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日本男声合唱史研究室

丸山忠璋 「津川主一の生涯と業績 -神と人と音楽とに仕えて-」

2016.08.11 15:00

  2016-08-12

  今は知る人が少なくなったかもしれないけど,1970年代頃は楽譜を探しに行くと彼が訳した作品がたくさんあった。男声合唱では「シューベルト男声合唱曲集」や「メンデルスゾーン男声合唱曲集」が双璧で,訳詞と共に解説が付されていて。曲の理解に大いに役に立った。合唱の世界では,1960年代まではまだ訳詞が幅を効かせていたので,津川が訳した膨大な楽譜は大変重要なレパートリーだった。70年代に入り,原語で歌われるのが当たり前になり,需要がなくなり次々と絶版になってしまったのだけど。  津川主一は関西学院の神学部に入学,グリークラブに入部し「大いに活躍された」。主一の名からもクリスチャンである事と伺われるが,合唱音楽だけでなく教会音楽や黒人霊歌,フォスターの歌曲を日本に根付かせるのに大変大きな功績のあった人である。著者は津川の遺族から蔵書を寄贈され,彼の生涯と業績の研究を始め,まとめたものがこの本。元となる論文の一つ「津川主一の作品研究 -蔵書にみる著作物の傾向-」は国会図書館で読んだ。

 詳細に分析するものではないけど,生涯や著作がまとまっていて,便利な本。ちょっと奇妙なのは,合唱名曲選集の男声編が,9巻しかリストにない事。全30巻のうち3巻,6巻,9巻,13巻,16巻,19巻,23巻,26巻,29巻が男声である。

 生涯を通読してみて,フォスターや黒人霊歌など,弱きものや虐げられたものの歌に彼の目が注がれているところに,クリスチャンとしての矜持を感じた。合唱の視点からのみ見ていると,なかなか気づかない事である。