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レイフロ@台本師&声劇民☮

天色−AMA IRO−へ(朗読台本)

2021.01.27 12:40

天色(あまいろ)へ


【1人朗読台本】

【性別不問1】

【所要時間目安:15分〜20分程度】


●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。

●ご使用の際は、利用規約をご一読下さい。


↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

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『天色−AMA IRO−へ』

作:レイフロ

朗読:

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/13529504

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以下、台本


音もなく降り積もる

真白(ましろ)の雪

いつもの風景を均一に 平等に染め上げ

あらゆる境目は

ゆっくりと形を無くしていった



私は帰るなり

反射式のストーブに火を点(とも)し

薬缶(やかん)をかける


すっかり平たくなった座布団を

ストーブの前に敷き

その上に雑に座る

冷えて感覚のなくなった両手をすり合わせ

手を温めた


火をつけた直後のストーブは

ぽっぽっぽっ と音を立てていたが

しばらくすると落ち着いて

無音となる


柔らかい温かさが身に沁み始めた頃

背中をかりかりと撫でるような感触がする


私が意地悪をして

気付かない振りをしていると

今度は強めにがりがりと引っ掻かれる


痛い痛い としょうがなく振り向くと

漆黒の身体に

天色(あまいろ)の真ん丸の瞳を持つ彼女が

にゃあ と鳴いた


彼女は当然のように

我が物顔で私の膝へと滑り込む


そろそろ夕飯(ゆうめし)を作らなくてはならないが

彼女はそんな事情など意にも返さず

私の肘(ひじ)の辺りに頭を乗せ

大きな欠伸(あくび)をひとつ


こうなってしまっては

立ち上がることは出来ない

少しだけ と諦めて

彼女の頭にそっと手を乗せた


窓の外に目をやると

雪は 世界の全てを白く染めてやろうと

躍起(やっき)になっているようで

深深(しんしん)と降り積もっている



嗚呼

明日(あす)の雪掻きは骨が折れる

とぼんやり考えていると

彼女が短く鳴いた

どうやら 早く撫でろと痺れを切らしているようだ


この地に来てから

慣れない農作業によって

手の皮は厚くなり 荒れてしまっていたが

彼女はこの手がお気に入りのようで

ゆっくりと小さな頭を撫でてやると

ゴロゴロと 雷の遠鳴りのような音が

心地良く掌に響いてくる


今日も一日が終わったのだと

ほう とため息をついた




彼女がこの家に来た時も

今日のような雪深い日だった


降りしきる雪は

彼女の漆黒の体をも白く染めんと

その日も躍起になって降っていたが

既の所(すんでのところ)で

私が拾い上げた


小さな集落に動物の医者は居らず

車で1時間ほど行ったところには

家畜を診る医者が居たが

それも 雪に閉ざされた今となっては

行くすべもない


私は凍えた小さな体をタオルで包み

ぬるま湯で作った湯たんぽをあてがい

徐々に温めた


彼女の口元に手を当ててみたり

心臓があると思われる場所に触れてみたが

手の皮が厚いせいなのか

はたまた動揺しているだけなのか

私は その小さすぎる呼吸や 

鼓動を感じることが出来ず

実はもう死んでしまっているのではないかと

みっともなくおろおろしたものだった


ともすれば 

握りつぶしてしまいそうな程小さく

軽かった彼女が 今や

小振りのスイカほどの重さにまで成長した



そろそろ足が痺れたよ と声をかけてみるが

彼女は やはり退けてくれる気はないようだ



ミシリと 家鳴り(やなり)がする

すっかり冷え込んだ家が暖まってきたのだろう


私は意を決して

にゃあにゃあと文句を言う彼女を

膝の上から降ろし 立ち上がる


天色(あまいろ)の瞳が

不満そうに私を睨んでいた


彼女の機嫌を直すために

私は 自らの夕飯(ゆうめし)よりも先に

彼女の夕飯(ゆうめし)を用意するのであった





生まれて数週間で

半分氷づけになった経験のせいかどうかは分からぬが

彼女は とにかく寒さに強く

雪が好きなようだった




朝早く

雪掻きのために外に出ると

彼女もスッと家を出て

まだ誰の足跡もない

真っ平(まったいら)な雪のクッションに

何の迷いもなく

ぴょんと飛び込む


思ったよりも浅く

顔が出てしまった時は

不満そうな顔を私に向け

思ったよりも深く

体がすっぽり埋まってしまった時は

にゃあにゃあと鳴いた

助けてくれ 

と言っているのかと思い

抱き上げると

バタバタと暴れて 腕をすり抜け

また雪のクッションに飛び込んでは

すっぽり埋まって

にゃあにゃあと鳴く


どうやら喜んでいるらしいが

心配なので 

結局私が彼女を抱き上げ

家の中へと戻した


窓越しに

恨めしそうな彼女の視線が刺さるのを感じながら

私は したくもない雪掻き作業に没頭するのであった





彼女は あくまでも居候(いそうろう)だ


彼女が好きな時に出ていけるように

裏戸(うらど)には 小さな出入口を作ってある


冬の間はさすがに彼女も出ていこうとせず

透き間風で冷えるため 封鎖してあるが

春になると

その小さな出入口は開放される


実際に彼女は

夏の間 数日家を空けることもあり

このままお別れかと思うこともしばしばあったが

今のところ いつの間にやら戻ってきている


そんな時は

「お土産」を持ってくることもあり

枕元に鼠(ねずみ)が置かれていた時は

今までの人生で出したこともないような

大きな悲鳴をあげたものだった





私は

彼女に名前もつけていない


彼女の本質は「自由」だ

何者にも縛られるべきではない


世に馴染めず

都会の喧騒(けんそう)や混沌(こんとん)から

尻尾を巻いて逃げ出してきた私とは

違う


私はただ

彼女の生命を 最低限 

ひっそりと守るだけの存在でいいのだ


そんなことを考えているうちに

彼女が 私を見上げて にゃあと鳴いた


どこか寂しそうな声だった






次の日も雪掻きが必要だった


厚着をし 道具を持って

深呼吸を一つしてから

玄関のドアを開ける


彼女も当たり前のように一緒に外へ出て

身を切るような冷たい空気に

目を細めていた


その横顔は物憂げ(ものうげ)で

私たちが出会ったあの日の事を

思い出しているかのようだった






白い雪に埋もれて

人知れず死にたいと願い


私は

この不自由な地へと来た


静かな土地で少しだけ暮らして

気持ちが静まったその時に

この地と共に

白く同化してしまおうと思っていた


ニ年ほど

土を弄(いじ)り 野菜を作り

ほとんど口も聞かず一人で過ごした


とある夜

今日はもう休もうと思い

何気なく外を見ると


雪が積もっていた


夕方までは降る気配すらなかった雪が

一切の音も立てずに

人知れず積もっていたのだ



雪の中は さぞかし静かなのだろうと思った



そう思った瞬間

私は寝間着のまま 防寒着も着ず

裸足で家を出て

深深(しんしん)と積もる雪の中を

最期の地を求めて歩き出した



その時だ


彼女を 見つけたのは。






あの日のことを思い出していた私は

彼女の鳴き声で我に返った


彼女は 降り積もったばかりの真綿のような雪を目の前にして

ぴょん と飛び上がり

すっぽりと全身を雪に沈めてしまった


今日の雪は深く

彼女の黒い体が

白に飲み込まれてすっかり消えてしまった


にゃあにゃあと

くぐもった声が聞こえる


真白(ましろ)の中から

彼女の声が



嗚呼

この声は

私の声なのだ




私は 今日もじたばたと暴れる彼女を

雪の中から救い上げて 渋い顔を向けると


彼女は

澄み渡るような天色(あまいろ)の瞳を私に向けて

にゃあ と鳴いた



「お前だって

本当は助けて欲しいくせに」


と、聞こえた気がした







私は 無人販売所に野菜を卸している


いつもは 誰にも会わぬよう

夜も明けぬうちに野菜を並べていたが

この日は

朝から彼女が元気に大暴れしていたせいで

遅れてしまった


野菜を並べている間に

案の定 お客さんが来てしまった


私は目を反らし

もごもごとしていると

訛(なま)りの強い地元の言葉で話しかけられた


おそらく 「ここの野菜は美味しい」 というようなことを言われたと思う


私はそそくさと販売所の小屋を出ようとしたが

外はすっかり夜が明けて

柔らかい天色(あまいろ)の空が広がっていた


にゃあ と聞こえた気がして

思わず振り返った


お客さんが野菜を選び

その代金を箱の中に入れている


私は 首をかしげながらも

再度その場から離れようとすると


また

にゃあ と聞こえた気がした


渋い顔をしながら

なかなか立ち去らぬ私を

客が不思議そうに見ている


私は 拳を握りしめ

咳払いを一つし

震える声で

「お買い上げ ありがとうございます」

と言った







私は帰るなり

反射式のストーブに火を点(とも)し

薬缶(やかん)をかける


すっかり平たくなった座布団を

ストーブの前に敷き

その上に雑に座る


冷えて感覚のなくなった両手をすり合わせ

手を温めた


すると

背中をかりかりと撫でるような感触がある


私が意地悪をして

気付かない振りをしていると

今度は強めにがりがりと引っ掻かれる


痛い痛い としょうがなく振り向くと


漆黒の身体に


今日の澄んだ空と同じ


天色(あまいろ)の

真ん丸の瞳を持つ彼女が


にゃあ と鳴いた






彼女は


私の良き友だ














End.


~あとがき~


反射板のストーブの前で

猫を膝の上に乗せ

喉を撫でてやると

ゴロゴロと遠鳴りのように喉を鳴らす…


というような夢を見ました。


その時の猫は

瞳が葡萄色をしていたのですが

調べてみると紫色の瞳を持つ猫が

実在するかわからなかったので

青い瞳にして空と繋げようと思ったら

こんなお話になりました。


「探さないで欲しい気持ち」と

「見つけて欲しい気持ち」


「放っておいて欲しい気持ち」と

「助けて欲しい気持ち」


というのは、セットなんじゃないかなと思うことがあります。


誰かが一緒にいてくれるっていいですよね。

その相手は必ずしも人間じゃなくても

いいんじゃないかと思いますが

このお話の主人公は

今後地元の人と

挨拶出来るくらいにはなるのかな…?


なればいいなと思います。



レイフロ(Twitter:@nana75927107)