オオクニヌシの試練
さて、前回はいきなり「いなばのしろうさぎ」の話が出てきて、え、神話ではないのかって、ちょっと驚いたかたもいらっしゃるかと思います。
古事記と日本書記は、それまでにあった幾つかの話をまとめたものですが、その元となった原版はほとんど残っていません。また、この辺りからは神代のことを書いてはおりますが、葦原中国といって、いまのわたくしたちが住んでいる世界の話です。
ですので、「いなばのしろうさぎ」は日本書記には記述がありません。一方でこの頃は各地で風土記も書かれています。多分、高天原と違う、葦原中原っぽい話が欲しかったのではないかと思います。
幾つか補足をしますと、まず八十神(やそがみ)というのは、オオナムヂ(大国主命)さまの兄神です。そしてこの頃、葦原中国では、一番下の子が代々継承権がありました。また、八十神と言ってますが、80柱(人?)いた訳でなく、兄神たちの総称で実際は何柱かはわかりません。たくさん兄がいたということで、それらの名前もに残っておりません。
ようするに、ここでは八十神が重要なのではなく、オオナムヂが継承すること自体に面白くなく邪魔をする訳なんです。
それを念頭において、お読みください。
(現代語訳)
さて、ヤガミヒメは八十神たちの求婚に答えて「わたしはあなたたちの言うことは聞きません。わたしはオオナムヂに嫁ぎます」といった。
これを聞いた八十神たちは怒って、オオナムヂを殺そうと思い皆で相談して、伯{き}国の、手間の山の麓に来て、オオナムヂにいった。「赤い猪がこの山にいる。そこでわれらが一斉に追い下ろすのでお前はそれを待っていて捕まえろ。もし、待ち捕まえなかったら、必ず、お前を殺すぞ」といって、猪に似た大石を火で焼いて、転がし落とした。そこで追い下ろすのを捕らえようとしたオオナムヂはたちまちその石に焼き付かれて死んでしまった。
このことを知ったオオナムヂの母神は嘆き悲しみ高天原に参上して、カムムスヒの神にお願いすると、すぐに{きさ}貝比売(キサガヒヒメ)と蛤貝比売(ウムギヒメ)を遣わして、治療して生き返らせた。
{きさ}貝比売が大石にこびり付いていたオオナムヂの骸を集め、蛤貝比売がそれを待ち受けて母の乳汁を塗ったところ、元の麗しい男に戻って出歩かれた。
そこでこれを見た八十神たちはまたオオナムヂを騙して山へ連れて行き、大きな木を切り倒し、楔をその木に打ち込み、その割れ目にオオナムヂを押し込むやいなや、楔を外してオオナムヂを挟み殺してしまった。
そこでまた、母神が泣きながら探し、オオナムヂを見つけて、ただちに木を裂いて取り出し生き返らせていった。「お前はここにいたら、いつかは八十神たちに滅ぼされるでしょう」といい、すぐに木の国の、オオヤビコのもとにオオナムヂを遣わせた。
ところが八十神たちは探し出して追いかけてきて、弓矢を構えて引き渡しを迫ったので、オオヤビコは木の俣からオオナムヂを逃していった。「スサノオのいる根の堅州国に行きなさい。必ず大神が良い方法を考えて下さるだろう」
そこで、いわれた通りにスサノオのもとに参り至ると、スサノオの娘の須勢理毘売(スセリビメ)が出てきてオオナムヂに一目惚れして結び合われ、御殿に帰ってスサノオに「大変麗しい神がおいでになりました」といった。
※オオナムヂが出会ったのは、なんとスサノオさまでした。
この出会いは、一体なにを齎すのでしょうか??