ノルディックランニングの今昔、そして未来展望
昨年に要望があり、ノルディックランニングについての過去から現在を簡単にまとめたものをUPしておきます(その時はノルディックウォーキングをしていない方に読んでもらうために流れを優先しました)。
今回はノルディックランニングに興味がある方向けに一部加筆修正してみました。 お時間のある時に読んでもらえると大変嬉しいです。
『ノルディックランニングの今昔、そして未来展望』
ノルディックウォーキングの始まりは、1930年代にクロスカントリーの選手が夏の間の体力維持・強化トレーニングとして行っていた「スキーウォーク」からで、それはクラシカル・クロスカントリースキーと同じ長さ、肩まであるポールを使用したタフなエクササイズでした。
1997年の春、フィンランドで初めて現在紹介されている「ノルディックウォーキング」が発表されました。誰でも簡単に覚えられ、5〜10分で運動効果を感じられる最も運動効果の高いスポーツとしてフィンランドでは瞬く間にポピュラーになり、まもなくドイツ、オーストリアで普及しました。またAmazonで「nordic」と書籍で検索するとノルディックウォーキングの書籍が上位に来るのがEUの主要国であるドイツ・イタリア・フランスです。
この様にノルディックウォーキングはヨーロッパでは人気の高いアクティビティフィットネス・スポーツとして認知されています。
日本では一般に知られるようになったのは、1999年に北海道大滝村でスキージャンプのフィンランド人コーチが「ノルディックウォーキング」として伝えたのがきっかけと言われています。その後、日本国内では北日本を中心に細々と行われていましたが、2004年ごろから「大滝村ノルディックウォーキング協会」のサイトなどを中心に、活発な情報交換が行なわれるようになり、「北欧発の健康法」としてノルディックウォーキングが、介護予防や生活習慣病予防対策のコンテンツとしてにわかに注目されるようになりました。
その盛り上がっていく中で多くの協会・連盟などが生まれていきました。
2003年7月に「日本ノルディックウォーキング協会(JNWA)」がノルディックウォーキングの普及・振興目的の為に設立(後に法人化)。
2006年12月には整形外科専門医 安藤邦彦スポーツドクターにより「日本ポールウォーキング協会」が設立されポールウォーキングが確立されました。
医療・健康福祉・運動分野の関係者の努力とフィンランド政府のバックアップにより「日本ノルディックフィットネス協会(JNFA)」が2007年にINWAの認定する第18ヶ国目の団体として設立(運動強度別に「ヘルスレベル」「フィットネスレベル」「スポーツレベル」と分類)。
社団法人日本ウオーキング協会の部会として発足した一般社団法人全日本ノルディックウォーク連盟(全日本)では、従来のノルディックウォーキングに学術的な研究を重ね、日本独自のポール開発を行い、「アグレッシブタイプ」「ディフェンシブタイプ」を定義し、日本独自のウォーキング健康法として普及してきています。
これらを含む多くの協会・連盟などの本質はウォーキング〜ノルディックウォーキング(ウォーク)をカバーしたものとなっていて、バックボーンをどこに置くのか?使用するポール形状は?などにより主張するものが違うものとなっています。
そして、日本でそれなりにノルディックウォーキングが定着していく過程でよりアグレッシブなアクティビティにしていこうという人たちも勿論現れてきました。
代表的なイベントでは、ノルディックダッシュ(JNFA)、富士山国際ノルディック・ラン(富士山国際ノルディック協会)、ノルディックハーフマラソンin長野(INWA公認)などがあります(敬称略)。
・ノルディックダッシュは発案者の1人 工藤博氏(JNFA、ソルトレーク五輪クロスカントリー競技出場)が2008年に考案し主に東北で競技会が開催され(2016年初めて他地域である愛知県でも開催)、およそ100mの登り坂を2本のポールを使って駆け上がり順位を競う競技で、ポールワークはもちろん、瞬発力、持久力、リカバリー力等のあらゆる力の結集が要求される競技です。
・富士山国際ノルディック・ランは2013〜15年の3回開催され、約16kmのトレイルをノルディックランニング・ウォーキングします。
・ノルディックハーフマラソンin長野はノルディックウォーキングイベントであり、建前上は競技ではなくタイムや順位を競うものではないのですが、やはりノルディックランニング・ウォーキングします。コースは約21kmです。
媒体では、
ランニング雑誌にて2005年に長谷川佳文氏(日本ノルディックウォーキング協会副理事・マスタートレーナー、日本陸連上級インストラクター(ジョギング))によるノルディックウォーキングポールを使ったランニングトレーニングの特集記事が初・中・上級と3回に分けて掲載されました。
またトレイルランニング雑誌では2012年に山田琢也氏(JNFA アドバンスインストラクター)が「ポール・テクニック ノルディック・ウォーキングに学ぶ」で見開き4ページにわたり細かな画像付きで解説されました。
この様な今までのノルディックウォーキングからよりアクティブな運動に移ってきているのは、どうしてもポールを2本持つと高齢者のリハビリのようなイメージが拭えないのを改革したい、という人たちが増えたのと、これからは若い世代へのノルディックウォーキングの新しいアプローチが必要、だと業界に身を置く少なからずの人たちが声を上げだしたからだと思っています。
また、クラシカル・クロスカントリースキーを始まりとするノルディックウォーキングはなぜ長い間フィットネスや介護でしか語られなかったのか?というと日本が世界でも稀な超高齢化社会だという事も一因に挙げられると思いますが、一番の理由はクロスカントリースキー選手が夏の間の体力維持・強化トレーニングとして行っていたのでメイン競技、もしくは独立したものと見なされなかった、というのも大きいと個人的には分析しています。 なので(長谷川佳文氏がランニング雑誌に掲載して10年以上も経つのに)、今現在もマラソンの補強にノルディックウォーキング、というのも良く聞くフレーズです。 実際にそれができるので嘘ではないのですが、これからの動き出したノルディックウォーキング業界を見据えていくならば、何かの為のノルディックウォーキング・ランニングだけではなく、ノルディックランニングという一つの独立した競技・スポーツ・フィットネスとしていかなければいけないです。
またそう思うのには理由があります。私にはノルディックランニングの師であるMilan Kůtek氏という方がいます。彼は定期的にチェコ共和国のプラハ(時にイベント・トレーニングキャンプで別所)でノルディックランニングのレッスンを行っている現在進行形のノルディックランニング先駆者です。私とはSNS上でやりとりする程度の師ですが、彼が積み重ねた研究・体験などを論文に書き、それがIAAF(国際陸上競技連盟)のEuropean Athletics Innovation Awards2012(ヨーロッパ陸上競技イノベーション賞)を受賞しています。
またそれはIAAFの権威ある科学雑誌に掲載されました。
その本は陸上競技の新研究、陸上競技トレーニングの研究やトレーニング方法、新しい知識に焦点を当て、 五人の国際科学諮問委員会によって保証されています:Prof. Helmut Digel (GER), Prof. Tim Noakes (RSA), Esa Peltola (AUS), Prof. Eduardo De Rose (BRA) a Prof. Maliju Tian (CHN)。
彼はノルディックランニングする理由を以下4本の柱で説明しています。
・ポールを使うトレーニングによる斬新性
・筋骨格システム(下肢、足首、アキレス腱、膝)へのストレスを軽減
・(上肢、胸と腹の筋肉への)負荷の調整が可能でトレーニング効率を高めれる
・ポールを使用する事でランニング時の姿勢を改善できる
さらにノルディックツアーとして、チェコ共和国のオープンチャンピオンシップのノルディックランニング大会を2015年より開催しています。 距離は10kmで主に平坦なトラック・林道を使い、3.3キロの周回を3周(2周目はポールなしで走行)、カテゴリーは、男女別39歳以下、男女別40歳以上、です。(このようにヨーロッパで盛り上がりの機運がある中でJNFAさんのノルディックダッシュがINWAさんに輸出されようとしてるのはこういう下地があるからだと見ています)
また彼は『NORDIC RUNNING』という本を2016年3月に発売されました(日本未発売)。
現在ではこれら以外にもノルディックランニングの可能性を追い求める機運が高まってきているのを感じています。
ノルディックダッシュの様な短距離なものから、UTMBのようなトレイルランニング(2015・2016総合優勝者はLEKIのポール使用)の攻めに使うものまで、特に今現在は以上の大会・イベント以外のも見ていると不整地での使用が目につくのですが、そのポール使用の安定性から考えたらその分野でのアドバンテージは計り知れないです。
人体の9割の筋肉を動員できるというノルディックウォーキング。それを更にアクティブに、よりスポーツ化したノルディックランニング。世界の機運が高まっていくこの機会に日本は遅れる事なく、ガラパゴス化するのではなくしっかりと付いていくべきだと思います。
日本のノルディックランニングは今が大切な時期です。決して小さくないその芽生えを大きくするも小さくするも、または枯らしてしまうのもこれからの活動次第だと思っています。