王子公園のこと
昨日、思い立って動物園にいってきた。年老いた動物がのんびり暮らしているといった印象で、各所に亡くなった動物の貼り紙がしてあった。ライオンの死を伝える貼り紙、その前に置かれる花束、手紙、写真。隣の檻にいるジャガーにはファンらしき女性たちが大きなカメラを向けて、こっちを向いてと子に語りかけるように話しかけていた。ここにいる動物たちは人間よりよっぽど幸せなのではないかと思ったが、まあそれは人間の価値観なのだとも思った。
動物園の動物に対し「あんなに狭い場所で一生を過ごさせるなんてかわいそうだ」という意見もときどき耳にするけれど、それもまた人間の価値観にあてはめているだけな気がして、私はその意見を聞くたび釈然としない気持ちになる。同居人は「何もしなくても十分な餌が出てくるなんて幸せやな」と言っていた。子どもは窮屈な水槽を飛ぶように泳ぐペンギンを目で追って機嫌がよさそうだった。生き物を見つつ、死を感じつつ、動物園で半日を過ごした。
動物園を出た後は近くの古本屋へ寄った。ブックオフ以外の古本屋なんて子どもができて以来で、古本屋というだけで心が弾んだ。少女棚があって嬉しくなった。定点観測地点が増える。
岡尾美代子さんの『Room talk』と、『京都を包む紙』を買う。どちらもどこかでパラパラと読んだことはあるけれど手元にはなかったのだ。古本屋で買う本はこういう本が多い。再び出会えたのも何かの縁ということで。
古本屋の後は行きに気になっていた古そうなパン屋へ寄った。店先にはラスクと食パンがラックに出ていて、夕方だったからか店の中のパンはどれも130円均一だった。ざっくりとした感覚で営業されているのが地域のパン屋という感じ。奥の厨房では店主っぽいおじいさんが一人で作業していて、予約済みの食パンがたくさん並んでいた。愛されている証拠。
山形食パン、パンダパン、エッグロールを買う。レジの後ろには動物たちの写真が貼ってあった。お客さんが撮影したものをくれるという。その下にはクジャクの羽、ゾウの尻尾が編まれたものが飾られていた。「自分たちは動物園と同じ営業日時だから、観にいけないのでありがたい」と言っていた。この街は動物園を中心に回っているのだなとパンダパンを見つめながら思った。
次に隣の焼売屋の店先で羊肉の肉包焼売を食べる。小さな肉まん、大きな焼売という感じで美味しかった。牛、豚、鶏、羊から選べて一つ150円と言う手軽さが今時という感じ。店の外観も写真写りを意識した風だった。
古い店と新しい店がコンパクトにまとまった街だった。久しぶりに街を歩いて、お店の人と会話をして、なんだかすごく懐かしくなった。こうして自分の足で街の色を感じたのなんて一年ぶりぐらいだ。本もインターネットも好きだけど、おでかけも同じぐらい好きだったことを思い出した。