、もう泣けてしまいますよね。
そのくらいの例もありますが、それは本当に運のいい方だとみなさんには伝えています。
どうしても高年齢になってくると、患者さんを制限したり、助成金もカットするという方向にありますが、確かにそれも必要かもしれません。
でも、高年齢の方って、悪いことばかりではないと思います。経済的な基盤もしっかりしていますし、それまで子どもが欲しい欲しいと思っていますから、育てる気持ち、母性もしっかりついてきていると思います。
そして何より、できたお子さんも大事にされます。
ですから、40歳以上の方の不妊治療が一概に悪いとは言えないと思いますし、治療をしたいという方には最善を尽くして治療に当たることでいいと思うのです。
あくまでも適応内で、ご夫婦の選択肢、希望の中で。
■でも先生、40歳からの女性、そして不妊治療、何が個人差を生むのでしょう?
うーん、分かりませんね。たぶん、遺伝子とか、その人の卵の減り方とかが関係しているのでしょうね。
正直、すごく差はあります。同じ女性からみても、すごくみかけがピチピチしていて若く見えても、卵がボロボロという方もいますし、その逆もあります。
■若い時から生理不順とか、月経痛がひどいというのは何か関係が?
それは子宮内膜症に関係することもありますから、ARTの治療結果とは、あまり関係ないです。しかし、AMHは関係してきます。30代とか20代なのにAMHがゼロの 方がいます。そのような方は高い確率で早発閉経になると思って、早く対応された方がいいですね。
その年代の方はAMHの値が低いことを知らずに、妊娠されている方は妊娠されていると思いますが、妊娠しない時には、早めの治療ということになります。
■AMHが関係してくるのですね。
今はブライダルチェックなどでもAMHを測ります。そこで、『私、ゼロなの』って、治療される方もいます。それはそれで賢いと思います。逆に、高年齢の方は、いつでもできる、妊娠すると思って治療を始められる方が多いように思います。