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皆既日食の朝。

2021.01.24 13:27

太陽が隠れる。


宇宙の神秘に巷は浮き足立っている。

昼間が明るいのは、太陽があってこそなのに。

それが闇に変わることを、なぜだか手放しでは喜べないのは私だけではないはずなのに。

彼は、ロマンがないと笑うのだ。


そういうあなたは、一体いつから銀河だ浪漫だ思いを馳せるようになったの。


その繊細な容姿に相反して、野心家な所。

実は、熱情的に誰かを求めるとか、そんな粗削りなあなたをとても気に入っていたのにね。



「城ヶ崎は相変わらず秘書課の有望株なんだな。」

「どういう意味?」

「先輩がさ、城ヶ崎を紹介しろって。うちの課長もお前をベタ褒め。」

「当たり前でしょう、秘書課の中でもトップに立たなきゃ。何の為にこの見た目に生まれたかわかんないじゃない。」

「お前って、つくづく女帝だな。」

ちょっと誰が女帝よ、と舌打ち混じりに息をつく。


高層ビルの屋上は、日食を待つ社員で溢れている。

黒のプラスチックをかざして皆、空を仰ぐ姿が滑稽だった。

「その先輩て。大野みたいに、容姿も仕事も私に釣り合う男?」

彼のラルフローレンのワイシャツには、綺麗にアイロンのプレス跡が見て取れた。

ネクタイもスーツも、全てにおいて彼の良さを引き立たせる。

やはり、“彼女”の見立ては完璧なのだ。

 

「知らねえの?営業一課のすげえ有名な男前。」

そんな人いたかしら?

営業一課も何も、この会社で良い男。

あなたくらいしか知らないわ。

そんなこと、口が裂けても言わないけどね


「さくらさんはどうしてる?」

「最近つわりが酷くてさ。毎日トイレから離れらんない。飯も全く食えないんだ。」

「子どもを産むって大変なのね。」

「すげえよな、あいつには本当頭上がんねえよ。」

端から見ている社員達は、私と彼が並ぶだけで騒めき立つ。

こんな風に私と彼を繋ぐのは唯一、“彼女”の存在だけだなんて知りもしないのだ。


「子どもが生まれたら世界一周したい。」

「何言ってんの?」

「て、あいつが言うんだ。」

「さくらさんらしい。」

「今日の朝も多分一番はしゃいでた。」

「銀河の浪漫だ、って?」

「間違いない。」

目に浮かぶ、彼女の笑顔が。

あなたは、彼女をどんな風に守るのかしら。

その節張った手で、低く通る声で彼女を。

そんな途方もないことをぼんやりと考えている内に、月は太陽を飲み込んで行った。

当たりからその神秘に感嘆の声が漏れる、隣の彼からも。

そんな横顔を闇が包む。

「その先輩、会ってみてもいいわよ。」

「超女王様だな。了解、伝えておくよ。」

この日食を、本当は誰と見たかったなんて言わなくても分かってる。

だけど、この朝を心待ちにはしていなかった私でも、今はその浪漫とやらに酔いしれたいと思っているの。

滑稽だわ。


次の日食は幾十年先、その日の朝には私も胸をときめかせているといい。

そんなことを思いながら、再び顔を出した太陽に目を細めた。