芭蕉は白色、青色、灰色的人間?
https://ranyokohama.amebaownd.com/posts/8719411 【シンボルカラー】
https://ranyokohama.amebaownd.com/posts/6552688 【黄色い花・9つのタイプのシンボルカラー】
https://ranyokohama.amebaownd.com/posts/6554212 【白と黒】
http://supoem.cool.coocan.jp/ikku3.htm 【Colour】より
ある詩人の全詩を検索し、使われている色を調べる研究が行われている。私が知っているのはアメリカの女流詩人エミリ・ディキンソンについての色の研究である。 彼女が多用した色は赤と紫であり、そのことだけからでも、彼女の詩の傾向、イメージがある程度、理解される(並木恵美Emily Dickinsonの詩に見られる色彩-「赤」を中心に-学習院大学文学部研究年報34輯)。宮沢賢治についても色の研究がなされている筈である。
芭蕉の句を検索すると、黄2、赤3、紫5、紅7、黒8、青11であるが、白は非常に多く、下の表のように合計23も使われている。白根、のような固有名詞は余り意味がないが、形容詞として使われているものの数は有意的であり、562の「石山の石より白し秋の風」という、風を白で表現する手法は非常にモダンである。芭蕉の特長である漂泊とは風まかせの旅を意味しており、風は無色、 もし色でいわねばならないとすれば白しかない。芭蕉は白という色が好きであり、表現手段としても 、それが多用されたのであろう。
現代の工業ザザイン的に考えると、白はクリアかつシンプルな色であり、清潔、さわやかな印象を与える。この白に少しかげりを与えると、さわやかさは減るが、ノーブルな、洗練された感じを与える、とされている(小林重順・カラ-イメ-ジスケール・講談社142頁以下)。
もっとも、年譜にあるように数年間、桃青、という俳号を用いていたことがあるから、青も好きな色だったのだろう。
白色と青色と灰色は兄弟に近い。日本語でも恐怖などで顔が白くなるのを「青ざめる」といったりする。すこしかげった白、すなわち灰色、グレーの鷺を真っ白な「白鷺」と区別するため「青鷺」と呼んだりする(「青鷺」は英語では灰色鷺Gray Heronという)。英語でもblue、white、grayは憂鬱な、という点では似た意味を持っている。間違いなく、芭蕉は白色、青色、灰色的人間だったのだろう。
俳句における白、青の系譜は現代俳句に連なっている。川名大によれば、白と青は斬新な感覚、詩情を象徴する色だとされる。青では三橋敏雄の「少年ありピカソの青のなかに病む」、白では日野草城の「ひと拗ねてものいはず白き薔薇となる」、高屋窓秋の「頭の中で白い夏野となっている」、高篤三の「白の秋シモオヌ・シモンと病む少女」が想起される(川名大・現代俳句上・ちくま学芸文庫228、232、257、344、345頁参照)。
因みに角川俳句平成17年4月号の特集「国民的俳句極め付きの三句」で30名の俳人が三句をあげているが、これには芭蕉の「海くれて鴨こゑほのかに白し」のほか、高浜虚子の「白牡丹といふといへども紅ほのか」、金子兜太の「人体冷えて東北白い花盛り」という「白」が登場する句が選ばれている。
芭蕉の「白」の俳句で有名なのは、202、791の白魚の句、前記213の「・・・鴨の声ほのかに白し」であろう。
参照までに、芭蕉が使った黒の句を下表にあげておく。791は白魚とその目の黒さを対比させている。
No 白 年齢
11 餅雪をしら糸となす柳哉 24
85 白炭やかの浦島が老の箱 34
126 藻にすだく白魚やとらば消ぬべき 38
135 夕顔の白く夜の後架に紙燭とりて 38
148 花にうき世我酒白く飯黒し 39
173 白芥子や時雨の花の咲きつらん 41
202 明ぼのやしら魚しろきこと一寸 41
213 海くれて鴨のこえほのかに白し 41
222 白菊よ白菊よ恥長髪よ長髪よ 41
231 梅白し昨日(きの)ふや鶴を盗れし 42
245 白げしにはねもぐ蝶の形見哉 42
256 月白き師走は子路が寝覚哉 42
483 鮎の子の白魚送る別かな 46
562 石山の石より白し秋の風 46
648 白髪ぬく枕の下やきりぎりす 47
735 葱(ねぶか)白く洗ひたてたるさむさ哉 48
738 水仙や白き障子のとも移リ 48
739 其におひ桃より白し水仙花 48
791 白魚や黒き目を明ク法(のり)の網 50
804 しら露もこぼさぬ萩のうねり哉 50
896 家はみな杖にしら髪の墓参 51
923 白菊の目にたてて見る塵もなし 51
932 ひとり尼わら家すげなし白つつじ 40-50
No 俳句 年齢
530 涼しさやほの三か月の羽黒山 46
148 花にうき世我酒白く飯黒し 39
218 黒森をなにといふともけさの雪 41
505 早苗にもわがいろ黒き日数哉 46
533 其玉や羽黒にかへす法(のり)の月 46
661 しぐるるや田のあらかぶの黒む程 47
791 白魚や黒き目を明ク法(のり)の網 50
795 鶴の毛の黒き衣や花の雲 50