念仏
2016.09.29 06:27
洗濯に掃除、買い物して料理を作る
子どもたちを送り出し、迎え入れる合間に
外に働きに出て
PTAの打ち合わせなどもやる。
すべるように慌ただしい日々と
それを取り巻くように
頭に充満する情報群
そんな毎日に身も心もさらしていた母さん
ついに熱を出した
けだるさに唸りながら寝ている横で
同じように横になり
熱でだらりとした腕にしがみつき
念仏のように口の中で繰り返し唱える娘
「なおってね。なおってね。なおってね。」
「なおってね。なおってね。なおってね。」
幼い口の中で繰り返されるささやきに
熱い背中にポツリと落ちた
冷たい雨粒のように
母さんは思い出した
―育てることは、
本当はとてもシンプルなもの―
娘から惜しみなく差し出される
つくしのごとき素朴な念仏に
そう
言われた気がして
ハッと胸が冴めた微熱の夜