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進歩は工夫とともに…その①

2016.09.16 05:24


IVF詠田クリニック院長 永田由美先生のお話
『i-wish ママになりたい 不妊治療の今』より 


治療ではプライバシーを守ることも大事 ! 
でも、オープンにすることも大切だから見える培養室に


IVF詠田クリニック院長
詠田由美先生



医師は、患者の身体情報をわかりやすく伝えるトランスレーター。
説明不足から、患者さんが治療への不安や心配を抱えないためにも必要

 「詠田先生、どうして見える培養室をつくったのですか?」その質問に詠田先生は、「患者さんからの要望もあったのですが、治療のことはきちんとオープンにした方がいいと思っていますから…」と答えてくれました。 

 初めて私たちがここを取材したのは2005年のことでしたが、やはり同じことを聞いていたことを思い出します。そして、そのときの先生の印象は、優しく厳しい人。それは、訪れる患者さんに対しても、診療に対してもです。 

 厳しいといっても、それは優しさからくるものであることはいうまでもありません。そして、診療では不妊となっている原因を的確に把握すること、それをしっかりと診て、きちんと伝えること…。けっして曖昧にはしないで、診たこと、判断したことをきちんと伝えて、治療をオープンにすること。 

 そのとき、先生は「私たちは、診察や検査、治療から得られたデータをわかりやすく伝えるトランスレーターでもあるのよ。それは、的確な治療をするためでもあり、赤ちゃんを授かりたいと通院される患者さんが自分の身体をコントロールするためでもあるのよね…」と話していたのです。 

 2005年と比べ、患者さんの数はずいぶんと増え、年齢層も高くなりました。それとともにクリニックの規模が拡張され、スタッフの数も増えましたが、先生の考え方は変わっていませんでした。むしろそれを徹底し、充実させるために、洗練してきたように感じます。そこから、見える培養室は生まれたのです。

  この『見える培養室』は、患者さんがわかりやすい、不安の少ない、心配のない治療を受けるためにも必要なもの。 

 先生が、話しながら「とにかく、見た方が早いから上のフロアに行きましょう」と案内してくれました。 

 そこには思わず、「うわぁ!」と声を上げる光景がありました。 


<ガラス窓越しに見えるクリーンな培養室>

 LAB WORKSの表示の下には、1枚ガラス。その向こうに培養室が見えます。 

 まるで、宇宙船の中のようにも感じ、中にいる培養士さんたちの仕事ぶりも目に入ります。 

 「あれがインキュベータか。あの顕微鏡は何の作業をするところなんだろう?」 

 思わずガラスに張り付くようにして中をよく見てしまいます。これが患者さんだったら、何を思うだろう?「私の卵、どこにあるかな? 元気でいるかな?」などかな? 

 ふと新生児室が思い浮かびました。新生児室は、生まれたばかりの赤ちゃんをガラス越しに見ることができる部屋。一般の人は入ることができませんが、そこでは生まれたばかりの赤ちゃんを見ることができます。

  卵だっていつか命になる自分の子ども、まだまだしっかりと赤ちゃんになれないでいる超極小未熟児だと例えれば、どうしているかと心配になり、ちょっとでも近くに行きたいと思うかもしれません。そこまでは考えなくても、どのようなところに預けていて、どのような環境で育てられ、自分のお腹に戻ってくるのかを知りたいと思うのが素直な感情ではないでしょうか。それが一目瞭然。目の前に広がっています。 

 「ここでね、しばらく見てから、拝んで帰る人もいるのよ」と先生が教えてくれました。 

 「私のところに無事に戻ってきてね。待っているよ。培養士さん、よろしくお願いします」と、思わず手を合わせてしまうのでしょう。



採卵手術の前に院内ツアーで説明や紹介をしています

 患者さんが体外受精に進んだ場合、治療周期にはさまざまなことが必要となります。治療周期を開始するための基礎検査、そこから卵巣刺激の有無や方法が決められ、実際の投薬も始まります。そして、卵胞が順調に成長すると、採卵手術が予定されます。 

 初めての体外受精、また手術となれば誰にでも不安や心配が付きまといます。そこでIVF詠田クリニックでは、初めて体外受精を受ける方を対象にした院内ツアーを行っています。これは、採卵手術が決定したときに行われるツアーで、メディカルコーディネーターが診療部の上階にある手術室や安静室、培養室を案内し、受付方法や採卵手術時の手順や準備などを説明しながら、当日のルートを辿っていきます。

  看護師長の愛甲さんからは、「患者さんたちは、なぜ自分が不妊なのか。どうして治療が必要なのかを、しっかりと知りたい、理解したいと思っています。ですから、本質的なことや、治療に関することをきちんと説明してほしいという大きな期待があります。とくに転院されてくる方の中に多いのですが、よくわからずに体外受精を受けてきたという方もいらっしゃいます。この院内ツアーは、より自分の治療を理解していただくために、また、いつも通院する診療部の階とは違いますので、手術当日、患者さんが困らないように、心配にならないようにと始めたものです。あらかじめ、目にすること、歩いてみることで、理解もしやすいですし、とても安心していただけるようです」と話してくれました。

  院内ツアーでは、ロッカーの使い方や着替え、またベッドの使い方から、どのように手術が行われるのか、その手術室の見学や採卵した卵子の行方なども説明がされます。また、卵子、精子、そして受精卵が預けられる培養室も目にすることができますので、自分が受ける治療と、そこに携わる人の姿も見られるという安心感は、きっと医師やスタッフへの信頼感にもつながっていくのではないかと感じました。 



進歩は工夫とともに…その②
進歩は工夫とともに…その③


IVF詠田クリニック院長 永田由美先生のお話
(2014年11月30日発行 『i-wish ママになりたい 不妊治療の今』の記事です)