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恋恋と、赤赤と。

2021.01.24 14:21


大きい口だなあ。


カリカリに焼いたポークハムをかぶせ、薄焼き卵と海苔で包まった俵形のおにぎりを、顎の開く限りに齧り付く赤井 真健二(あかい まっけんじ)の横顔を今日も眺めそんなことを思う。

拳ほどのそれをものの二口、三口で平らげて行く。

それも三つもだ。

三つ目のおにぎりを咀嚼し終え、飲み下した所で彼が気付いた。

僅かに怪訝な顔をして、唇を尖らせる。

「なに見てんの。」

にこりともせず、しかし気安い調子で彼は言う。

「豪快な早弁だなと思って。」

「阿閉(あとじ)もさっき食ってたじゃん、まあまあデカいメロンパン。」

と、確かに先程こちらも大口を開けて平らげたメロンパンの件を持ち出され、見られたのかと下手を打った気分だった。


朝食を食べて大体三時間が経過し、昼食にはまだ二時間程遠いことから、この休憩時間まさにここが絶好の間食ポイントなのだ。

しかも昼食前の授業が数学だったりしたらますますこのメロンパンやらおにぎりやらを頬張る道理がある。

何せ因数分解やら何やらに立ち向かうスタミナが必要なのだから。

と、理屈はともかく今日も真健二はそれは美味しそうにポークおにぎりを頬張っていた。

彼の間食は決まって大体ポークおにぎり。

数はまちまち。

二個行く日もあるし、今日の様に三個、一個の日もある。

ただ食べてない日はほぼないかもしれない。

それらを食べ、昼食になればそこそこの大きさの弁当を平らげ、そして部活前にもきっと何かを食べて、そして帰宅したら恐らくまあ必ず晩御飯を食べているのだろう。

それだけ食べても食べても、真健二の体から無駄な物は感じられない。

陽に焼けた顔に高めの鼻梁、深く通った目頭がとても印象的な彼の祖父母は南方の生まれだという。

間食のポークおにぎりは、彼の母の得意料理でありお袋の味的な物のひとつで、赤井家の食卓では日常なんだと教えてくれた。


「マッケンジがいつも食べてるやつ、本当に美味しそうだね。」

「おにぎり?めっちゃ美味しい。母さんおにぎりだけは失敗知らずだから。」

明日分けてあげるな、と白い歯を見せて笑う口角も大層大きく上がっていた。

ああ、この顔だ。

齢十七の語彙力ではどこまで切り取れているのか分からないけれど。

食べる時に、笑う時に、彼が見せる生きてるなあみたいな表情が左胸の裏側を時々痛いくらいに熱くする。


明日、真健二から分けて貰ったポークおにぎりを食べてしまったら最後、二度と忘れられないかも知れない。


その歯ざわりや、味、彼から渡された記憶も丸ごとこの体で受け止めるのだから。


阿閉 恋(あとじ れん)はそんな予感に頭を悩ませた。