ドブ川番外地
【概要】
人と人との繋がりが希薄になった現代に叩きつける、異様な迫力を持った青春映画『ドブ川番外地』は、当時22歳の新鋭・渡邉安悟監督の長編デビュー作。大阪芸術大学の卒業制作として制作され、度重なる困難を乗り越えて完成された大作だ。本作は、青春の痛みと疾走、そして希望を描いた映画でありながらも、学校はほとんど登場しない。絶望の中で言葉を失った青年・辰巳は、街を彷徨い歩いた果てに、浮浪者の土川やその仲間たちと出会い、彼らと共に生きることになる。世間の誰からも忘れ去られ、家をも持たぬ彼らは、地図に番号すら振られない「番外地」のような存在といえるだろう。
【あらすじ】
ついに家を飛び出した辰巳は、独り、夜の街を彷徨う。その果てに出会ったのは、かつては将棋棋士だった浮浪者・土川士郎とその仲間たちだった。大酒飲みで無軌道な乱暴者の土川は、なぜか周囲に対して辰巳を自分の息子だと偽り、以来、辰巳と土川の奇妙な生活が始まる。やがて、辰巳は徐々に笑顔を取り戻していく。しかし、実は土川には、棋士だった頃の隠された秘密があり・・・
【応援コメント】
黒沢清(映画監督) アチャラカなようで、ふと哀愁が漂い、コテコテのようで、妙にニヒリステックな、まことに複雑で油断のならない映画だ。渡邉監督がいたって静かで誠実な人物であるだけに、これは何かのワナなのかもしれない。
大森一樹(映画監督) 「ドブ川番外地」は、ダンテの「神曲」になぞらえるなら、引きこもりの若者が地獄に落ち、煉獄を経て天国に至る物語だと思った。膨大な数の登場人物が異境のロケーションで繰り広げる摩訶不思議な世界は、映像戯曲といってもいい渡邉安悟ワールドの全開だ。
諏訪敦彦(映画監督) 映画とはカーニバルだ。そこではあらゆるヒエラルキーは取り払われ、無礼で自由な人間が力を持つ。世界から追いやられていたものたちが蘇生し、血を吐き、火を放ち、ズブ濡れになって叫び、殴りながら手を繋ぎ、笑いながら泣く。死者さえも蘇るそのあべこべの世界(=映画)。そこでなら私も生きてゆけるかもしれない、と映画館の暗闇の中で救われた孤独な魂が、また新たなカーニバルを始めるだろう。
アダム・トレル(映画プロデューサー) 公開できるまでに時間がかかったけど2018年に初めて観た時に自分の年間の日本映画ベスト10に選んだ。そこから何年も経ってるけど未だにインパクトが残ってる。あんなに若い監督のデビュー作品で信じられない。かなりユニークな映画でめっちゃ面白い。
石黒正数(漫画家) 俺が求めていた邦画っていうのはこういうやつ! こういう、夢にうなされていたような幻想的な鬱屈。 テレビ屋が作ったタレントが主役のどうでもいい恋愛話じゃなくて、カラカラに乾いたキャンバスを表現欲求で切りつけたような映画こそ邦画が歩むべき道だと思う。
筒井武文(映画監督) 無口な主人公は、女性が川に飛び込んでも助けようとしない。この他者の拒絶。この現在の都会のジャングルでのロビンソン・クルーソーは、はぐれ者の共同体の奇妙な葬式にぶつかり、仮の父と出会う。渡邉安悟の『ドブ川番外地』の語り口は、原因と結果を宙吊りにしたまま、リアルとクリシェの間を彷徨う。泥棒を追いかけていながら、追い抜いてしまう!?場面がもたらす叫びと微笑みの解放感が、やがて死を抱え込んだ擬似親子の心の交歓へと繋がっていく。渡邉の資質は抒情にあると思うが、必死でその流出を押しとどめている。その一点が決壊するか否かを巡って、他に例を見ないサスペンスが生起する。この野蛮な繊細さは必見だと言っておく。
【受賞・上映歴】
ー劇場公開ー
池袋シネマ・ロサ 2021.7/10〜23 上映
名古屋シネマテーク 2021.8/28〜9/3 上映
シアターセブン 2021.9/19〜25 上映
神戸アートビレッジセンター 2021.11/20〜26 上映
ー国外ー
第27回レインダンス映画祭 新人監督コンペティション部門 ノミネート
カメラジャパン・フェスティバル2019 上映
Asian Pop-Up Cinema 2020 Season 11 オンライン上映
ー国内ー
カナザワ映画祭2018「期待の新人監督」入選
第4回湖畔の映画祭 長編コンペティション部門 入選
第19回TAMA NEW WAVE コンペティション ノミネート
福井映画祭12TH 長編部門 入選
第5回No Limit 映画祭 入選
第15回JCF学生映画祭 学生映画アワード部門 長編グランプリ
第5回新人監督映画祭 フォアキャスト部門 入選
第30回東京学生映画祭 東学祭コンペティション部門 入選
うえだ城下町映画祭 第17回自主制作映画コンテスト 入選
※「Third Window Films」選出日本映画ベストテン 第3位
【クレジット】
タイトル|ドブ川番外地
出演|北垣優和 藤田尚弘 笠野龍男 真弓 吉良雪花 石上亮 宮崎純平
ひと:みちゃん 上村いずみ 南野佳嗣 西出明 森谷泰子 渡邉安悟 南浦博
佐藤愛歌 中山幸太 中山幸哉 海道力也 田中慧 岩田徳承 松本優 新美啓之
渡邉由一 水俣俊博 小川祥璃 阿部周一 中西綾香 小林香穂理 島添眞輝
スタッフ|監督・編集:渡邉安悟 脚本:宮崎純平 渡邉安悟 撮影:中條航 照明:新甫悠祐 録音:浦川みさき 美術:宮崎純平 畠智哉
衣装:久木山ひかり 池本陽海 助監督:鳴瀬聖人 山田玄徳 制作:小川真穂 山田唯弦 音楽:前田佳佑 松石ゲル 整音:木村健太郎 浦川みさき 主題歌「また逢えたらいいな」作詞・作曲:艶歌シャンソニエ家元ひと:みちゃん 唄:ポポ 演奏総括:松石ゲル Vn.イシカワコボ Sax.中村智由(native)
2018/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/DCP/82min/英題:A Dobugawa Dream ©ASATO WATANABE