信頼性設計の本当の意味
新製品を開発する場合、お客様の要求を理解して、デザイン、機能性能、操作性などを検討し、図面を書いて寸法形状を決めます。しかし、これだけでは設計したことになりません。設計では、お客様が購入する価格、保守性や信頼性・安全性まで総合的に検討する必要があります。
工場を出荷するまでにはデザイン、機能性能、操作性、寸法・形状は目で確認したり、実際に動かしてみて計測するなど確認を行って不良流出を阻止できます。しかし、信頼性と安全性は、外観では確認できず、また定量的に計測することができません。したがって、市場に出てから、使用者の取り扱い方法、使用環境劣化などによって故障が発生し、それが事故や災害につながることがあります。
では、信頼性・安全性について、市場でトラブルが発生しないようにするには設計時点でどのようなことを考慮すればいいでしょうか?
従来は、機能設計プロセス(デザイン、機能性能、操作性の検討、寸法形状を決める)と、社内で決めた信頼性規格・基準に沿って信頼性設計を行い、信頼性評価として、試作機を作って、いじわるテストを実施したり環境試験を行い、一定の基準を合格すれば安全性も信頼性も合格と判断しました。しかし、信頼性設計・評価試験を十分に行ったつもりでも、市場でのトラブルは防止できませんでした。
多くの部品から構成される機械や設備では, その故障率は時間の経過とともに変化する(バスタブカーブ)。 MTBF/MTTRなど、故障を前提とした信頼性指標を用いて、評価を行っていました。
寿命特性曲線(バスタブ曲線)は
初期故障期:設計ミスや製造による不具合が発生する時期
偶発故障期:設備の故障率が最も低い安定期
摩耗故障期:部品の寿命が来て再び故障率が上昇する時期
これは、故障発生を前提とした従来の信頼性の考え方で、ある意味メーカーの勝手な論理で定義したものであり、故障発生を前提とした製品は顧客にとって到底納得できないものと考えられます。
では、顧客満足が得られる信頼性とは、どのように考えればいいでしょうか?
①故障しないこと
②万が一故障発生しても人的、経済的損失(リスク)を最小に抑えること
③製品のみならず、企業全体として市場(顧客)の期待に応える品質を追求し、信頼を得ること
設計終了後の評価テストや、製造工程の試験、検査で発見できない不具合が市場で発生することが良くあります。自動車の構造欠陥、食品や化粧品への異物混入など、重大な事故につながる可能性のある不具合は、リコールの対象になります。では、なぜ設計時点、また製造工程でこのような不具合が見過ごされてしまい、市場の要求に応えられる対応ができないのでしょうか?
そこでリスクという概念に注目してみます。
リスクとは、発生頻度(故障率)×影響度(故障がもたらす事故や最愛の程度)の式で表されます。 発生頻度(故障率)は、部品がある確率で破損する、製造ばらつきが生じるなどによって、不具合が生じる度合いを言います。つまり、完全にばらつきはなくすことができないのですが、できるだけ余裕度をみて設計を行う方法がとられてきました。
しかし、従来設計時点で考えるのはここまででした。不具合が生じた後の影響(事故や災害)についてはあまり深く考えずに設計していました。また使用者の誤操作についても、操作ミスとして使用者の責任と考えられてきました。しかし、現在では、故障が起きた後の影響も考えて設計することの必要性が求められるようになっています。
つまり、リスクベースの設計を行って、設計時点でリスクを洗い出すこと、そして、万が一故障してもその影響を最小限に食い止める対策をあらかじめ講じておくことが必要になっています。製造工程においても、製造ばらつきや人的ミスによって、市場でトラブルが発生しないように、リスクベースの工程設計を行う必要があるのです。
基本になるのは・・・
「この部品が壊れたら、顧客にどのような影響が出るだろうか」
「このボタンを押し間違えたら使用者にどんな危害を与えるだろうか」
「この製造工程を飛ばしてしまったら、事故につながらないだろうか」
というように、リスクベースの考え方を徹底しなければならないのです。何も難しい理論や手法を取り入れる必要はありません。まずこの基本に立って、設計の仕組み、製造工程設計の仕組み、教育のしくみを見直したときに、不備や欠陥が必ず見つかると思います。