共感と優しさ
Facebook・相田 公弘 さん投稿記事「泣いた赤鬼」
浜田廣介作の児童文学
山の中に、一人の赤鬼が住んでいました。赤鬼は、人間たちとも仲良くしたいと考えて、自分の家の前に、
「心のやさしい鬼のうちです。
どなたでもおいでください。
おいしいお菓子がございます。
お茶も沸かしてございます。」
と書いた、立て札を立てました。
けれども、人間は疑って、誰一人遊びにきませんでした。
赤鬼は悲しみ、信用してもらえないことをくやしがり、おしまいには腹を立てて、立て札を引き抜いてしまいました。そこへ、友達の青鬼が訪ねて来ました。
青鬼は、わけを聞いて、赤鬼のために次のようなことを考えてやりました。
青鬼が人間の村へ出かけて大暴れをする。そこへ赤鬼が出てきて、青鬼をこらしめる。
そうすれば、人間たちにも、赤鬼がやさしい鬼だということがわかるだろう、と言うのでした。
しかし、それでは青鬼にすまない、としぶる赤鬼を、青鬼は、無理やり引っ張って、村へ出かけて行きました。
計画は成功して、村の人たちは、安心して赤鬼のところへ遊びにくるようになりました。
毎日、毎日、村から山へ、三人、五人と連れ立って、出かけて来ました。
こうして、赤鬼には人間の友達ができました。赤鬼は、とても喜びました。しかし、日がたつにつれて、気になってくることがありました。それは、あの日から訪ねて来なくなった、青鬼のことでした。
ある日、赤鬼は、青鬼の家を訪ねてみました。青鬼の家は、戸が、かたく、しまっていました。
ふと、気がつくと、戸のわきには、貼り紙がしてありました。
そして、それに、何か、字が書かれていました。
「赤鬼くん、人間たちと仲良くして、楽しく暮らしてください。 もし、ぼくが、このまま君と付き合っていると、君も悪い鬼だと思われるかもしれません。 それで、ぼくは、旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません。 さようなら、体を大事にしてください。どこまでも君の友達、青鬼。」
赤鬼は、だまって、それを読みました。二度も三度も読みました。戸に手をかけて顔を押し付け、しくしくと、なみだを流して泣きました。
(以上 浜田 廣介氏)
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(ここより、安部浩之 創作)
雲の上から、その様子を見かねて現れたのは、鬼の大将である黒鬼でした。黒鬼は赤鬼のところに現れ、言いました。「どうして、そんなにいつまでも泣いているのか」
赤鬼は言いました。「僕は、人間の友達が欲しいばかりに、本当の友達を失ってしまったよ」そう言って、またしくしくと、なみだを流して泣くのでした。
黒鬼は「そうか、それなら、今から青鬼に会いに行くかい?」と言いました。
赤鬼は泣きながら言いました。「知ってるの?」
「知ってるよ、雲の上から、すべてを見ていたからね」
「会いたいよ、会いたいよ、どこにいるの」
「家の中さ」
「えっ、家の中?」
「そうさ、目の前の家の中にいる。青鬼だって行くところはないよ。この貼り紙をして、家でじっとしていればいいと青鬼は思ったんだよ」
赤鬼は、一瞬、苦しい顔をしました
「僕たちが仲良くなって、二人のお芝居がバレると人間の友だちがいなくなる。」そう思いました。でも今、本当の友達が一番大切なんだと
とにかく、僕の気持ちを伝えたいと、それが、今できる精一杯の、僕の優しさだとそう決意しました。
赤鬼は目の前の戸を叩きました。戸は閉ざされたままで、返事はありません。
それでも、赤鬼は泣きながら何度も何度も叩きました。
見かねた黒鬼が「出てこい!青鬼」その言葉のあと、実は、戸のそばにいた青鬼がゆっくりと戸を開けて出てきました。
青鬼は、驚くくらい、げっそりとやせていました。
赤鬼は青鬼の姿を見て、ただ、抱きついて「ありがとう、ごめんね・・・ ありがとう、ごめんね・・・」と繰り返すばかりでした。
青鬼は言いました。
「違うよ、違うよ、赤鬼くん、鬼はね、いつも人間をおどかすばかりで、鬼と人間は敵だったろう?だからね、人間と仲良くしたいという赤鬼くんの気持ちを、僕はスゴイと思ったんだ。だからね僕こそ、本当に「ありがとう」なんだ。」
次の日、赤鬼は、家の前に「心の、みにくい鬼のうちです。」という立て札を立てました。
それを見た人間は不思議に思い、逆に、いつになく多くの人が集まってしまいました。
赤鬼は集まってくれた人間に、隠すことなく正直に全てを話しました。
その話を聞いて人間は、しばらく黙り込んでいましたが、ついに、ある言葉が出ました。
「だましてたんだね」それから堰(せき)を切ったようにいろんな言葉が出ました。
「芝居を演じたズルい鬼」「立て札の通り、本当にみにくい鬼だ」「これまでの優しさも芝居だったのか」「青鬼がかわいそうだ」「いや、青鬼は馬鹿だ」「しょせん鬼は鬼だ」
赤鬼は、何も言えず、ただ「人間の友だちがいなくなる」そう思いました。
そう思うと、また、しくしくと涙を流すのでした。
しかしそれでも、人間の言葉が止まることはありませんでした。
その時、突風と共に、黒鬼があらわれました。
その力強く、荒々しくも見える姿に人間はたじろぎ、言葉を止めました。
その姿とは裏腹に、黒鬼の言葉はしなやかで・・・
そして、ひとり言のように人間に問いかけました。
「 青鬼は、友だちの願いを叶(かな)えるために犠牲になったよ、
やさしい鬼だ・・・
友だちが欲しくて寂しがり屋の赤鬼は、人間にあらん限りのふるまいをし
そして、青鬼のやさしさを知って、
あやまり、全てを打ち明けたよ、やさしい鬼だ・・・
でも、でも
一体、君たち「人間のやさしさ」、はどこにあるのだろう・・・? 」
「人間のやさしさ・・・?」
人間の誰もが、その言葉を心の中で繰り返しました。
・・・・・・・・沈黙が続きました。・・・・・
だれ一人、人間の口からは、言葉が出なかったのです。
むしろ、黒鬼の堂々たる姿と言葉に、不動の威厳を感じ、神々しささえ感じたのでした。
誰も黒鬼から目を離すことが出来ませんでしたが、
再び、突風が吹きすさび、チリが人の目を奪いました。
そして、黒鬼は突風と共に姿を消していました。
それから、数日後 赤鬼も青鬼も 山から姿を消してしまいました。
この過ぎ去った出来事はここに集った人間たち1人1人の心に、深く、深く、刻まれました。
その後も、この話題になると、意見は、まちまちでしたが、子どもも大人も自分の「やさしさ」を見つめようとする心はいつまでも変わることはなく、年を重ねました。
そして、事あるごとに人間は、「やさしさ」を大切にしたいと、赤鬼の家に集い、この出来事を友に伝え、子に伝えました。
そして、赤鬼の住んでいた家の前に書き換えられることがないよう石を刻んで立て札をつくりました。
そこには、こう書かれていました。
「心のやさしい鬼のうち いつでも帰っておいで」