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(1)「共感が自分を変え、やがて社会を変えていく」。エーザイ㈱ 知創部フェロー 高山 千弘さん

2021.02.05 07:31

企業の最前線をひた走る各界のビジネスリーダーたちが通う「WaLaの哲学」の世話人、エーザイ㈱の高山 千弘氏。超多忙な日々にあって後進を支援する思いを聞いた。全3回

PROFILE
高山 千弘さん エーザイ株式会社 執行役員 知創部 部長、現在ナレッジクリエーション・フェロー。医学博士 経営学修士。1982年東京大学薬学部卒業後、エーザイに入社。1992年海外へ留学、英国にてマンチェスター大学MBA(経営学修士)を取得。1994年米国勤務にて治療スタンダードとなる世界初のアルツハイマー病治療剤の臨床試験、FDA申請、承認を担当。1998年日本に帰国後、同治療薬の厚生労働省への申請、承認を統括する。責任者として、普及にとどまらず、アルツハイマー病などの認知症の社会的な疾患啓発活動と、受診・診断・治療・介護において認知症の人とご家族の支援を目的とするソーシャル・マーケティング活動を統括する。


悩みながら真摯に歩む後輩たちを支援する

 冬の日暮れは早い。18時半をまわればすっかり夜のとばりは下りていて、時間の経過と共に外気はいよいよ寒さを増していく。5期を迎えた社会人のためのアカデミア『WaLaの哲学』は、ちょうどその頃開校する。いつも誰よりも早く会場に到着し、朗らかな笑顔には疲労などみじんも感じさせずに現れるのが、エーザイ株式会社 知創部でナレッジクリエーション フェローを務めている高山 千弘さんである。

 知創部とは「社長直轄組織で、知識創造理論を社員全員で日常業務のなかで行いながらイノベーションを興していく部署」であり、エーザイは一企業として “知識創造理論” を徹底してやり抜き、企業活動の範囲も深さも拡大するに至った。“知識創造理論” とは、端的に言えば経営学者の野中郁次郎氏が提唱した組織的に知識を創り出す方法論のことであり、エーザイは“知識創造理論 ”を世界で導入した最初の企業なのだ。

 高山さんが多忙な身でありながら『WaLaの哲学』をサポートするのには、どうやらこの辺りにヒントがあると言えそうだ。


エーザイの “知識創造理論” と“ヒューマン・ヘルスケア”

 「今の資本主義というのが、いわゆる経済合理性だけを追求してきた結果として、人のことはどうでもいい、自分たちの企業が儲かればいい、というような流れに来てしまっていることをとても残念に思う」と、高山さんは警鐘を鳴らす。

 エーザイでは就業時間の1%を患者と過ごすことが従業員に「仕事」として課されていることを知っているだろうか。しかも、「ただ会って、“感銘を受けたな”、“かわいそうだな” などと言っているようではいけない。なぜなら、これはビジネスだから」。要するにビジネスであるからには、「患者様とのふれあいから受けた気づきや想いを現場の知として、患者様の希望が叶うためにどうしたらよいか?を日常業務に落とし込んでいく。それをまた、患者様へフィードバックしていく。ビジネスだからこそ、必死になってやる」。この基本的な考え方は、先に挙げた “知識創造理論” に基づいており、さらにエーザイの企業理念である “ヒューマン・ヘルスケア(hhc” に支えられている。


 東証一部上場の押しも押されもせぬ大手製薬企業であるエーザイであるが、社名に “製薬” とついてないことを、示されるまで気づかなかった。これは、「ヘルスケアビジネスをやっているから。患者様とご家族の喜怒哀楽に共感し、それを理解してベネフィット向上のためにビジネスを遂行する、これがヒューマン・ヘルスケアだ」とし、加えて定款には「利益を追求しない」とも明記されているのだという。「我々が追求する唯一のものは患者様満足、社会貢献であり、結果としての利益に過ぎない」。にわかには信じられない話が続き、面食らってしまうのだが、であればこそ先の、「経済合理性を追求する企業がほとんど」という発言にもうなずける。なぜなら、高山さんこそがこの一見しただけではおよそ信じがたい活動を、患者を起点に据えたソーシャル・イノベーションを、けん引してきたその人だからである。


現代資本主義の犠牲者たちへの “共感”

 「結局、資本主義のなかでそれを徹底するために制度やルールで縛り上げて、目的が利益を稼ぐことになると働く人たちは、 “個”が閉じるという状態に陥ってしまう。そこに合わせなくてはいけないから、会社に来るときも “資本主義に合う人間” になって来る。もちろん、パーソナリティーもそれに合わせたパーソナリティーをまとって来るわけだけど、こんな状態では格差に苦しむ人たちに共感することなどできるはずがない」と、ひと息に語る高山さんの眼光は否が応でも鋭くなる。なぜならこの “共感” が、自分を変え、ひいては社会を変える原動力になると考えているからだ。

(第2回へつづく)