パナソニック株式会社長榮取締役会長を訪問して
「県人企業訪問記」
今回は、パナソニック株式会社 取締役会長 長榮周作氏です。
10月30日(金)、松本近畿愛媛県人会会長、鶴村愛媛県大阪事務所長、高辻関東愛媛県人会副会長、本山広報担当役員、山岡次長並びに渡部課長と事務局長の私7名で、門真市のパナソニック株式会社本社を訪問し、長榮周作取締役会長にお会いしました。近畿愛媛県人会への日頃のご厚情への御礼をお伝えし、懇談の後、当会と関東愛媛県人会との会報誌「への合同取材をさせていただきました。 同氏は、現在世界に誇れる我が国代表企業の経営者としてご活躍されており、私たち郷土の誇りでもあります。 また、ふるさと愛媛を絆としたご縁で、当会を暖かく見守っていただき心より感謝しています。 平成27年度近畿愛媛県人会定期総会におきましては、「企業経営と剣道」をテーマに講演していただき、講演後、満席の会場から盛大な拍手が送られ、喝采で大好評だったことが記憶に深く残っています。さらには、先だって放映された人気ドラマ「半沢直樹」で、剣道シーンがドラマの核心部分として扱われており、竹刀を通じて対峙する緊張感のなか、主人公が鋭い目線で打ち込むシーンを見た時、同氏のことが脳裏をよぎりました。 プロフィールでは、1950年に松山でお生まれになり、愛媛県立松山北高校・愛媛大学を卒業、松下電工(株)(現パナソニック(株)に入社(当時の代表取締役社長の三好俊夫氏は近畿愛媛県人会第4代目会長)。その後、パナソニック電工(株)代表取締役副社長・代表取締役社長を経て、2013年にパナソニック(株)で現職に就任されています。小学生より始めた剣道は、剣道歴60年、教士7段をお持ちとのことで、公益社団法人大阪府剣道連盟会長として、剣道の普及発展に努められています。 今回の長榮会長様訪問(取材)では、新型コロナ禍内外情勢が混迷の時期に、貴重なお時間を割いていただき深く感謝しています。
文責 井門照和
インタビュー
日時:令和2年10月30日(金) 14時
問) ふるさと愛媛との関りを、生い立ちを含め全般的にお教えください。
答) 生まれたのは松山市拓川町だが、両親が薬屋を始めるということですぐに三津浜に移ったらしい。なので自身はずっと三津浜で育ち、今も実家は三津浜にある。三津浜小学校、中学校、松山北高校に進み、愛媛大学に進学、ということで学生時代はずっと松山で過ごした。すでに両親も亡くなり、実家は妹が住んでいる。妹も二年前に主人をなくし、今は娘と住んでいる。ということで、妹と会うことはあるが、実家にもあまり帰らなくなった。ただ、中学や高校の同窓会、大学のOB会があるので、ちょくちょく帰ってはいる。
問) ずっとこちらにお住まいなので、愛媛と疎遠になりがちだとは思いますが、そのあたりの思いも含めて、現在の心境をお聞かせください。
答) 友人が結構多いので、しょっちゅう電話で話したりするし、距離的にもすぐ帰れる距離なので、そんなに遠いとは思っていない。
問) 出身校の松山北高校さんでは、近畿でも同窓会活動が活発になされており、卒業生との交流、連携がはかられているようですが、どのように思われますか。
答) 毎年、開催しているようだ。最近ここ3年は用件が重なって出席できてないが、機会があれば今後も参加してみたいとは思っている。
問) 特に若い会員向けになるが、パナソニックといえば漫画の「課長 島耕作」の舞台。ご自身におかれても、会長まで上り詰めたサクセスストーリーがあると思いますが、何かヒントになるようなことがあればお教えください。
答)
実は、あの漫画は、設定としては私の年齢より2年上。島耕作は作者の弘兼憲史さんと同じ年齢になっている。作者の弘兼さんはパナソニックに3年ほど勤務しており、この前もお会いした。島耕作が課長になって2年後に私も課長になった。部長も、事業部長も、取締役もすべて2年遅れ。漫画はずっと読んでおり、課長になったらこういう風な仕事の
仕方をしないといけないのか、部長になったら、取締役になったら、と結構参考にしてきた。最後の、会長になるのは私のほうが早かったが。今、「相談役 島耕作」となっているが、当社は相談役は廃止している。作者がしっかり取材をして書かれているので、内容はかなりリアル。三洋を買収した時は、ちょっとフライングだ、と言われていた。
かなり調べて書いているようだ。私の中国やフィリピンにいる友人もインタビューを受けたらしく、登場人物が名前を足したようになっていた。私の同僚が、昔、中国にいたが、その席のことも漫画にでたらしい。 会社に勤め始めて50年近く経つので、若い人に、自分たちの年齢くらいのときに何をしていましたか、という質問もよく受ける。特に、部下を含めて人の言うことをよく聞き、良い点は取り入れること、目の前の仕事に精一杯取り組むこと、そして部下は家族の一員と思って接することを心がけてきたと思う。
問) 長榮会長といえば、印象に残っているのが剣道。剣道に対する思いが強い方と聞いている。段位も七段をとられている。大阪で開催された剣道全国大会にも行かせていただき、ふるさと参加校の応援をしたが、会場全体が熱気であふれていた。半沢直樹の最終回でも、主人公が部下と竹刀を通じ、全身でぶつかりながら、信頼関係を築いているシーンがありました。その時の記憶ではまさに剣道は人生一直線と思いましたが、日本古来の武道としての剣道と会長の信条つながりについてお教えください。
答) 毎日放送のテレビ番組“ちちんぷいぷい”に出演機会があり、剣道の話をした。テレビドラマ「半沢直樹」では大事な局面で「剣道」が描写されており、剣道について詳しく教えてほしい、という趣旨の取材で、弊社の剣道部員の実技による「残心」の解説などを行った。
その時にも言ったことだが、剣道もスポーツなので、若いときは勝つためにやるということがある。ただ、ある程度、年齢を経て子どもたちの指導もするようになると考えることがある。「剣道理念」というものがあって、これは「剣の理法の修練による人間形成の道」ということ。「剣の理法」とは何かというと、技術的なこともあるし、礼儀的なものや、人を敬ったり、そういったことをすべて含んでいる。剣道の試合は礼に始まり礼に終わる、勝っても負けても相手をリスペクトするというような心持ち。究極は勝ち負けじゃない、人間形成なんだ、ということを子どもたちに教えるのはなかなか難しい。これはおそらく、剣道連盟でもどうやって指導していこうか課題になっているかと思う
が、試合に勝つことが目的じゃない、立派な人間になることが目的ですよ、ということを言いたい。 会社の不祥事があったところの社長とかもよく知っているが、経営者としては立派だが、人間としてはそうじゃない人もいる。そういう人がやっぱり粉飾決算などをしてしまう。そういうのを見ていると、人間形成の道はやはり大事なんだな、と。一般的に、立派な大人、立派な人間になりなさい、と子どもによく言うが、そのあたりをこれから教えていかないといけないな、という思いがある。
問) 剣道のまなざしや視線が、裏も表もないまっすぐな、今の時代に一番欠けているものを示している気がしました。私も幼少のころ吉川英治の連載小説「宮本武蔵」が愛読書でしたがよく読んだが、武道を通じて、己の生き方考え方を磨いていく、その考え方が今も生きているのかな、と。剣道、というものが人間形成に役立っていると。 武道とは何かについてお教えください。
答) 子どもに教えるときに保護者の方にもよく言うが、剣道は理不尽も多い。人間が審判をして、相打ちみたいに見えてもゼロコンマの差を見極めて審判をしないといけない。でも、子どもの試合などはそこまでの技量がない審判もいるので、誤審もする。私たちが見ていてもそういうのが多い。子どもは当然負けて泣いている。そういうときに、審判が悪い、というと子どもの成長が止まるので、お前の技量が足りなかったんだ、ということになるが、理不尽は会社に入ってからのほうが多い。そういう意味では耐性がつく。そういう風に言ってあげればわかりやすいのかな、と。
問)コロナのパンデミックなどもあり大変な時期だが、会社としてどう乗り越えていかれるのか、ビジョンのようなものがあればお教えください
答) うちの会社もテレワークが非常に多かった。一時はテレワークでずっと家にいたことも。テレワークになって良かったこと、悪かったことがあると思う。社会を見ていても、航空会社や、宿泊、飲食は大きな痛手を被った。コロナで、悪くなったところもよくなったところもある。ソニーさんは鬼滅の刃で増収増益というし、うちの会社は、空気清浄機はバカ売れで生産が追い付かない。巣ごもり需要関係のテレビや調理器もすごく売れている。一方で、自動車部品などは、だいぶ戻ってきたが苦戦している。何かあったときはそうやって明暗が分かれる。 昨日、決算発表を行ったが、減収増益だった。これは、出張が減ったりして固定費が減ったため。それなら、来年も出張せずに固定費を削って利益を確保したらいいのか、というとそういうわけにもいかない。だから、ここで経験した、良かったことは踏襲して、チャンスをピンチに変えていかなければいけない、ということを言っている。働き方も大きく変わっていくだろうし。百パーセントとはいわないがテレワークも残るだろうからいろんな制度も変えていかなければならない。こういう情勢は長い間続いていくと思うし。
問) 国際情勢はコロナ一色で、アメリカは大統領選、日本も政権交代などあわただしい情勢だが、そういった情勢の中で、どのようなお考えを持っておられるかお教えください。
答) どちらの大統領になっても中国への態度は変わるまい。そういった世界情勢の中で、うまくやっていかなければならない。 いろんなことが会社には影響する。イギリスのブレグジットなども含めて、色々なことが会社には影響する。不透明で複雑性が増している世界情勢の中で、上手くバランスをとって経営していかなければならない。
問) これまでの社会人人生の中で、強く心に残っていること、こういうことがあって、今につながっているということ、人生観などについてお教えください。
答) 社員との懇談会の中でも、会社の中で一番心に残っていることはなんですか、ということをよく聞かれる。 それに対しては、いつも同じ答えなのだが、自分は技術屋で事業部に長く在籍したが、社長になる前の2年間だけ、営業の仕事をした。これがすごく自分のためになった。毛色の違う仕事を経験しないといけないな、と。 学生時代で思い出深いのは、高校生のとき。剣道部で無茶苦茶しごかれた。ここまでやられたら、どこに行っても大丈夫だ、というのがバックボーンにある。高校は精神的に一番強くなる時期だが、あの時に先輩にしごかれて、しんどかったけど良かったな、と思う。 体罰禁止は大阪府剣道連盟でも通達を出しているが、体罰を悪いことと思ってない年代が先生の年代のようだ。早く集まれ、と口で言ってわかることでも手が出てしまう。こういうところは変えていかなければならない。鈴木大地元大臣には、剣道自体が体罰みたいなもんだ、と言われたりもしたが。時代は変わっているので、そういう風に言っていかなければならないのかもしれない。会社もセクハラやパワハラが増えている。言葉自体が昔はなかったせいかもしれないが 。
貴重なお話をいただき本当に感謝しています。どうもありがとうございました。