【村上春樹風】カレーのことについて語るときに僕の語ること。
2016.09.26 08:55
三十歳に成り変化した事と言えば、顔を洗うのにすごく長い時間がかかる様になった事だろうか。
歯を一本一本とりはずして磨いてるんじゃないかという気がするくらいだ。
あと何週間かのうちに三十一歳になろうかとしていた。
そんな憂鬱が踊る夜、
その時僕は三十歳。
まるで玉葱の薄皮のように軽そうなカーディガンを纏い、片方の肩を落とし、疲れきった体にバックをかけて家路に向かう僕の前に彼は現れた。
数回、瞬きをした。
その少し後だろうか。
そう。
気が付いた時には、僕は刃物を振り回していた。
斬り捨てたモノ達を、燃え盛る炎の中に躊躇無く投げ込んでいた。
もう一度、瞬きをした。
そんな状況でも、僕の脳裏に浮かぶのは草原の風景だった。
クミンの匂い、かすかな冷ややかさを含んだローレル、山の赤唐辛子、シナモンの鳴き声、そんなものが、まず最初に浮かび上がってくる。とてもくっきりと。
ふと耳を澄ませると、何処か遠くからカレーの音が聞こえてきた。
ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、そのカレーの音はひびいてきた。
とても微かに。
そしてその音を聞いているうちに、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。
「やれやれ」
そう言って僕はビールを飲みながらため息をついた。
そしてナンを半分残してスプーンを置き、紙ナプキンで口もとを拭いた。
「遠くから見れば、大抵のものは綺麗に見える。」
と彼はよく言ったものだ。
Sincerely,
Musashi
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