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研究は患者さんのため…その②

2016.09.21 06:53


山下湘南夢クリニック院長 山下直樹先生のお話 
『i-wish ママになりたい 不妊治療の今』より


患者さんの信頼に応えたい!
それが研究に向かう原動力です。


不妊治療施設の多くが研究をしています。それは患者さんの希望に応え、夢を実現するため。  

クリニックでは、実際にどのように研究を行っているのでしょう。


山下湘南夢クリニック 研究室室長
中田久美子胚培養士


自分の子どもでも大丈夫と言えるか!?安全でウソのない研究をしていきます

 次に実際に研究に当っている研究室室長の中田久美子さんにお話をうかがいました。中田さんは研究に勤しむかたわら週1回は培養士としても勤務しており、患者さんと話をすることもあるそうです。


患者さんの声が研究の発端に…

編集■こちらで研究がスタートした当初から研究に携わっているのですか? 

中田■はい。勤務して4年目になりますが、最初の1年は培養士として働いており、その後、研究に携わるようになりました。現在は大学や病院、企業などと提携して7つの研究を進めています。  研究は何がきっかけで始まるかはわかりません。例えば患者さんの質問や疑問から、「こんな疑問を抱えているんだな」「こんなことを望んでいるんだな」と気付き、それが研究の発端になることもあります。  胚の良し悪しを培養液の成分から判断する研究も患者さんの疑問をきっかけに始まった研究と言えます。この患者さんは、良い卵子が2つ採れて、片方では妊娠できず、もう1個で妊娠したのですが、見ためは本当に同じだったのです。そのときに「どうして、こんなことが起こったのですか?」と質問を受けました。私たちも常日頃、感じていたことですが、何か探る方法はないかと考えていったときに、例えば尿のように代謝するものから何かがわかるんじゃないかと。赤ちゃんになりにくい胚というのは、胚自体から何か悪いものが出ているんじゃないかと思ったんです。そこで培養液の成分を微量解析できる装置を持っている慈恵医大の先生にお願いして調べてもらうことにしました。 

編集■他の研究のきっかけは?  

中田■これは実験方法についてですが、水素を用いた生殖細胞の活性化の研究があります。この研究では、研究用の提供胚を使いたかったのですが、実際に人の胚を使うということは倫理的にも問題があると感じ、他に何か良い方法はないかと考えていたときに、廃棄する精子だったらどうかと思いつき、試してみました。すると、動かなくなっていた精子が元気になって動くことを確認できました。  当初は、精子が動いているのを目の当たりにしても信じられなくて、ビデオ録画をして何度も検証しても信じられないくらい驚きました。  この研究については倫理委員会でも了解が得られたので、今後、臨床に入ろうと思っています。精子に重度の問題がある患者さんなどの治療に役立てていきたいと考えています。 


この研究をして大丈夫か?自問自答を繰り返しています! 

編集■新しい技術の開発はもちろん喜ばしいことですが、安全性も重要ですね。  

中田■研究をするときによく「自分が患者だったらどうか」と考えるのですが、自分も子どもがいますので、危険なことはしたくありません。ですから、この研究は倫理的にも本当にしても大丈夫だと言えるかどうかを、まず最初に考えますね。研究方法も、胚に侵襲性の高い方法より、水素やナノバブルのようなものを使って安全性の高い環境での作用に期待するような研究をしていきたいと思っています。そうしないと、何かが起こったときに「あの時にあんなことをしたから子どもに影響が出たんじゃないか」と思うのは親としてごく普通のことですし、そこから起こる問題はとても大きなものとなりますよね。 

 本当のところ、私が一番に思うことは、こういう研究が必要のない世の中になったらいいのにということです。今は女性が働くのは普通になっていますし、男性もなかなか結婚しなかったりで、40歳以上になってから妊娠を目指す方も少なくありませんからね。そのことに目を向けることの大事さも感じています。 


共同研究のメリットはウソをつけないことです

編集■社会背景が影響している側面もありますが、研究も、すぐに結果がかわるというものではありませんよね。  

中田■そうですね。私たちは社会の中で生きているのですから、そこでやるからには自信を持って大丈夫と言える研究をしていきたいと思っています。その意味では、共同研究をする研究者も同じように考えてくださる方であってほしいと思っていますし、みなさん、きっと思いは同じかと思います。そして、同じ志を持つ研究者とウソのない研究をしていけたらと願っています。  また、外部と共同研究をするメリットのひとつに、データを改ざんしたりする危険性がないということがあります。これは研究者としてとても大切なことで、決してあってはいけないことなのですが、一つの場所で研究をしていると、データをよりよいものにしてしまったり、「これくらいは…」という気持ちが出てしまいかねませんし、最近、よくニュースでも捏造など問題になっていますよね。絶対にいけません。 



研究は患者さんのため…その① 
研究は患者さんのため…その③


 山下湘南夢クリニック院長 山下直樹先生のお話 
 (2014年11月30日発行 『i-wish ママになりたい 不妊治療の今』の記事です )