Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

のらくらり。

キス、たくさん。

2021.01.23 08:44

ウィルイスとアルルイのいちゃいちゃ日常、キスばかりしてる。

キスを嫌がるルイスと、その理由を探ろうとする兄さん兄様のお話。


「ん…っ、ん、ふ」

「…っ、は」

「ぁ…、ん、んん、っ…」

「る、いす?」


いつものように薄いけれど柔らかい唇を堪能していると、力が抜けていたはずの体に抱いていた腕を押し返される。

渋々体と唇を離して名前を呼べば、目元を赤くしたルイスからふいに視線を逸らされてしまった。

つい先程まで合わせていた唇は濡れて艶が増しており、白い肌は目元から頬にかけて赤く染まっていて瑞々しい。

もう何度もキスを交わしているのに未だ初々しい様子を見せる弟の姿に、ウィリアムは中断されたキスをよそに間近でその様子を見つめていた。


「ルイス?」

「ぁ、あの…これ以上は、あまり…」

「え?」

「カップ、後で片付けに伺いますので」

「…うん」


読書の合間にルイスとともにティータイムで休憩を取り、更に疲れを癒すべく細身の体を抱きしめて甘い唇を味わうのはウィリアムにとっての日常だ。

よほどのことがなければ休日のルチーンは変わらないし、夜更かしをするときにも寝る前には必ずルイスが「あまり遅くならないように」という小言とともにホットティーを持ってきてくれる。

その度にしっかりとキスをしては潤っている唇と甘い蜜を味わっているというのに、今日は唇を重ね合わせて柔らかさを堪能するばかりで終わってしまった。

舌を差し入れようとした途端に体を離すよう促されたのは初めてのことだ。

慌ててポットを持って出て行ったルイスの表情はうっとりとしていながらもどこか気まずそうで、形だけの拒否ではなく本当にキスを続けたくない様子が分かってしまった。


「……」


いつも通り香り高く風味の良いルイスオリジナルのダージリンベースのブレンドティーを飲み、ここにはいないルイスを想う。

とても美味しい紅茶なのに物足りないと感じるのは、ルイスが隣にいないからだろうことは明白だった。




「お久しぶりです、アルバート兄様」

「お帰り、ルイス」


ダラムから帰省したルイスを出迎えたアルバートは、普段澄ましたように大人しい顔をしているルイスの歓喜に満ちた表情を優しげに見つめる。

ウィリアムに付いてダラムで週の半分以上を過ごすルイスにとって、アルバートと会える週末の時間はとても貴重だ。

屋敷の扉を閉めた瞬間、もう表情を取り繕う必要はないとルイスは自然に浮かぶ表情のままアルバートに近付いた。


「おや、ウィリアムはどうしたんだい?」

「兄さんは街で買いたいものがあると言っていたので、先に僕一人で帰るよう言われました」

「…ふむ。そうか」


いくら駅から馬車を使えばすぐ屋敷に着くとはいえ、あのウィリアムがルイスを一人で帰すのはどこか違和感がある。

ルイスも買い物に付き合うと言ったのだろうが、有無を言わさず馬車に乗せて帰宅させたのだろう。

少しばかりの不満を表情に浮かべるルイスを見やり、アルバートはその体を抱きしめてふわふわした髪に手を差し入れ後頭部を支えていく。

その動作に先の予想が付いたのか、ルイスは素直に瞳を閉じて形の良い唇をツンと尖らせて降りてくるであろうアルバートのそれを待った。


「ん…ふ、んむ」

「…は、…んん」

「ぅむ、ん、ぁ…っ、ん」

「…ルイス?」


先週ぶりに触れる唇だから、アルバートは重ね合わせてすぐ深く深く味わうために舌で唇を割ってその先へ進もうとした。

けれど舌を絡ませるよりも先に、ルイスの腕が伸びて互いの体を離されてしまう。

力で押し込むのは簡単だが、そもそもアルバートはルイスにキスを拒まれたことなど一度もない。

驚いて思わず体を離してその顔を見れば、合った視線をあからさまに逸らされてしまった。


「どうかしたかい?」

「いえ、あの…」


キスが嫌ならば待ち望んだように瞳を閉じて唇を差し出すことはないだろう。

元よりルイスはキスがすきだ。

ルイスと恋人同士になってすぐにウィリアムからそう聞いていたし、事実、キスを交わしたときのルイスの反応を見れば自ずと察してしまう。

アルバートもルイスと触れ合えるのは嬉しいのだからちょうど良いと、ともにいるときは軽いものから深いものまでたくさんのキスを交わしていたのだが、今日初めてルイスにキスを拒否された。

過ぎる違和感と僅かに傷付いた気持ちをそのままに、アルバートはルイスの返事を静かに待つ。


「…に、兄様」

「ん、…」

「ん、ふ、んん」


気まずそうな顔に羞恥を浮かべ、赤く染まった頬でルイスはアルバートの唇を奪う。

ただ唇と唇を触れ合わせるだけの軽いバードキスを数回繰り返され、ちゅ、と軽い音ばかりが辺りに響いていく。

子どものお遊びのようなキスはアルバートにしてみればもどかしい限りだが、ある意味ルイスらしくてとても可愛らしいと思う。

しばらくそんな可愛らしいキスを受け入れていると満足したのか、ルイスは瞳を煌めかせてアルバートの顔を見上げていた。


「兄さんが帰ってきたら三人でお茶にしましょう。それまで僕はお部屋の掃除をしますので」

「…あぁ。簡単にで構わないよ、さほど汚れてはいないだろうから」

「ありがとうございます、兄様」


楽しそうにアルバートの唇を啄んだルイスは張り切って屋敷の中へと足を進める。

玄関ホールに残るアルバートを振り返って、早く行きましょう、と声をかけるルイスには、兄が抱いている違和感に気付いていないだろうことがよく分かった。




「アルバート兄さん、確認したいことがあるのですが」

「ウィリアム」


ルイスよりも一時間ほど遅れて帰宅したウィリアムは、その手に小さな紙袋を持っていた。

中を尋ねればなんてことはないただの蜂蜜で、ルイスが管理している以上ストックが足りないということはまずない代物だ。

つまり買い物があるというのは適当な言い訳で、ルイスを先に一人帰宅させたことにウィリアムの目的があることは間違いない。

ウィリアムを出迎えてすぐにお茶の用意をすべく厨房に向かったルイスを待ちながら、二人の兄はリビングで静かに声を響かせた。


「帰宅した後のルイスの様子…どうでしたか?」

「…普段と変わりないように見えた。が、キスを拒否されてしまったな」

「やっぱり…」

「というと、ウィリアムも拒否されたのか?」

「はい」


見目麗しいモリアーティ家の長男と次男は、ともに三男の様子について真剣に意見を交わす。

ルイスがいない今こそ話すチャンスだ。

どこか様子のおかしいルイスを把握してもらうためにわざわざ必要もない蜂蜜を買おうと街に残り、先にルイスを一人帰宅させたのだから。

これでもしウィリアムに対してのみルイスの態度がおかしいのであれば、その原因はウィリアムにあるのだろう。

けれどアルバートに対してもルイスの態度がおかしいのならば他に原因があるに違いない。


「ただ唇を合わせるだけならいつもと変わりませんが、深いものにしようとした途端すぐに体を離されます」

「同じだな。私も深く味わおうとした途端に唇を離された」

「そうですか…昨日からあの調子なのですが、特に身に覚えがなくて」


ウィリアムとアルバートがともにルイスの様子に違和感を覚えるのであれば、間違いなくルイスに何か異変が起きているのだろう。

親に捨てられて満足な愛情を貰えなかった分だけ、ルイスは愛されることに飢えている。

だからこそ兄であるウィリアムが目一杯に愛してあげているし、今ではアルバートからもたくさんの愛情を受け取っているのだから、ルイスは存分に満たされているはずなのだ。

抱きしめられてキスをされることで二人からの愛を実感するように、ルイスは二人からのキスを何よりも好んでいる。

軽く唇を触れ合わせるキスも深く舌を絡ませ合うキスも、どちらも嬉しそうに受け入れては可愛らしくはにかみ笑う。

ウィリアムとアルバートはそんなルイスを見ていると、心全体がとても愛おしく感じられるのだ。


「キス自体を拒んでいる様子はないので、舌を入れられることに抵抗があるのでしょうか」

「だが、先週までは何も変わりなく受け入れていただろう?」

「もしかすると口腔内を探られることが嫌なのかもしれません」

「ふむ…」


ルイスは歯並びが悪いということもないし、唾液に不快感があるわけでもない。

ウィリアムと同じものを食べているのだから特別匂いの強いものを食べたわけでもないだろう。

先程アルバートが触れた唇からも、普段通りルイス特有の甘い香りが漂っていた。

様々な可能性を考えていくウィリアムとアルバートだが、その瞳は砂糖菓子のような唇を思う存分貪れなかったストレスで澱んで見える。


「…正直、子どもじみたキスだけでは物足りないな」

「はい。どうしてもその先が欲しくなる」


無垢なルイスは最愛であるウィリアムとアルバートと唇を重ねるだけでも十分満たされるのかもしれないが、当の二人にとっては物足りないどころではない。

その先に待つ甘美な快感を知っているからこそ物足りなく思うし、快感を与えて蕩けたように惚けるルイスも余すことなく見ておきたいと思う。

何か原因があるのならばそれを解決に導けば良いだけのことだ。

ウィリアムもアルバートも長く思い悩むことは性に合わない。

ルイスに嫌われることなどあり得ないのだから、とっとと解決に導いて思う存分その唇を堪能するのがベストだろう。

二人は考え悩むのを早々に止め、張り切ってお茶会の用意をしているであろうルイスを待つことにした。


「お二人とも、紅茶の用意が出来ました」

「ありがとう、ルイス」

「こちらにおいで」


ルイスはいつも二人のそばで佇むことが多いけれど、三人きりのお茶会のときばかりは促されるままソファに座る。

今もウィリアムに呼ばれるまま彼の隣に腰を下ろし、カップを手元に引き寄せている。

隣にウィリアム、真正面にアルバートのいる空間で、自らが淹れた紅茶を三人で楽しむことがルイスにとっての至福だ。

緩んだ表情がそれを如実に物語っており、間違っても彼の中で兄二人の存在が小さくなっていることはあり得ない。

表情からそれを確信したウィリアムはルイスの腰を抱き、顔を上げるルイスの唇に覆い被さっていった。


「っ、んむ…ふっ、んん」


しっかりと唇を重ね合わせるけれど、舌を絡ませることはしない。

ぴたりと密着させては互いの体温が境目なく移るまで柔らかいそこを堪能し、ウィリアムは徐々に体重をかけてソファの上へとルイスの体を押し倒した。

背中にソファの感触を得たルイスは全身の力を抜き、優しく与えられるキスに感じている。

ウィリアムは警戒されないようただ唇を合わせるのみ、時折位置をずらしてくまなく味わいながら互いの手指を絡ませていく。


「ん、んぅ…ーっ、ふ、む」


長い睫毛が震える様子を間近で見つつ、ウィリアムはルイスの指を擽るように撫でていく。

ぎゅうと掴まれる感覚が心地良くて、生ぬるい体温が僅かに上がっていったのをきっかけに、唇の隙間からそっと舌を滑り込ませた。

開いていた唇をねっとりと舐め、歯列を割りながら舌を伸ばせば抱いていた体が途端に跳ねる。

ルイスが驚いたように瞼を開ければすぐそこに自分を見つめるウィリアムがいた。


「っ、んん、っ、ーーっふ」


キスを交わしている最中にずっと目を開けていたのだろう。

余すことなく見られていたことに羞恥を感じるが、今は口の中を這い回ろうとする熱い舌が怖かった。

けれど噛み付くことも出来なければ抱きしめられた状態で抵抗することも難しい。

元より、ルイスがウィリアムを力の限り拒否することなど出来はしないのだ。


「んっ、んー、っ、ぅ、む」


それでも懸命にウィリアムの背を叩き、離してほしいと抗議するようにルイスは抵抗した。

顔を背けようにも角度を付けて唇を貪られているから叶わない。

ルイスとてキスが嫌なわけではない。

ただ今は、口腔内を弄られるような深いキスをしたくないだけなのだ。

もがくように手足をよがらせるルイスを見たウィリアムとアルバートは、二人揃って綺麗な眉を釣り上げた。


「っ、ふ、」

「ん、んん…っ、む、ぁ、んむ」


ルイスの抵抗を無視してウィリアムは舌を動かし、柔らかく熱い口腔内をまさぐっていく。

口の中に原因があるのならば探るべきだろう。

甘い唾液と漏れ出る吐息を食べてしまいながら舌を絡ませ歯の表面に触れていけば、いつもは滑らかな頬の内側にざらついた感覚がした。

おや、と思いながら執拗にそこを舌で弄ってみれば、閉じた目尻からじわりと涙が浮かぶのが見える。


「っは、…ルイス」

「ぅ、うぅ…ん、ん」


唇を離して押さえ込んでいた体から距離を取れば、ルイスはウィリアムと繋がれていない方の手で口元を覆い隠している。

瞳は未だ閉じたままで、目尻からは小さな雫が横に流れていった。

ルイスは元々の素質に加えて、ウィリアムとアルバートの教えにより感じやすい体を持っている。

だが快感らしい快感を与えられていない今この状況で、ルイスが快感ゆえの涙を流すはずもない。

二人の様子を観察していたアルバートは疑念を露わに静かに腰を上げ、ゆっくりとルイスのそばへと近付いた。


「…ウィル、何かあったのか?」

「……そうですね。ルイス」

「…は、ぃ」


アルバートはソファの上に乱れた髪を振りまくルイスの頬へ手を伸ばし、涙の跡を拭うように指で払う。

快感の涙にしては眉間に寄った皺がアンバランスだ。

どちらかといえば苦痛が目立つようで、ウィリアムとのキスでルイスがこんな反応をするなど絶対におかしい。

ウィリアムに問いかけてみれば彼はルイスに跨ったまま、訝しげな表情を浮かべてルイスの顔を覗き込でいる。

ルイスは反射的に返事をしたけれど、口元を押さえたままつらそうな表情を隠せていなかった。


「口、開けてみて」

「……」

「ルイス」

「…ぁー…」


嫌がるように視線を逸らしたルイスの名前をアルバートが呼び、ウィリアムの指示に従うよう優しく命令をする。

純血な貴族たるアルバートの声には他者を従わせる力がある。

少なくともルイスはそう感じており、アルバートが言うのであれば自分は逆らえないと、おずおずとウィリアムに向けて口を開けた。

小さな顎を支えて今しがた貪ったばかりの口腔内を観察するウィリアムは、予想通りの傷がそこにあるのを発見する。


「…ルイス、口内炎が痛いんだね」

「……はい…」


舌先で触れた頬の内側、ざらついた感触の通り、そこには大きな口内炎が存在していた。

綺麗な桃色に浮かぶ赤黒いそれは見るからに痛々しく、おそらくは何かを飲みこむだけでも染みて痛むのだろう。

ウィリアムは呆れつつも心配そうにルイスを見下ろし、気まずそうに視線を彷徨わせる様子を見て安堵した。

キスを嫌がられて少しばかり戸惑いはしたが、些細とはいえ理由があるのならば気持ちは楽だ。


「口内、炎?…ルイス、口を開けなさい」

「ぁー…」


アルバートもウィリアムに続いてルイスの顎を支え、唇に触れながらその内側をしっかりと見る。

多少見えづらいが確かに色が変色したような部分が存在しており、痛むのだろうことが容易に想像出来る。

なるほど、これでは舌を絡ませるような深いキスをすれば炎症を起こした部分に響くだろう。

うっすらと鼻を染めながら素直に口を開けて自分を見上げるルイスを前に、アルバートは好奇心ゆえにその唇にキスをした。


「ぇ、ん、んっ…む!」


柔らかい感触を堪能するよりもまずは真っ先に舌を差し込んで、見えた口内炎目掛けて頬の内側に舌先を擦り合わせれば、ルイスの瞼がぎゅうと強く閉じられる。

ぴくりと反応する様子が今となっては可愛くて、アルバートはざらついたそこを数回舌で擽ってから、怯えたように奥に引っ込んでしまったルイスの舌を舐めてから短いキスを終えた。

痛みに耐えているのだろうルイスは瞼を閉じながら唇を引き結んでいた。


「ふむ…確かに、大きいものが左頬の内側にあるな」

「はい。これだけ大きければキスを嫌がるのも無理ないでしょう」

「…うぅ…」


ウィリアムとアルバートから見下ろされ、ルイスは隠しきれなかったと落ち込みながら口元に手をやった。

今までに口内炎が出来たことがないとは言わない。

栄養が偏り大きなストレスを抱えていた幼少時代など、口腔内が荒れているなど日常茶飯事だった。

時代も時代だし、さして気にすることでもないはずなのだが、今回のこれは完全にルイスの不注意が招いた結果である。


「口内炎が出来た心当たり、あるのかい?」

「栄養不足は考えづらいし、ストレス…かな?」

「…兄さんと兄様と過ごせる今の生活にストレスなんてありません…」


ちりちりとした痛みが残っているのか、覇気のない声でルイスが言う。

続けて、兄様と週末しか会えないことはストレスですけど兄さんがいるので平気です、と言うルイスに心癒されながら、二人は言葉の続きを待った。


「……実は昨日の朝食のとき、思い切り噛んでしまって」

「…噛んだ」

「……はい」

「…随分な、不注意だね」

「……仰る通りです」


快感でも苦痛でもなくはっきりした羞恥で頬を染め、ルイスは居た堪れないように自分の不注意を告白した。

ウィリアムやアルバートならばそんな無様な真似はしないだろうし、ルイスとてこんなことをしたのは初めてなのだ。

体調管理が出来ていない証のような口内炎だが、栄養不足でもストレスでもなく物理的な傷が原因で口内炎が出来てしまったというのはあまりにも情けない。

そのせいで粘膜を弄られたキスをするのも一苦労で、快感と痛みが同時にやってくるからどうして良いか分からなかったのだ。

気持ち良くて嬉しいはずなのにちりちり痛くて、思わずウィリアムのキスもアルバートのキスも拒んでしまった。

ルイスは華奢な体を目一杯に小さくして、呆れたような目をしているであろう二人の言葉を待つ。


「良かった。ルイスが僕ともアルバート兄さんともキスを嫌がるから何かあったのかと心配していたから」

「…すみません。舐められると痛くて」

「先に言ってくれれば良かっただろう」

「…理由が情けなくて、治るまで隠しておこうかと」

「ふふ。仕方ないなぁルイスは」


熟れた果実のように真っ赤な唇を動かし言葉を紡ぐルイスを見て、ウィリアムは愛おしげに頬を撫でる。

確かにあれだけ大きな傷、触れずとも口内を動かしているだけでも小さな痛みが走るだろう。

けれど頬の火傷を始め、鍛錬や任務でどれほど酷い怪我を負おうと痛む素振りを隠し通してしまうのがルイスだ。

だからこそウィリアムはルイスが無理をしないよう注意していたのだが、今のルイスはキスで痛がる様子を隠そうともしていない。


「いつものルイスなら、傷が出来て痛みがあっても頑なに隠そうとするのにね」

「…そうでしたか?」

「あぁ。覚えがないとは言わせないが」

「……そうかもしれません、けど…いくら僕でも、お二人にキスされてるときに隠すのは無理ですよ」


兄さんと兄様に抱きしめられてキスされてしまえば、隠す余裕もなくありのままの自分でいてしまう。

まるでそんな声が聞こえてくるようで、ウィリアムとアルバートはソファに寝かされているルイスを静かに見つめていた。

あれだけ自分を隠すことに長けているルイスなのに、自分達であれば否応なく素顔を晒してしまうのだという事実は二人に圧倒的な歓喜だけを与えてくれる。

続いて浮かぶ優越感も心地良くて、ウィリアムとアルバートは未だ気まずそうに表情を暗くさせている愛しい弟をともに抱きしめ、早く傷が治るようにと左右からその頬に淡いキスをした。

大きな瞳を丸くさせたルイスには二人の気持ちが通じたようで、ようやくいつものように笑みを浮かべて両手を伸ばし、自分を慈しんでくれる最愛の兄達を強く抱きしめる。

そうしてしばらく三人で抱き合ってから、冷めかかった紅茶でのお茶会を開催するのだった。




(ルイス、そろそろ治ったかな?)

(はい。自分で触れてもあまり痛くはない気がします)

(そう)

(ん、んー…ふ、んむ)

(…ふ…確かに、大分良くなってきてはいるようだけど、まだもう少しかかるかな)

(…やっぱりまだ少し、痛いです)

(ふふ。早く良くなると良いね)


(兄様、お久しぶりです!会いたかったです)

(お帰り、ルイス。口内炎は良くなったのかい?)

(もう随分と良くなりました)

(どれ、確かめてみようか)

(ふ、ぅ…む、ん、んん)

(ん…そうだな、もうしっかりと治っていそうだ)

(はい。今のキスも痛くありませんでした)

(良かったな。でもこれからは食事のとき、十分に気をつけなさい)

(…はい)