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のらくらり。

ぽかぽかあたたか

2021.02.02 11:22

いちゃいちゃ甘々なウィルイスとアルルイ。

ぽかぽかな兄さん兄様に抱きしめられて幸せを感じるルイスのお話。


幼く小柄なルイスの体は真っ白く冷たい。

大人に比べて子どもの体温は高いのだと兄に教わったはずなのに、その兄と比べても周りの子どもと比べても、ルイスの手はひんやりしていて冷たいのだ。

まるで人形のようで不気味だと揶揄されたことも一度や二度では済まないほどにある。

気付いたときにはそういうものだったから気にはしなかったけれど、兄と手を繋ぐときにはその温かさがぽかぽかと気持ちよくてルイスはだいすきだった。

いつだって手を繋いでいてほしいし、抱きしめていてほしいと思う。


「兄さんの手は温かいですね」

「そうかな?」

「はい」

「ふふ、ありがとう」


ルイスがこくりと頷き、握られた手の温度を感じやすいように指を広げれば、指同士を絡ませるように更に握りしめられてしまう。

兄の真似をして指を握り返せばますますその温かさが自分に移っていくようだった。

じんわりと染み渡っていくような兄の体温は、ルイスの記憶が残っていないほど昔からずっとずっと自分を守ってきてくれたのだという安心感を与えてくれる。

それを嬉しいと思うよりもまず、どうしてこんなにも自分と違うのだろうとルイスは不思議に思う。

ルイスの手はとても冷たいのに、兄の手がとても温かいのは何故なのだろうか。


「僕の手よりもずっとぽかぽかしています」

「ルイスはあまり基礎体温が高くないみたいだから」


兄は不思議な顔をして自分を見上げ、指遊びをするように握った手指を動かす弟を見た。

ルイスは気付いていないけれど、兄は弟の体がどこかおかしいことに気付いている。

真夏でも上がることのない皮膚の温度が、聡明なこの兄に違和感を覚えさせないはずがない。

きっとこの子の体で循環を司る臓器の調子が悪いのだろう。

まだ小さい体なのに、どうしてこの子にそんな運命が充てがわれているのだろうか。

けれどそれを指摘したところで今はまだ何も出来ないのだから、はっきりした自覚症状がないのであれば慎重に経過を見ていくしかない。

いずれ絶対に治療を受けさせるのだと心に決めている兄は、いつも見えている弟の真っ白い額に頬を寄せ、ひんやり冷たいその肌に優しく温かいキスをした。


「兄さんはどうしてそんなに温かいんですか?」

「うーん」


正確には自分の体温が高いのではなくルイスの体温が低いのだけれど、それを指摘してルイスが何かに勘付いてしまっては困る。

可愛い弟には何の懸念もなく無垢で朗らかに生きてほしいのだから、せめて本人が気付いていないこと、気付かなくて良いことには無知なままでいてほしかった。

兄は小さな手を握りしめ、大きな瞳を見つめ返して期待に満ちているその表情を受け入れる。

この子は自分なら何でも知っているのだと信じ切っている。

憧れにも似た期待に応えてあげるべく、兄はルイスが納得するだろう答えを考えては自分よりも一回り小柄な体を抱き締めた。


「僕の体が温かいのはね」

「はい」

「僕がルイスをだいすきで、ルイスも僕をだいすきだからだよ」


ぎゅう、と優しく抱きしめて、兄は本心からの答えを教えてあげた。

ルイスはもう何度も彼に抱きしめられているけれど、いつもその体温はぽかぽかと温かくて気持ちが良い。

自覚はなかったけれど自分の体は冷たかったのだと実感するようで、ルイスはじんわり温まっていく体以上に心がぽかぽかと火照っていくようだった。


「兄さんが僕をだいすきで、僕も兄さんがだいすきだから…?」

「そうだよ」


加えて兄が言った言葉はルイスにとってとても嬉しいものだった。

最愛の兄に愛されていることはルイスの安寧に繋がるし、自分の想いも伝わっているのだということが何より嬉しい。

ルイスは移る体温と同じようにじわじわ表情を緩ませて、幼いけれど整った顔に相応しい愛らしい笑みを浮かべていた。


「ルイスがいてくれるから、僕はぽかぽか温かいんだろうね」


決してルイスを誤魔化すための嘘ではない。

兄はルイスがいたからこそ生きる目的が出来たのだ。

この子が居なければきっと自分の心は荒んでいたし、誰のことも信じることなく一人ぼっちで死んでいたに違いない。

ルイスがいたから愛することを知り、愛されることを知ったのだから、兄が持つ温かい体も愛しいと思う気持ち全てもルイスのためだけにある。

冷えたルイスの体を温めるため、自分の体温は高いのだ。

それは弟を守るために在る兄として、とても光栄で誉れ高いことだと思う。


「ルイスの体はひんやりしているけれど、僕がたくさん温めてあげるからね」

「はい!」


兄さんぽかぽかで温かいですと、嬉しそうに笑うルイスを兄はますます強く抱きしめた。




兄と二人きりで生きていた頃、ルイスは彼にそう教わったことがある。

ウィリアムの体が温かいのは自分のおかげで、ウィリアムに愛されているからこそなのだと、そう教わった。

それはとても心が温かくなる事実で、ルイスは身も心も十分に温まり癒やされたことを覚えている。

ルイスはウィリアムの言葉を疑わない。

たとえ事実に反していても、現実味がなかったとしても、ウィリアムが言ったことは全てルイスにとって正しいことなのだ。

だから今、アルバートに抱きしめられているこの状況においてもウィリアムの言葉の正しさを思い出す。


「…兄様のお体はとても温かいですね」

「そうかい?」

「はい。…抱きしめられていると、体だけでなく気持ちも温かくなります」

「君が気に入ってくれているなら良かった」


心臓の手術を終えてしばらくした今もルイスの体はひんやり冷たい。

ウィリアムと同じ以上に彼を想っているはずなのに体温は上がらないのかと残念に感じたものだけど、アルバートにも抱きしめられるようになってからはさほど気にすることも無くなった。

冷えているからこそ、二人の体温をこの上なく温かく感じられるのだ。

アルバートの肌はルイスよりもずっと温もりに満ちていて、日頃あまり見ることの出来ない彼の愛情を実感する。

あの日ウィリアムに教わったことは間違いなく真実なのだから、ルイスがアルバートに愛されてルイスがアルバートを愛しているからこそ、彼の体温はぽかぽか温かいのだろう。


「兄様」

「ん?何だい、ルイス」

「兄様、兄様」


強く抱きしめられているこの状況で、敢えて言葉にするのは無粋だろう。

けれども溢れ出る気持ちを抑えることは出来なくて、ルイスは自分を包み込むように抱いているアルバートの名前を何度も呼んだ。

くすぐったいばかりの声はアルバートを癒してくれたようで、何を言うでもなく静かにルイスの声を聞いている。

そうしてしばらく二人が抱き合い、アルバートの体温が十分にルイスの肌へと移った頃、ウィリアムが二人のそばへとやってきた。


「アルバート兄さん、ルイス」

「ウィル」

「兄さん」


尊敬する兄と最愛の弟が抱き合う姿を見たウィリアムは自然と表情が緩んでしまう。

殺伐とした目的に見合わない美しい光景だ。

今朝は屋敷の中も随分と冷えていたから、アルバートがルイスの体を温めてくれていたのだろう。

有難いことだと徹夜明けのウィリアムはルイスの体を背後から抱きしめ、普段よりもじんわり温かいその肌に満足したようにますます笑みを深めていた。


「温かいね、ルイス」

「兄様が温めてくださいました」

「ありがとうございます、兄さん」

「礼を言われることではないよ」


私がルイスを抱きしめたかっただけだからと、アルバートは腕の中にいるルイス越しにウィリアムを見ては優雅に微笑む。

アルバートにとって初めての弟はウィリアムではなくこのルイスだ。

今でこそウィリアムも弟だと認識しているけれど、始めの頃はあくまでも主従関係が先立つ同志でしかなかった。

かつての弟は弟だと思ったことはないし、そうなるとこのルイスこそがアルバートにとって初めての弟で、アルバートにとって初めての恋人なのだ。

恋人を抱きしめるのは恋人の義務であり特権だとアルバートは感じている。

だからいくらルイスがウィリアムのものだとはいえ、礼を言われるほどのことではない。

アルバートは温まって頬に桃色が差しているルイスの肌に指をやる。

先程まで真っ白かったはずの頬が染まっているのは自分のおかげなのだと、そう思うだけで十分すぎるほどの優越感が胸を覆うようだった。


「アルバート兄様もウィリアム兄さんも、お体がとても温かいですね」

「さっきもそう言っていたね。温かいことはルイスにとって何か特別なことなのかい?」

「はい。昔、ウィリアム兄さんが教えてくれたんです」

「ウィリアムが?」

「んー…何だったかな」


アルバートに抱きしめられ、ウィリアムに背中を預けたルイスは、ぽかぽかと温かい二人の兄に挟まれて満足だ。

二人のことがとても愛おしいし、とても大切だと想う。

それが伝わっているからこそ、今こんなにもルイスは幸せなのだろう。


「昔、兄さんの体が温かいのはどうしてなのかと聞いたことがあります」

「へぇ」

「そのとき、兄さんが僕のことをすきで、僕が兄さんのことをすきだから、兄さんの体は温かいのだと教えてもらいました。だから、兄様もそうだと嬉しいなと思ったんです」

「…ほう」

「ふふ。そんなこともあったね」


はにかむように笑うルイスを見たアルバートは一瞬だけ垂れた瞳を丸くさせるが、すぐに優雅さを取り戻して艶やかに微笑んだ。

甘い瞳はルイスの言葉を肯定するようで、合わせてウィリアムの言葉をも肯定しているようだった。

何気ない過去を大事そうに振り返るルイスを抱きしめたウィリアムも、素直に過去の自分を認めている。


「そうだな、ウィリアムの言葉の通りだ。私がルイスを愛しているから、私の体は温かいんだろう」

「いえ、僕が兄様のことをだいすきだからです」

「ありがとう、ルイス」


綺麗に戯れ合う兄と弟を見て、ウィリアムはこの上ない幸せを感じている。

冷たいはずのルイスの体はもう随分とぽかぽかと温かい。

触れていて気持ちが良いなと、今日これからの一日がとても素晴らしい日になることを実感しては三人抱きしめ合っていた。




(ふふ、今日は良い一日になりそうです)

(今は急ぎの案件もないから、ゆっくり三人でお茶でも飲もうか)

(そうだな。天気も良いし、テラスでルイスの紅茶を楽しむのも良いだろう)

(お任せください。腕によりをかけてティーパーティの準備をしますね)

(頼んだよ、ルイス)

(久しぶりにルイスが作ったサンドイッチを食べたいね)

(分かりました、兄様!)