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Water Stewardship

2021.01.08 07:00

コロナの影響で家にいることが多くなり、以前より家で食事を作ったり、仕事や作業をしたりする機会が格段に増えました。

その変化によって、普段あまり気にしていなかったことが目に入るようになった人もいるかと思います。


例えば、仕事を家でするとき、PCの充電や電気の点灯を行うことで、エネルギーをより多く使うようになります。

また食事を作るようになったことで、自分で食材を調達、調理するようになり、ガス、電気、水を使うようになりました。


このように、家で生活をする時間が長くなったことによって、電気(エネルギー)、食材、水の利用量も増えたのではないかと予想されます。

他にも沢山の変化があると思いますが、サステナビリティに関連する問題に絞って列挙しています。


今回はその中の一つ、水の問題について取り上げたいと思います。



水ストレスは世界でも大きな問題で、異常気象や自然災害などのグローバルリスクの10個のうち9個は水問題に関するものとされています。

さらにコロナの影響で、多くの人が水を初めとする生活に欠かせない基盤を守るための企業のサステナビリティ活動に、より高い関心を寄せるようになっています。


水ストレスが高い地域では、水の供給量が人口の需要量をまかなえず、水資源が原因となって紛争が起こることもあります。

また、水を直接的に利用する飲料企業や農産業の企業を初め、企業にとってコミュニティの水が不足することは、従業員を初めとした現地の人々が生活の基盤を失うことになるので、経済が停滞するリスクにつながります。

そのような観点から、今では水を直接的に利用しない企業でも、コミュニティの水ストレスを把握し、衛生やアクセスを改善しようとするところもあります。


水問題がどのようにビジネスに関連してくのでしょうか。

バリューチェーン、水インパクトの観点から紐解いていきたいと思います。



水レジリエンス、水ストレス、水リスクとは?

世界中で水が少なすぎる場所、多すぎる場所、汚染された場所などがあり、水問題といっても地域によって様々です。


水問題を扱う際によく用いられる用語が、「水ストレス」、「水レジリエンス」「水リスク」です。

CEO Water Mandateによると、水ストレスとはある一定期間、特定の場所で人間や生態系の需要を満たすことのできる淡水(真水)の供給力あるいは不足のことで、水リスクとはエンティティが水ストレス、水不足を含む水に関する課題に直面する可能性とされています。


また、水レジリエンスとは干ばつ、洪水、水ストレス、水不足、地下水・地表水の枯渇などの水危機に対して、社会生態的なシステムを構築して外部からの影響に対応しながらも回復・適応を行えるような水の社会的耐久性のことです。


多くの人が安全で衛生的な水にアクセスできるように整備する必要がありますが、前述の通り、世界中の水資源の分散バランスは保たれておらず、今後の人口増加やコロナの影響で、ますます水インフラの改善が求められています。


そして、水問題はそれ自体が深刻な問題であり、淡水(真水)のエコシステムの構築も急がれますが、一方で水は気候変動やGHG排出、エネルギーなどの他の環境問題との繋がりも深いため、気候変動の次に真っ先に取り組むべき問題と言っても過言ではありません。

例えば、エネルギーや食糧も人口増加と共に需要が増すと考えられるため、全体的アプローチを行ってコミュニティが水を供給、利用できるようなシステムを築くことが重要です。



水問題の現状

世界の水問題は今後どのようになると予想されているのでしょうか?

UN Waterによると、このまま何も対策を講じなければ、2030年までに水不足の地域に住む人々が世界中で7億人に上り、気象関連の災害による年間の経済的損失は2500億ドルから3000億ドルの間になると推定されます。

また、The 2018 edition of the United Nations World Water Development Reportによると、2050年までに年間当たり少なくともひと月に十分な水を得ることができない人の数が50億人以上に急増すると試算されています。


日本の現状はどうでしょうか。

Water Scarcity Clockのデータによれば、2020年時点で日本国内の水不足エリアに住んでいる人口の割合は25%となっており、World Resources Institute(WRI)による2040年時点での水ストレス予想ランキングで日本は72位となっています。


国内においては、公共事業として政府管轄で水の供給・循環システムおよび各種規制が整備されており、家庭排水による汚染の心配などは別にあるとしても、水資源の供給の観点において特にリスクが露呈されるほどの欠陥や問題点はないように思われます。

また、土地の特性上、国土面積に占める森林面積の割合が約7割と高く、日本は水資源に関しては恵まれているように思います。


そこで目を向けるべき場所は、水ストレスが高い、あるいは水不足が深刻になりつつあるような水インフラが整っていない地域です。

日本のグローバル企業のうち、このような水ストレスの高い地域で操業を行っている企業は水問題に貢献できる余地があります。

地域の水問題に取り組む際には、その地域の水レジリエンスを高めるようなデザインを意識する必要があります。



水問題に取り組むことがビジネスに繋がる?

ここで、興味深い調査結果をご紹介します。

グローバル企業のCEOに対して水問題に関するアンケートを実施した結果、水不足のリスクは認識しているが多くの組織がそれに対応するためのプランを持っていない、また2015年に比較して水の利用量が増加している、という回答が得られました。


調査結果から分かることは、認識が実行に移されていないということ、そして何も対策を講じなければ企業の水の利用量が今後も増加する可能性があるということです。


水問題をサステナビリティのマテリアリティ(重要課題)と捉えていても、どこまで真剣に水問題に取り組んでいるかは企業によって様々です。

なかには、工場を稼働しているコミュニティの水ストレスを計測し、インタラクティブ・マップにまとめてどの地域に特に介入の必要があるのか分析を行う先進的な企業もあります。一方で、水利用の効率性の改善や水の再利用を行うだけにとどまる企業もあります。


企業が水問題に対して具体的にどのように取り組んでいるかを考察すれば、水問題に取り組むことによるビジネスへの影響をどのように考えているかを知ることができます。

水問題に先進的に取り組む2社について、ご紹介します。



水問題に取り組む企業の事例

以下では、先進的に取り組む企業の事例を2社ご紹介します。

Cargill, Inc.

一社目の事例は、アメリカを拠点に農産業向けの飼料、一般消費者向けの食物・飲料、生物由来の美容コスメ・医薬品・化学物質などを生産するCargill, Inc(以下、カーギル)です。


グローバルフードシステム上で重要なポジションを担い、産業横断的なビジネスモデルを展開するカーギルにとって、サステナビリティは持続可能なビジネスを発展させるための非常に重要なファクターと考えられます。


カーギルのフォーカスエリアは、土壌利用、気候変動、水資源、農家の生活、食物の安全、栄養の6つですが、今回はそのひとつである「水資源」の取り組みをご紹介します。

水の課題を抱える地域を特定するため、カーギルは世界を対象にした水に関する独自の調査と自社で回収することのできる水フットプリントを参考に、水ストレスと水利用の観点から優先的に取り組むべきウォーターシェッドを特定しています。


そして、水に関する具体的なターゲットとして、2030年までに、


①優先度の高いウォーターシェッドで6000億リットルの水を還元する

②優先度の高いウォーターシェッドで500万キログラムの水汚染物質を減少させる

③優先順位の高い81か所の全ての施設で水スチュワードシップ・プログラムを実行する

④優先順位の高い25か所のウォーターシェッドで安全な飲み水へのアクセスを向上させる


の4つを据えています。


水に関する具体的なターゲット設定はWorld Resource Institute(WRI)と共同で取り組まれ、科学的根拠のある方法が利用されています。(いわゆるScience-based Targets)


これらのターゲットを達成するための具体的な行動として、


施設内:水リスク・アセスメントを行い、改善が必要な施設を特定。水スチュワードシップ・プログラムの企画、導入。

サプライチェーン上:主に農家の方と協力して、土壌の状態や、水のレジリエンスと品質を改善し、気候変動や農家の生産力の向上に寄与。

コミュニティ:清潔で安全な水へのアクセスを向上させるために、 CEO Water Mandateへの署名や Water Resilience Coalition のメンバーとして活動。具体的な行動プランは現在、計画中。

を行っています。


本当に改善が必要とされているウォーターシェッドとエンゲージメントファクターを特定することが重要で、それらを元にコミュニティでステークホルダーとエンゲージメントを行っていきます。

企業のボトムアップ・アプローチと違って、現地の方が利用できるツールや仕組みを提供しなければならないので、エンゲージメントは非常に重要です。根本的に現地の水レジリエンスに貢献していきます。


では、このようなカーギルの水問題への取り組みはビジネスへどのような影響を与えるのでしょうか?


水問題に取り組むなど、企業がコミュニティに対して良いことを行う背景として、まずコミュニティに良いことをすることが最終的にビジネスの利益に繋がるという考え方があります。バリューチェーンは世界各地に広がっているので、サプライヤー・従業員・顧客などコミュニティにも多くのステークホルダーが存在します。つまり、コミュニティの環境や自社の活動を改善することで、例えば、原材料の調達が安定したり、現地の生活水準が向上したり、企業のレピュテーションが高まって売上高が増加したりすることがあります。水問題の活動だけを見ると、確かに社会貢献的な活動にしか見えませんが、長期的な目線で見ると、自分たちのビジネスにも影響を与えるようになるというのがサステナビリティに取り組む上での考え方です。


また、コロナの影響でカーギルの食物サプライチェーンが停滞したこと、人々の企業に対するサステナビリティに向けた活動の期待感もあり、水の衛生面やアクセシビリティを向上させる自分たちの貢献力の大きさをより強く認識しています。


Microsoft

二社目の事例は、Microsoft WindowsやMicrosoft Office Suiteなどのオフィス用ソフトウェアおよびクラウドサービスと、Microsoft Surfaceなどのデバイスの営業・販売を全世界で展開しているMicrosoft Corporation(以下、マイクロソフト)です。

主にソフトウェアの開発などを行うマイクロソフトですが、どのようにサステナビリティに貢献しているのでしょうか?


マイクロソフトはサステナビリティに取り組むための4つのフォーカスエリアを特定しています。4つのフォーカスエリアは、カーボンフットプリント、グローバルインパクト、クリーンエネルギー、水スチュワードシップです。


それぞれのフォーカスエリアの課題に対処してくために、マイクロソフトはオペレーション、プロダクトおよびデバイスの開発、カスタマー&パートナー、ポリシーの4つの領域で具体的なアクションを起こしています。各領域で4つのフォーカスエリアの改善や開発、投資を行っていますが、今回は水スチュワードシップに焦点を絞ります。


マイクロソフトは2030年までに、水ネットポジティブインパクト(利用する水の量よりも補充する量の方が多くなる)を創出することを目標に掲げ、そのためのバリューチェーン構築などを行っています。また、他の組織を促すための強いリーダーシップも必要と考え、積極的なアドボカシーを行っています。


マイクロソフトは、水を直接的に使わない企業でも気候変動に貢献するためには水への取り組みが必要不可欠と考えていて、オペレーションの改善や水スチュワードシップを可能にするプロダクトの開発などを行っています。水の問題はグローバルというよりも、ローカルを深く見ていく必要があるとしていて、イニシアチブやコラボレーションも同時に進めています。


掲げている目標は野心的なものですが、だからこそ水フットプリントなどを正確に把握するインセンティブが生まれ、科学的根拠のあるターゲットの設定が可能になっています。しかし、この水フットプリントや水ストレスを正確に把握して計測することが実際には難しいのです。そこで、マイクロソフトは自社内の改善だけでなく、顧客の水スチュワードシップを促進するためのシステムやサービスも積極的に開発しています。


マイクロソフトは、水問題に取り組むことで自社の製品やサービスを活かしたビジネス、いわゆるCSVが可能となり、また、生活に欠かせない水が経済をストップさせる契機にならないように先手を打つことで、自社または他の経済主体がそのコミュニティで操業を続けることが可能になると考えています。また、水問題に取り組むことでレピュテーションへの影響もあるとしています。


コロナの影響で、全てのサステナビリティの進展が一時停滞しましたが、マイクロソフトは業界の中でも野心的なゴールを掲げているので、コロナの影響をものともしないような進捗が必要となります。しかし、目の前のコロナの影響を対処してからでないと、長期的な水のストレス問題には対処できないと考え、コロナでも水の対処を行なってそれから将来のことをプランニングしていくとしています。また、アクセシビリティ向上にも協力する姿勢です。


カーギル同様、長期的な視点で自社への利益を考えています。



まとめ

水問題もなかなか奥が深いですね。水問題に本気で取り組もうと思えば専門用語も増えていきますし、根本的な水のエコシステムの仕組みなどそれなりに勉強が必要だと感じます。


サステナビリティに関わる全ての問題に当てはまることですが、それぞれの問題がお互いに絡み合って現状の問題を引き起こしている可能性が高いので、何か一つに取り組めば良いという話ではなく、全体的なアプローチが必要になってきます。


水であれば、気候変動、エネルギー、食物という風に繋がっていきます。


もちろん、業界やビジネスモデルの違いによって取り組むサステナビリティの問題に優先順位を付けることは必要不可欠です。しかし、どれも社会にとっては一刻も早く解決されなければならない問題だということを認識して、企業が積極的にイニシアチブを取っていく必要があると思います。


今回のトピックは水問題でしたが、マテリアリティとして水を選択している企業は具体的にどのようなプランを持ち、ターゲットを見据えて行動に移していくのか、今後の取り組みの発展に期待したいです。