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Again

2021.01.24 12:58

それから、彼女は。


「山田、明日暇だろ?」


ああこの人、私を何だと思ってるんだろ。

スモーキングルームの一角、紫色のスモークはゆらゆら陽射しに溶けて行く。

企画資料を引継ぐために先輩を探していた先、当たり前みたいに一服して、当たり前みたいに私にそう尋ねてきた。

余裕顔で、自信気に、だから。

「暇?私、明日は忙しいんです。」

なんて強気に答えてみたりするのだが。

「へえ。何すんの?」

先輩には、そんな私の強気はミジンコほどにも伝わらない。

「朝起きます。で、顔洗って一週間溜まった洗濯を回します。朝ごはんには張り切って明太子を焼くんです。それから、お給料入ったんでブーツ買いに行くんです。それからマリメッコでかわいいクッションカバー見たり。」

鼻先をタバコの匂いが掠める。

次のそれから、は先輩に遮られて言えなかった。

だって、先輩。


「何?」

「や。…何?じゃなくて。何?!」

「変な顔。」

「ちょあの、今の。」

ん?キス。

余裕顔で、自信気に、先輩は笑う。

びっくりするぐらい無邪気に、目が覚めるくらい鮮やかに、いたずらっ子みたいだ。

これが元カノの結婚式にラルフの新品スーツにヴィトンのネクタイを締めた張本人なんだろか。

「びっくりした?」

「当たり前ですよ!心臓わし掴みですよ。」

「何それ、心臓わし摑みって。面白いなあ、山田かよこ。」

なんだと、呼び捨てでフルネームか。

たぶん大人な私達は、こんなときキスの理由なんて尋ねたりしない。

「何なんですか、今のは。」

私はやっぱり子供だ。


「聞くのかよ。わかんねえの、山田。」

私はエスパーじゃない、言われなくちゃわからないこともあるんだ。

「じゃあさ。」

先輩はタバコを揉み消すとコーヒーの入った紙コップを一気に傾けた。

「とりあえず、今日ご飯付き合ってよ。」

「なんでいつも、そんなに偉そうなんですか?」

だけど杉山くんの式に行けたのは、少なからずこの人のおかげ。

話してみようかな、前の彼のこと。

とっても好きだった、杉山くんのこと。

そのお嫁さんになった、たまちゃんのこと。

今度子供が産まれる、まるちゃんのこと。

今、思うこと全部。

話してみようかな、先輩に。


そんなことを考えながら、頬が熱く熱くなるのを感じた。