伊東乾「なぜ猫は鏡を見ないか? 音楽と心の進化誌」 2014.12.17 15:00 2014-12-18 現代音楽と言えば,「古典的」な音楽がメロディーやハーモニーの美しさなどを聴かせるのに対して,何をやっているのか分からなくて閉口する,というのが今までの印象だった。伊東氏は,東京大学の理学部物理学科を卒業した上に,作曲者にして指揮者というとんでもない人のようなんだけど,この本を読んで,現代音楽とは人間と音楽の関係を様々に考え仮説をおき,実験する試みであると理解できた。つまり,何も知らずに感性のみで楽しめるような物ではない。作曲家がこの曲で何を「実験」しようとしているのかについての知識と理解が必要だ。でないと,どこが(何が)聴き所なのか,分からないように思う。 しかし,音楽の「最先端」ではこんなにいろんな事を考えて取り組んでいるのですねぇ。大脳生理学から,最新のサンプリング技術まで駆使しているのには参った。「音楽は感性の数学であり,数学は理性の音楽である」という言葉があったと思うけど,まさにそんな感じ。著者が行った音楽に関する面白い取り組みが沢山紹介されているのだけど,残念ながら一つ一つの説明は充分ではない。紙数の制限もあるので仕方が無いのだろうけど,他の著書でも詳細はなさそうなので,文献検索をかけて詳細を読むしかなさそうだ。ホントの専門研究とはそういうものなのだけど。また,著者自らも言うように,「いろんな仕事の扇の要と言うべき博士論文が公開されていない」のも残念。これは国会図書館あたりで借り出すしかないか。 ギリシア古代史の「長短リズム」が「強弱リズム」に変わっていった謎を「音響学的」に考える話も,興味深かった。ジュリアン・ジェインズは「神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡」で,古代の人々「意識」を持っておらず,聞こえてくる神の声に違って行動していたが,いつの間にか聞こえなくなった・・という説を展開しているけれど,音響の話とも関係あるのかもしれない。いやいや,面白いは。 その他にも,ちょっとした記述が勉強になったことも多い。オルガンの語源,ポリフォニーの起源に関する仮説など。音楽に関心ある人には,読み応えのある本です。 なぜ猫は鏡を見ないか?―音楽と心の進化誌 (NHKブックス No.1201)