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レオナルド・猫One〜🐾

詩を忘れた金糸雀は愛の音色に紡ぎ囀る〜あなたへの愛のエチュード〜

2021.01.15 04:18

「詩を忘れた金糸雀は愛の音色に紡ぎ囀る〜あなたへの愛のエチュード〜」

 :【注意書き】

 :彼がこの女性を呼ぶ際に、「きみ」と「貴女」と二通りがあります。

 :これは彼女が年上であり、きみと呼ぶことで彼女を近くに感じたい。

 :けれど、それ以上に人として愛する思いが勝るとき、貴方と呼んでいます。

 :この内訳は書き手の自分の表現であり、読みにくいと感じる方は、「貴方」か「きみ」で統一していただいてもかまいません。

 :繊細な感情の動きを描く際に、自分の答えがこうなったのでこのまま統合しませんでした。

 :あとは、演じてくださる方の世界へお渡しいたします♪

彼:セリフは「」で閉じています。それ以外はモノローグです

彼女:セリフは「」で閉じています。それ以外はモノローグです


 :【プロローグ】(詩の朗読の様に掛け合って下さい)

彼女:貴方の気持ちに鍵をかける・・・

彼:・・・金糸雀に魅せられた月夜の海

彼女:叶わぬ指先が溶けだして・・・

彼:・・・消える香りに縋り付く

彼女:想いの海へあなたと共に・・・

彼:・・・浮かび漂い…沈み逝く


 :【現在 一】

彼:金糸雀(カナリア)を抱(いだ)く指に力を込める…

彼女:貴方の指が微かに震えているのがわかる

彼:金糸雀の細くか細い首にゆっくりと巻きつけていく

彼女:指先が氷の様に冷たく、貴方の緊張が私の肌を通して伝わってくる

彼:「…怖く、ない?」

彼女:「…ふふ。どうして?幸せすぎて・・・溶けそうよ・・・?」

彼:「貴女、は…嘘つきだから…」

 :

彼:金糸雀の指が僕の指先に絡んで、首筋から脈打つ鼓動の先に導かれていく

彼女:「貴方のピアノを奏でる指…、少し骨ばってて、すごく好きなの。想いを綴る、美しく幻想的で情緒な世界…」

彼:「きみという存在が初めて僕に生きた意味を、与えてくれた。

彼:背徳の海原(うなばら)へ漕ぎ出す船は…月明りを浴びながら…行く末がたとえ沈む事が定めだとしても・・・」

彼女:「私のわがままを・・・どうか赦さないで?」

彼:「あぁ、赦さない。だから一緒に逝こう」

 :【回想 一】

彼:売れない作曲ピアノ弾きの僕。ピアノを弾くことを捨てきれない僕に、「丁度良い」と、お金を握らされ「妻の誕生日だからピアノ演奏を頼む」と侯爵に声を掛けられた。

彼:正直、哀れみだとしても、その握らされたお金は、僕にとっては高額で、ありがたかった。

そして招かれた侯爵の屋敷で、僕は・・・金糸雀(カナリア)に出逢った。

彼女:夫に連れられたあなたはどこか悲しげな憂い顔を宿していて、でも私の瞳を見つめ、ゆっくりと花が咲くような笑顔で私に微笑みかけた

彼:「とても…美しい方…ですね、あ、真莉愛様、お誕生日おめでとうございます。では、自作の恋に捧げるセレナーデを弾かせていただきますね」

彼女:ピアノ演奏が始まると、「彼に好きなだけピアノを弾いてもらいなさい」と、誕生日の私をその場へ置き去り、夫は愛人の元へ今日も消えていった

彼:残されたあなたは顔色一つ変えずふと立ち上がり、僕が奏でるピアノの椅子の横に腰を掛け、曲を弾き終った僕の指を、どこか切なげに、でも愛おしそうにゆっくりとなぞる

彼女:「綺麗な・・・指ね」

彼:「あの、僕のピアノは、お気に召さなかった、ですか?」

彼女:「いいえ…とても素敵な演奏でした。貴方が作曲されたものなのよね?」

彼:「はい。だけどこれも横好きでしかない・・・しがない僕の「曲」。貴女を喜ばせられなくて、ごめんなさい」

彼女:「そんなことはないわ?貴方の澄んだピアノの音色に陶酔しただけ、よ?」

彼:「・・・嘘つき、、、ですね」

彼女:「・・・本当よ?私のお誕生日に、素敵なプレゼントをいただいた気分だわ?」

彼:「泣き顔さえ作れないまま・・・涙が悲鳴になって溢(こぼ)れてるのに、、、!」

彼女:「・・・みないでもらえたら、助かるのだけど」

彼:どうしてそうしたのか、わからないまま、気が付いた時、僕は力一杯…貴女を抱きしめていた

彼女:私より一回りは若いあなたの腕の中で、ゆっくりと空気を震わせて、子供の様に貴方の上着を濡らしてしまった

彼:「どうして…突き飛ばさない、のですか?」

彼女:「・・・答えが無ければ、ダメかしら?」

彼:「…いいえ、構いません」

彼女:「じゃあもう少しだけ、こうしていただける…?」

彼:ただ抱きしめているだけの時間…

彼女:だけど私は、間違いなく渇ききった心に温かさが染み渡るのを感じた

彼:必死にピアノに縋ってきた僕をきみは気に入ったのか、「毎週二回」屋敷へ呼ばれ、僕は彼女の元へ通う事となった

彼:そしてピアノの横に貴女は僕と腰を掛け、僕の指と顔を交互に眺め、もどかしそうな表情を浮かべる。

彼:美しい彼女が見せる、「子供っぽい顔」

彼:初めは貴女に見つめられることが恥ずかしかったけれど、だんだんその時間が待ち遠しいものへと僕の中で変わっていった

彼:貴女の元へ通い始め、ピアノをきみの為に奏でていたある日、即興の音色であなたが口遊(くちずさ)んだ歌声は、まるでカナリアの様に澄み渡るそれは素晴らしい囀(さえず)りの様だった

彼:あまりの綺麗な歌声に思わず僕は指を止めて聞き入ってしまった

彼女:侯爵の妻という名ばかりの私

彼女:主人が欲しかったのは私の家名の肩書きだった

彼女:屋敷へ嫁いだ日から今日まで、私は主人に身体を触れられた事はない

彼女:私に触れない夫、でも直接聞けるほど大人ではなかった

彼女:ここに来たばかりの私はまだ何も知らない子供に過ぎなかったから

彼女:そんな時が過ぎゆく中で「私」は財力により、彼の「名誉」の為に買われたのだと理解した

彼女:…夫は「男しか愛せない人」、だった・・・

彼女:私は家族にも愛されることはなかった、だから私を選んでくれた夫を愛そうと思った

彼女:でもそれは、逃げる事も出来ず、愛されることもない、籠の中の鳥になった瞬間だった・・・


彼:「美しい!なんて美しくて綺麗な歌声だ!もっと自由に歌えばいいのに…もったいない!」

彼女:「褒めてくれてありがとう、でも私は歌を忘れた金糸雀なの」

彼:「・・・「歌を忘れたカナリアは …象牙の船に 銀のかい 月夜の海に 浮かべれば 忘れた歌を 思い出す」

彼:「金糸雀は歌を忘れたのではなく、その場所を探しているだけじゃないのかな?」

彼女:「鳴かない金糸雀は山へ捨てられたほうが、楽になれたかもしれないわ…」

彼:「歌を思い出したくは、ないってこと?」

彼女:「私は、最初から歌なんて知らなかった・・・」

彼:「相変わらず…あなたは、嘘が下手だ・・・」

 :

彼:きみは本当の事を何も話そうとはしない。だが、本人の意思などは関係なく、人の噂に戸は立たず、嫌でも耳に入ってくるものなのだ

彼女:望んでも変わらない未来(さき)に打ちのめされるなら、一人で世界(いま)を終わらせる方が楽でいい

彼:気丈に振る舞うきみは気高く美しい、でも未来を描かない姿は不均衡そのもので、今にも崩れ落ちてしまいそうだった・・・

彼:それでも僕のピアノの音色に合わせて囀(さえず)るカナリアは、楔(くさび)から解き放たれたその一瞬の時間に刻み込むように、美しい歌声を響かせながら羽を広げてみせる

彼女:この愛しい時間は生まれて初めて私の心に幸福の欠片を与えてくれた

彼女:誰からも必要とされなかった私が、森の中に隠れ「自由」に鳥たちと歌った時間

彼女:いつか私を誰かが手を取りいざなってくれると夢見た・・・

彼女:でも歌うこともここでは取り上げられてしまった

彼女:夢見る事への絶望感、期待することは愚かな者へ成り下がる

彼女:どれだけ足搔こうが、どれだけのたうち回ろうが

彼女:愛されないものは愛されない

彼女:それが私へ下された審判なのだと理解した

彼女:「でも・・・貴方に・・・私は・・・恋を・・・してしまったの・・・」

【現在 二】

彼:サイドテーブルにこぼれた、白い錠剤たちと赤く輝くワイン達。

彼女:最期を迎える為の導き手は、ゆっくりと二人を想いの海原へ導いていく。

彼:「きみの憂(うれ)う顔…すごく・・・綺麗だよ」

彼女:「巻き込むつもりなんて、なかったのに。どうして来てしまったの?」

彼:「巻き込まれたなんて思ってない。僕が金糸雀(カナリア)を愛してしまっただけなんだ」

彼女:「貴方は、才能を持った人・・・なのよ?いくらでも何かを変えれるかも知れないの!」

彼:「気休めは要らないよ?…欲しいのは、目の前のきみと、この命を終わらせる為の愛だけだから」

彼女:「時代より、貴方が記す調べが先駆けているだけなのよ?!私はあなたに・・・生きて欲しいの!」

彼:金糸雀は歌声も何もかも捨てるつもりだと、理解するには容易かった

彼女:あなたを突き放したのは、夢をみそうになった私への戒めなのだ

彼:「たくさん、頑張ってきたつもり、なんだ…、諦めずに歯を食いしばって生きてきた。いつか、叶うかも知れないと」

彼女:「あなたはまだ若いのだから。諦めてはダメよ?」

彼:「…わかってるくせに…あなたが一番叶わない事への辛さを」

彼女:「別れて欲しい」と主人に告げた時、彼は私に「君は私にとって肩書き以外の価値は無く、私が君の家を救った救世主であり、君は生涯私にとって美しい飾り物であれば良いのだ」と彼は冷酷に笑った

彼:泣く事も出来ず、笑う事も出来ない金糸雀は、歌う事を忘れてしまった

彼女:家に戻ろうとした私に、両親は冷たく「あなたが戻る場所などない」と追い返された

彼女:わかっていたことだったのに、なぜまた夢を見ようとしたのだろう・・・

彼:生きる事は何故こうも、耐え難い日々の積み重ねなのだろうか?

彼女:願う事も許されず、引き戻す事さえ許されない

彼:どれだけ頑張ろうが、否応なく打ちのめされる報われることのない、努力という破片達

彼女:身ほど知らずな事を思わず、願わうことをしなければ、生きることには困らないのでしょう

彼:貴方を想い、渾身で綴った曲は「才能がないものは聞く価値を持たない」と、嘲笑(ちょうしょう)された

彼女:誰も皆…心から愛されて生きていたい

自分というものを…認めて欲しい

彼:「生きる事の価値を見出せなかった僕が…初めて生きていたことを感謝したんだ…きみに出逢えた事に」

彼女:「…ごめんなさい…私があなたを願ったせいね・・・」

彼:「…謝らないで。それから。もう…僕の前で、嘘を付かなくて…いいんだよ?」

彼女:「…誰かと初めて…心を分かち合いたいと思ってしまった。私の弱さで貴方を巻き込んで・・・本当にごめんなさい・・・」

彼:「うん、僕も同じだよ?だから、僕は貴女にありがとうを伝えたいんだ」

彼女:「生きることに疲れ果てていた私に、幸福の欠片を貴方は与えてくれた」

彼:「自分の存在を欲してくれたきみに恋をして、僕の愛の形を標し、貴女と共に自由な世界へ旅立つ為にここに来たんだ」

彼女:「…ひとまわりも年が違う私が、貴方を欲しがる事、未来を止めてしまう事、この罪を神は赦しはしないでしょう」

彼:「背徳という罪で神に背いたとしても、きみと一緒に堕ちてゆくのなら。赦されて生きるより幸せだと僕は感じている」

彼女:「・・・願っていいの?」

彼:「・・・願っていいんだよ?」

彼女:「私の息を・・・貴方の手で止めて?」

彼:「あぁ、二人で月夜の海原に旅立とう・・・」

【回想 二】

彼:愛しい想いが僕の中から零(こぼ)れ出す

人を愛するということは時として、安らぎであり、また時として、不安に襲われる

彼:「一喜一憂」その言葉がぴったりだと思わされる

彼女:生きることに価値を見出せなくなっていた私が、週に二度の時を過ごしていく中で、逢える日を待ち遠しく感じる時が嬉しくもあり、欲張りになっていく自分を怖くも感じていた

彼:「貴女に捧げる為に、綴(つづ)ってみた・・・」

彼女:「・・・すごく幻想的で素敵な曲ね」

彼:「きみの笑顔や仕草、囀る歌声・・・僕なりの表現だけど」

彼女:「貴方の描(えが)く曲は、未来を紡ぐ、そんな調べね…時が追い付いてないそんな気がする・・・」

彼:「・・・今日はどうして、そんな浮かない顔をしてる?」

彼女:「貴方に会えたのに、浮かない顔なんてしている訳がないでしょう?」

彼:「・・・言葉は時として残酷だ」

彼女:「・・・どうして、そう思うの?」

彼:「言葉のベールが本当の心を隠し、見えなくしてしまうから、かな?」

彼女:「・・・だけど純粋な言葉は、凶器にもなり、心さえ抉り取るのよ?」

彼:「きみが僕に与える傷なら、甘んじて受け入れるつもりだよ?」

彼女:「・・・そう。なら、来週から、もうここに来なくて、いいわ」

彼:「なっ、何?!いきなり、なんでそうなる?!」

彼女:「そうね、飽きてしまったからかしら?」

彼:「嫌だ!そんな・・・、ひどすぎるよ!離れたくない!」

彼女:「半年の間、とても楽しかったわ。どうか貴方の未来が、神の加護にあふれますように」

彼:「どうして?・・・どうして、貴女まで僕を突き放すんだ!?神なんて、、、何も救ってくれないだろ!神の加護なんていらない!きみがいれば僕はそれでいい!!

彼女:「・・・貴方は幸せでいて?では、ごきげんよう」

彼:無表情のまま、部屋から出ていった金糸雀は、そのまま僕を振り返ることはしなかった

彼女:私は私の物語を終わらせる

彼女:何も幸せを見出せなかった私が、あなたに会えて分けてもらえた時間は、生きたことを後悔しなくて済む「幸福の欠片」を与えてくれた

彼女:これ以上そばに居れば、叶わない思いは広がり、貴方を欲しがり強請り、手を伸ばしたくなる

彼女:貴方は間違いなく、時が追い付けば輝く才能を持っているのだと、私に捧げてくれた曲を聴いて感じた

彼女:涙が溢れて止まらない、貴方の愛が綴られた私への想い

彼女:私はこの想いだけで十分すぎるほど生きた喜びとなる!

彼女:だからこそ、この世で生きる意味を諦めた私の細胞全てに、渾身の嘘を塗り固める

彼女:「貴方は私には必要ない人」なのだと・・・!!!

彼:彼女の元へ何度も通い、面会を求めたが、二度と会ってくれることはなかった

彼:逢えない想いが今にも張り裂けてしまいそうで、それを紛らわすように作曲に没頭した

彼:誰かの為ではなく、彼女の為のエチュードを綴る

彼:僕が奏でるピアノにきみが囀る詩(うた)

彼:想い描く・・・、例えそれが生きるという選択ではなくても、僕は貴女となら幸せなのだと・・・。

彼:貴方へ届けたい!

彼:僕はこの曲が出来あがったらもう悔いはない!


【現在 三】

彼女:この広い屋敷の奥に、新しい部屋を夫から与えられた

彼女:大きな化粧台の前に置かれた手紙を、開き読み終わったとき、最後の糸が切れる音が私の中で雷鳴の様に大きく打ち響いた

 :(夫からの手紙を無機質に読む)

彼女:「ご両親から聞いたよ。私の性癖を知ってしまったんだね?

彼女:でも君さえ我慢すれば、皆幸せでいれる。ご両親も、私も、君も、君を取り囲むすべてが!

彼女:新しい部屋で、与えられた時を過ごしなさい。

彼女:君は・・・籠の中の鳥。

彼女:外に羽ばたけば、生きる事さえ出来ないのだから、わかるだろう?」

彼女:私は自由にはなれない籠の鳥

彼女:ここの中で静かに息絶える事、周りもそれを望んでいる

彼女:ずっと感じていたこと、目を背けてきたこと、でも言葉として目の前に標されて痛感した

彼女:これでもう思い残すことは何もない

彼女:かかりつけの医者から不眠症の薬を多めにもらっていたものを、ずっとこの日の為に溜め込んできた

彼女:目覚める事のない朝を迎えるための私の担い手

 :

彼女:「本当の自由へ、漕ぎ出しましょう」

 :

彼女:後は貴方が私の為に綴ってくれたあの曲に包まれながら、眠りにつけるなら思い残すことはない・・・

 :

彼女:「今夜は満月。月の光に照らされて漂(ただよ)う海原(うなばら)はさぞ綺麗でしょうね・・・」

彼女:用意していたワインを開けて、一口含んで香りを楽しんだ後、白い錠剤を瓶から取り出しワインと共に身体に流し込んでいく

彼女:瞳を閉じて貴方の奏でるピアノの音色を、記憶のレコードで体内すべてを満たしていく

 :

彼女:「あなたと過ごせた時間のおかげなの・・・、あなたを愛する気持ちがこの世界から解き放たれる勇気を与えてくれた・・・私は、今とても幸せよ・・・」

彼:「ねぇ・・・きみのホントの気持ちを・・・僕にも・・・与えてよ・・・!」

彼女:「・・・え?」

 :

彼女:部屋の外から甘く切ない貴方の声が聞こえたような気がして、その方向へ視線を向けると、バルコニーの手摺に腰を掛けて、すっかり痩せてしまった切ない視線が私を捉えていた

 :

彼女:「・・・どうやってここまで?!」

彼:「この木をつたって・・・逢いたかった!貴女にずっと逢いたかった!!貴女と僕を隔てるこの窓を開けてはくれませんか?」

彼女:「・・・だめよ。帰って!」

彼:「そうか。うん、僕の帰る所は一つだけしかないんだ。だから、そこに戻ることが出来ないなら、先に僕は旅立つよ・・・!」

彼女:そう言って手摺から身体を翻(ひるがえ)して、飛び出そうとした貴方に慌てて縋りついた

 :

彼女:「待って!ダメよ!お願い!」

彼:ふらつきながら必死で僕に手を伸ばす貴女を抱きしめながら、やはりこの金糸雀は嘘つきだったと、改めて愛しさが溢れ、息もできない程、この金糸雀を愛していると、もう二度とこの手から逃がさないと心に誓う

彼:「やっとつかまえた・・・逢いたかった・・・!」

彼女:「どうして?!!なぜ来てしまったの?!」

彼:「・・・わかってるくせに。きみと一緒に、銀の月に照らされながら旅立つためだよ?」

彼女:「私一人の旅でよかったの・・・、貴方の人生を巻き込むことは出来ない・・・」

彼:「わかってる。きみが嘘を吐(つ)く全てが、自分を押し殺し、誰かを守る為だという事も。その全てが僕にとって、愛しい」

彼女:「あぁ・・・、あなたはずるい。私が欲しい言葉を、知らないままでいさせてくれたら」

彼:「僕があなたに与えられるものは、煌びやかなものは何もない。

彼:それでも目の前にいる僕は誰よりもきみを思い描き欲しいているんだ。

彼:だから僕の全てを差し出すから一緒に奏でる旅に出よう?」

彼女:貴方の瞳には強い意志が刻まれていて、乾ききった心に愛が染み渡るのを感じた。

彼:独りではないんだと、ただそれだけの事が、こんなにも世界を美しいものに変えていく。

彼女:「死を選ぶことは間違いだ」と嘲笑されるかも知れない。

彼:「死を選ぶぐらいなら何でも変えられるはずだ」と諭すものもいるかも知れない。

彼女:人からみれば、絶望の淵の選択以外に何もなく映るのかも知れない。

彼:でも・・・それでいい。

彼女:間違いなく、自身が選び、心重なり合う喜び、銀の月に照らされて二人で漕ぎ出す船旅なのだから。

彼:「きみの唇から口移しでその錠剤を僕に与えて?」

彼女:「私も貴方から甘い口づけが・・・欲しい」

彼:殺風景な部屋にいざなわれ、腰かけたソファーの上できみがそっとワインを口に含み、僕の口へ流し込む

彼:まるで血のような色のボルドーがきみを伝い、僕の中へ注がれると、甘く優しい葡萄酒の香りときみの潤む瞳で染み渡る先から酔い痺れていく

 :

彼:「なんて甘い香りなんだろう・・・貴女の血が僕と交わっていく」

彼女:「あぁ・・・。言葉に出来ない程、、、愛しい人・・・」

彼:「もっときみを与えて?ずっと我慢してたんだ。だから、もう・・・」

彼女:「・・・えぇ。もう我慢なんてしない・・・!

彼女:こんな素敵な最後の晩餐を与えてくれて、私が生きてきたご褒美を、貴方自身から与えてもらえるなんて・・・」

彼:「綺麗だよ・・・その髪も、瞳も、この紅(べに)に染まる肌も・・・全て僕だけのものだ」

彼女:「誰にも愛されることがなかった私の肌を・・・、貴方の色に染めてもらえる私は、、、最高の人生だわ・・・」

彼:生まれたままの姿になって、隅々まで君に口づけを落としていく

彼女:赤い花びらが、私の肌に刻まれて、あなたの与える蜜で満たされてゆく

彼:また一錠、お互いに白い錠剤を口で溶かしながら、ゆっくりと迫ってくる海原に向かって、幾度となくきみの肌も心も混ざり合いながら、僕は神に感謝した

彼女:貴方に愛されるために、この肌はずっと誰にも触れられることがなかったのかと思うほど、甘くてそして泡沫の眠りの中で、貴方に刻まれる痛みは愛そのもので、優しく撫でられながら私の名前を、切なげに繰り返し呼ぶ声が、全てが・・・愛という彩りを与えてくれる・・・

彼:「貴女が誰よりも好きだ・・・」

彼女:「貴方に愛されて・・・私は蜜を啄(ついば)む鳥になる・・・」

彼:「美しい音色で囀(さえず)る金糸雀(カナリア)・・・僕だけのものだよ・・・」

彼女:「貴方の腕の中で、、、私は歌う意味を思い出した・・・」

彼:「この薬だけでは、きっと・・・逝くことは出来ないから、僕がきみの未来事、奪ってあげるから・・・」

彼女:「貴方の指で・・・この・・・想いの海へ・・・二度と目覚める事のない、この・・・幸せな時間のまま・・・沈めて」

彼:「僕の愛はきみと一緒に寄り添う・・・離れる事はない。

彼:きみが望む終わりと始まりは僕の手で・・・僕もすぐにきみの元に逝くから・・・」

 :

彼:目の前で甘く囀る金糸雀の首筋に・・・そっと指を絡ませていく

彼女:冷たく凍るような指先が、貴方の決意なのだとわかって、さらに幸せを感じる

彼:「怖く・・・ない?」

彼女:「全然・・・?幸せすぎて・・・溶けそうよ・・・」

彼:「本当に・・・僕の手でいい?」

彼女:「貴方の手で終われるなら・・・思い残すことは・・・何もない」

彼:「・・・わかった・・・」

 :

彼:だんだん意識が遠退(とうの)く貴女にに寄り添いながら、僕は脈打つきみの喉元をゆっくり、さらに・・・力を加えていく・・・

 :【首を絞めていくシーンになります ここの表現はお任せいたします】

彼女:「ごめんな・・・さいね・・・わがままを・・・言って・・・」

彼:「ううん・・・だい・・・じょうぶだよ・・・」

彼女:「・・・私を・・・赦さないで・・・?」

彼:「・・・赦さない・・・先に逝くことを望むきみを・・・。だけどそれすら僕の鎖で繋いで・・・離れられない様に・・・閉じ込めてあげるから」

彼女:「あなた・・・のゆびから、ピアノ・・・の、おとが・・・きこえてくる・・・」

彼:「きみを・・・感じながら・・・愛を奏でている・・・」

彼女:「・・・う・・れ・・・しい・・っ・・・」

「きみを愛してる・・・愛してる・・・愛して彼:る・・・愛してる!(何度もキスを落しながら呟く)」

彼女:「・・・ぎん・・のうみ・・・すごく・・・きれ・・・・い」

 :

彼:僕の指から・・・貴女の鼓動が・・・消えた・・・

彼:貴女の顔は・・・今まで見た中で一番、幸せそうな顔を・・・浮かべている

彼:とても幸せそうで・・・僕は・・・喜びと共に嗚咽(おえつ)をあげた

 :

彼:「綺麗だ・・・よ・・・愛しい人・・・銀の月に照らされながら・・・貴女は待って・・・くれているのだろう・・・今から・・・逝くよ」

 :

彼:微笑みを浮かべるきみを抱き上げ、綺麗に身支度を整えると湯を張ったバスタブに、きみを抱きしめながら浸かった・・・

彼:まだ温かい貴女の肌と一緒に誘なう眠りの世界へ沈んでいく

彼:不思議な程穏やかで・・・そこに恐怖など微塵も感じない・・・

彼:身体が・・・沈んでいく中で・・・きみの手が僕に伸びた気がして・・・

彼:僕は最期の力を絞り出して・・・その指先に触れた・・・

彼:離れる事がないように・・・

彼:迷わず貴女の元へ辿り着く様に・・・

 :

彼:「ぼく・・・も・・・あ・・いして・・る・・・」

 :【回想 三】

彼女:二人の末路は、誰からの目からも触れる事がないように密葬という形で幕を閉じた。

 :

彼女:薬の誤飲で急死した「侯爵の妻」

彼:変死した、しがない作曲家「名もない若者」

 :

彼:だが過ぎ去る時の中で、この二人の愛の物語は「歌劇」の「歌曲」として命を吹き込まれるのである。

彼:一人の音楽家が、彼が残した物語として作曲した楽譜と彼女が歌うために綴った歌曲を発見し、手に取りその素晴らしさに涙した。

彼女:彼が描いた「名もない愛のエチュード」は、歌劇という新しい世界として世に送り出されると、悲恋でもありながら深い愛の物語は、世情と重なり瞬く間に人々の心に刻まれ、彼の名前は多くの人に知れ渡ることとなった。

彼:彼と彼の愛する金糸雀が象牙の船に揺られながら 月夜の海に旅立って五十年の歳月が経ち、彼が未来を先駆けて音を紡いでいた天才であったことが、世の中で証明された瞬間でもあった

彼女:「ほら・・・だから言ったでしょ?貴方はとても才能のある人だったのよ?」

彼:「きみに逢えたからこそ描けた曲だから・・・これでいいんだよ」

彼女:「貴方が描いた世界はとても優しくてやっぱり未来を紡いだ調べだったのね」

彼:「赦されることのない世界・・・でも僕はあなたに会えて幸せだよ」

彼女:「愛の彩りを与えてくれた貴方をこれからもずっと・・・愛しているわ」

彼:「歌を忘れたカナリアは …象牙の船に 銀のかい 月夜の海に 浮かべれば 忘れた歌を 思い出す」

彼女:「貴方は私に愛を注いで、ここへ導いてくれた・・・」

彼:「きみは…僕を…受け入れてくれた」

彼女:「不器用な愛し方しかできなかったけれど」

彼:「愛の形が分からなくて、手探りだった」

彼女:「だからこそ精一杯の自分たちの愛の意味を」

彼:「二人で導き出した背徳の先にある想いへの旅立ち・・・」

彼女:沈んでいく・・・意識の中で、不思議と心地良くて・・・

彼女:貴方の愛に包まれながら漕ぎ出した船の上で、私は貴方を導く為の歌を囀る

彼:やっと…きみの心へ辿り着けたんだと…君の囀る歌声にいざなわれ・・・想いの海へ手を伸ばした

彼女:もう二度と目覚めることのない、沈みゆく深海の底で身動きのできないこの場所で

彼:周りから理解されなくても、罵られても、私達は幸せだと言える世界

彼女:貴方に巡り合えてよかった

彼:貴女を愛せてよかった

彼女:水辺に木の葉が二枚寄り添うように浮かびながら・・・自然の音色に合せて揺らめく

彼:歌を忘れた金糸雀は、僕の隣で今日も囀る

 :

 :【Fin】