Waste Management
1人1日当たりに出すゴミの量をみなさんはご存じでしょうか?
環境省の報告によると、2019年度で日本人が1人1日当たりに出すゴミの量は918gでした。
(出典:一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度)について、環境省)
参考までに、2018年度でアメリカ人が1人1日当たり約2223gでした。
(出典:National Overview: Facts and Figures on Materials, Wastes and Recycling、EPA)
人間が消費するエコロジカルフットプリントと地球が提供できるバイオキャパシティを比較すると、アメリカの消費量は地球5個分、日本の消費量は地球2.8個分が必要になると考えられています。
(出典:グローバル・フットプリント・ネットワーク、NFA2018)
ゴミを含め、廃棄物が出る場所は様々です。
家庭からのゴミ、工場からの廃棄物、レストランなどの商業施設からのゴミなど、日常茶飯事に廃棄物は生まれ、普通に捨てられています。
そして、回収されたゴミは、一般的に焼却、埋め立てられます。
果たして、そのような廃棄物の処理は望ましいものなのでしょうか?
現在の廃棄物の処理方法は、環境やコミュニティにとって最善なものでしょうか?
本記事では、根本的な廃棄物の問題点、廃棄物による生命体への影響、企業の廃棄物に対する対応策、などについて執筆しています。
企業が廃棄物の問題に取り組むことは、水、土壌、大気汚染の低減、さらに人類や環境の健康維持にも貢献します。
製品を設計、デザインする段階から、使用を終える段階までの全体的なマネジメントができれば、製品のライフサイクル上で出るゴミの量は最小限に抑えられるはずです。
それは企業にとって、コスト削減に繋がるだけでなく、新たなビジネスモデルを構築することにも繋がります。
このような廃棄物問題にも取り組むことができるインパクトマネジメントのフレームワークを我が社では提供しておりますので、ご興味のある方はサービス紹介ページもご参照ください。
原点に戻って考える、ゴミの問題
廃棄物を適切にマネジメントするためには、どのような点に注意すれば良いでしょうか?
以下では、特に改善が必要と考えられる3つのことについてご紹介します。
廃棄物の適切なマネジメント
廃棄物は廃棄される量自体を削減する取り組みも必要ですが、加えて発生した廃棄物の処理方法も重要となります。
普段、私たちが使用している製品の多くは、様々な化学物質から構成されており、なかには人体へ影響があるか確認されていないものもあります。
このような物質を他の廃棄物と同じように処理した場合、焼却や埋め立てによって危険な物質が大気や土壌に流出することになります。
生態系の重要性は以前にもお話しましたが(ご覧になられていない方はこちらの記事もご参照ください)、地球上のエコシステムから恩恵を受けている生命体にとって、自然資本の一部である、土壌、大気、水を汚染してしまうことは、私たちの生活にも大きな影響を及ぼしかねません。
環境や生命体へ危害を与えるような物質がゴミに含まれている場合、物質に応じた適切な処理が必要となります。
現状は、廃棄物ができる限り分別され、分類にしたがって処理されています。
しかし、分別には限界があり、燃やされるべきでない物質が屑として燃えるゴミに混ざっている、あるいは廃棄物を発生させる主体が不法投棄をするケースもあります。
廃棄物の運搬・処理方法を含めた、廃棄物の適切なマネジメントを可能にするテクノロジーへの需要が高まっています。
製品デザインの改善
現在、生産されている製品は、一度限りの利用しか考えられていないような製品設計となっている場合が多いです。
理由は、企業が消費者の製品購入を促して売上に繋げたいこと以外にも、一つの商品の修理や修繕を行って再利用できるようにすること自体が、新しい商品を購入することよりもコストが高くなる場合があるからです。
さらに、環境や社会に配慮した製品であっても、既存の製品に劣る質であったり、消費者の購買行動に影響を与えないようなデザインであれば、例え、その製品が環境や社会にとても良いとしても、企業の売上には繋がりにくい状況となります。
一度限りの使用しか考慮されていない、あるいは想定耐用期間が短い製品は、使えなくなれば必然的に廃棄されることになります。
消費者が一つの製品を大切に利用せず、新しい製品を購入しては廃棄し続ける生活を続けると、廃棄後の再資源化への技術がない限り、自然のサイクルに戻すことができなくなります。
消費者一人ひとりのリサイクルへの取り組みも、もちろん重要ですが、例えば、そのリサイクルされる製品がどのようにリサイクルされ、どの物質を次のどのような生産へ活かすことができるのかまでデザインされていないと、再利用の幅は広がらないかもしれません。
生産に利用される物質
製品や商材の生産において、様々な物質の中から、安全性・コストなど様々な条件に合致する原材料が選択、使用されています。
規制によって、産業ごとに危険物質として使用制限があるものや、使用自体が禁止されているものがありますが、使用する物質が本当に環境や人体の健康に良いものであるかは吟味する必要があります。
例えば、近年でも多くの企業が取り組むリサイクル素材の再利用ですが、リサイクル素材を利用するための、他の新たな物質が有害なものであった場合、リサイクル素材が使われた製品と謳われていても、実際にはより人体の健康へ被害を及ぼしてしまうものである場合も考えられます。
また、使用される物質が「生分解性」であるかどうかも、重要な要素となっています。
生分解性とは、自然界の微生物の働きによって、物質が分子レベルまでに分解され、最終的には二酸化炭素と水となって自然サイクルの中に循環していく性質のことです。
自然の中にそのまま捨てられても、自然にたい肥化し、新たな自然資本として私たちはまた利用することができるようになります。
原材料の調達段階、製品が使用される段階、使用後の処理段階の全ての製品ライフサイクルを考慮した上で、生分解性などの自然に戻せるような物質の利用や、産業内で繰り返し利用できる物質の利用などが必要とされています。
廃棄物による被害
ここで、廃棄物が与える地球や人体への影響をいくつかご紹介します。
土壌・水質・大気汚染
人体や環境に危害を加える有害廃棄物には、ソースが特定されていない産業上の有害廃棄物、特定のオペレーションや産業から発生する有害廃棄物、薬物・洗剤・潤滑剤・染料・農薬などの製造時に使用され廃棄された有害廃棄物などがあります。
有毒な物質が適切な処理をされずに自然界に放棄された場合、廃棄物が放棄された土壌に有害な物質が溶け込み、健全な土壌が汚染されます。
汚染された土壌から成長した植物を動物が摂取することで、その動物の体に有害物質が蓄積されます。川の魚も同様に、土壌から流出された汚染水の中で生活します。
さらに、食物連鎖のピラミッド上、トップ層に位置する人間が体内に毒が蓄積された動物を体内に取り込むことによって、人間に健康上の様々な被害を与えます。
そして、有害物質が自然界に放棄された時に被る被害は、土壌汚染だけではありません。
汚染された土壌を通って雨水が川に放出された場合、私たちの飲み水が汚染されることになります。
現在、世界中で水の枯渇問題が急務の課題として考えられている中で、私たちの飲み水の元となる貴重な水源・地下水を汚染することは、さらに水資源の問題を悪化させることに繋がります。
有害廃棄物が自然界に放棄されない場合でも、その処理方法を誤れば、同様に人体や環境へ被害をもたらします。
例えば、ゴミを燃やすと発生すると言われるダイオキシンがあります。
このような有害な大気の排出は、コミュニティで生活する人々に与える影響に加えて、その場で廃棄物の処理を行う人間の健康にも大きな被害を与えることになります。
気候変動による異常気象
分解された廃棄物から発生するGHGは、大気中に上昇し、熱を閉じ込めます。
このような大気が、台風や嵐などの異常気象を発生させる可能性を高めます。
また、汚染されている大気からは酸性雨や、ひょうを含んだ激しい嵐が起きます。
温度の上昇、海水面の上昇の原因となる温室効果ガスは、廃棄物からも発生します。
よって、気候変動を悪化させる一つの要因と考えられます。
廃棄物問題に貢献したい企業ができること
以上のようなことを踏まえて、具体的に企業にはどのようなことができるのでしょうか?
考えられるいくつかの案をご紹介します。
①製品やサービスを持続可能な形に再デザインする
上述したように、現在の製品やサービスの多くは、一度限りの使用を念頭に入れたものがほとんどです。
一つのものを長く大切に使い続けられるように、修理オプションを充実させたり、一部の部品を交換することで再利用が可能になるようなデザインにしたりすることで、廃棄物を削減できるだけでなく、回収した物質や部品から新たな資源を取り出すことも可能になります。
デザインは、サーキュラービジネスを実現するための非常に重要な要素です。
②有害な物質を発生させないために、初めから有害な物質を使用しない
廃棄物を適切に処理することの重要性をお伝えしましたが、ここで視点を変えて、そもそも有害な物質が発生すると分かっている物質の使用をやめるという選択肢もあるのではないでしょうか?
そのような物質が利用される必要性がそもそもあるのでしょうか?
現在使用している有害物質を減らす、そして生分解性の物質を多く使用する努力が必要とされます。
③廃棄物処理技術を高める
消費を続ける限り、必ず廃棄物は出続けます。
そこで、廃棄物を適切に分別、分類に応じた処理ができることが必要とされます。
例えば、細かい電子部品を細部まで解体し、使える資源や有害な物質を取り出す作業です。
手作業でも可能ですが、それでは時間的コストが高くなるため、海外では指定した物質を細かいレベルまで自動で取り出すことができるベルトコンベアの開発などが積極的に行われています。
ケーススタディ
廃棄物マネジメントを意識した企業の製品やサービスにはどのようなものがあるのでしょうか?
以下では、”Product as a service”(製品のサービス化)という考え方を念頭に置いたデザインを行う2社をご紹介します。
Interface
インターフェイスは、アメリカに本社を置くカーペットメーカーです。
1990年代に当時積極的に行われていた環境啓発活動の中で、ある活動家に「インターフェイスは環境のために何をしているのか」と尋ねられた時、何も答えることができなかった当時のCEOが、インターフェイスをサステナブルな企業に変身させようと一念発起しました。
サステナビリティを推し進める様々な取り組みを進め、製造からの炭素排出量ネットゼロ、埋め立てや焼却の廃棄物ゼロ、製造に使用される新しい水ゼロ、製造における再生可能エネルギーの使用率100%、の4つのゼロを掲げ、これまで進んできました。
現在では、気候変動に向けた新たな取り組みも始めています。
インターフェイスのカーペット製品の特徴的な点が、契約している相手先のカーペットの取り換えが必要になった時、全てを取り替えるのではなく、取り替える必要のある部分だけ取り替えることができる点にあります。
通常のカーペットであれば、全面の取り換えが必要になりますが、一部の取り換えを可能にしたことで、廃棄物を減らし、資源の再利用がしやすくなりました。
カーペットを一つの製品としてではなく、サブスクリプションサービスのような形態で販売することは、所有権ではなく、使用権に重きを置くビジネスです。
契約期間であれば、カーペットのメンテナンスや取り替えが可能であり、ロイヤルカスタマーも生まれやすくなります。
Mary Rose
メアリーローズは、オーストリアのドルンビルンに店舗を構えるテキスタイルのお店です。
ローカルの店舗のみで営業を行うドメスティックな小さなビジネスです。
ファッション業界のサステナビリティは近年注目されており、使用される繊維、染色、そして排出される水などが環境負荷に関係しています。
また、製品が作られる過程での労働環境の問題もあります。
Mary Roseは、環境問題、社会問題に取り組んでおり、その証拠として、いくつかの認証を保有しています。
GOTS(The Global Organic Textile Standard)は、生態学的に生産された天然繊維によるテキスタイル加工の先進的なスタンダードです。
製品の繊維、生地、ラベルに至る全てのテキスタイルで持続可能な基準が満たされていることを保証するものです。
また、Cradle to CradleのGold認証も保有しています。
これは生産で使用されるすべてのものが生分解性であることの証明になります。
マテリアルヘルス、材料の再利用、再生可能エネルギー、水スチュワードシップ、社会的公正の観点から評価され、製品がバイオロジカルな循環へと戻ることが保証されます。
メアリーローズは、コンシャスリビング(Conscious living)が必要だと考え、製品が作られる過程を消費者も知ることが必要だと考えています。
認証の取得は、ビジネスが正しいことを行っているかを知る一つの基準にもなります。
日常生活を彩る多彩なデザインでありながら、地球にも優しいライフスタイルも実現するという、まさに理想的なビジネスです。
まとめ
廃棄物を考慮したビジネスモデルを構築することは、製品やサービスを販売する企業としての責任でもあると思います。
何事においても作って終わりということではなく、どのように使われ、どのようにその生命を終えるのか、ディテールまで配慮されたデザインというものが、今後さらに必要とされます。
既存の製品開発でも、もちろん使用段階のことは考えられているはずですが、消費者が利用する一地点だけでなく、バイオロジカルのサイクル全体を考慮できるように視野を広げるパラダイムシフトが、良いデザインを生み出すことに繋がります。
持続可能で、人間にも地球にも優しい商品であふれる世の中になれば良いですね。