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Past2:大胆な行動

2021.02.08 07:00

軽くお団子結びをして武器庫へ行く。

何だかんだで武器が増えたので整理をしようと思うのだ。

といっても石の家の武器庫なので仲間のものもある。

使い古した物は溶かすなりして加工すればまた使えるだろう。

“ガウラ、ここに居たのか”

“おやサンクレッド。今日は早いんじゃないかい?

ナンパは失敗したのか?”

“誰がするか。

整理しているなら要らないものを外に出しておくが”

“あぁ、ならその山になっているのを出しておいてくれ”

“これか?随分多いな”

“使われないものは錆びるだけだからね。加工して提供すれば誰でも使い道を得れるだろう?”

ふーん、と言いながら荷物を軽く持ち上げ外に出しに行った。

静かな空間と金属の当たる音がまた心地よい。

グ・ラハに続きアリゼーも手合わせ手合わせと意気込んでいたから、ここしばらくは騒がしかったのだ。

“…母さん?”

“はぇ?”

“……あぁ、姉さんか”

“何をどう見間違えたんだい…”

サンクレッドと入れ違いになって入ってきたのは弟だった。

姉弟とは言われているが、記憶のない自分には何の実感のないものでもある。

まぁ、記憶がないならないで構わないとも思っているが…。

私を育ててくれたのは記憶の中ではばっちゃんのみだから、何もない私は彼女を母と思っている。

きっとそれは弟が良しとしないだろうが、記憶がないのだからどうしようもない。

“武器の整理をしていたのか”

“あぁそうだよ。お前も手伝ってくれるのかい?”

“そうだな…だが俺は武器の手入れをしに来たんだ。手伝うならその後だな”

“そうかい。手入れ道具は右から3番目の棚だよ”

“ありがとう”

だが彼も昔話はさほど口に出さない。

彼から教えてもらったのは、生まれとその地域の特殊な文化だけだった。

[白き花 咲き乱れる時 我らは消える]

普通の思考であれば、春の訪れとでも言えような内容ではある。

だがそうではなく、[花が咲く時期に転機が訪れ、その地域に住む誰かが居なくなる]らしい。

花の咲く時期は数年に1度とも言われれば、100年に1度とも言われている。

そして居なくなるというのもその時によって中身が異なるようで、神隠しとも言われれば自然災害での被害者を指せば、旅に出ることも対象だという。

私たちの場合は自然災害だった。

それも今までにない規模ということで、その白き花が咲く場所も焼け野原となり今は何も残っていない。

何故これほどの結果のものが上の者によって隠されているのかは分からないままだ。

“考え事のある時は、決まって物の整理をしているな”

“?”

“小さい時からそうだった。まるで自分の頭の中を整理するかのように、色んな物を整理していた”

“あまり自覚がないねぇ”

“癖なんだろうさ。だからかな、姉さんの通った道は何かと綺麗になっていた”

“それ、ただの掃除じゃないかい?”

“どうだろうな”

どうでもいい話をしながら武器を片付けていく。

弟の考えていることは不思議ばかりだ。

避けてるのかと思えばそうでもないらしく、まるでフレイと同じような態度を取っている。

“そういえば、何で私を母さんと?”

“…お団子結び”

“あー、さすがにちょっと邪魔だったのでね。

……私たちの母も、こうやって結んでいたのかい?”

“そうだな。そして理由も似ていたよ

‘家事をするにはちょっと邪魔だから’と、お団子結びをしていた”

“ふーん…”

“まぁ、最終的には‘切ればもっと楽なのでは’となったらしく、バッサリ切っていたが”

“それはいいな、私も切ろうかね”

“どちらでもいいと思うが”

“…短く切るとなると何時ぶりになるかね?

整えることはあったけど”

“あるのか?”

“あぁ、あるよ。

いいギルになった”

“はぁ!?”

冒険者となりウルダハまでたどり着いた頃、交通料を取るという、それは違反の話なのだが…そういう所に出くわしたことがあった。

当時はまだ多くのギルを抱えているわけでもなかったので、門前払いを受けたのだ。

だがどうもそこの人達は私の髪に目が行ったという。

白い髪というのは何にでも使えるが、珍しいものだと。

特に髪に思い入れもなかった私は、話を聞きその場でバッサリと切ってやった。

‘これで交通料が賄えるのであれば’

そんな唐突な行動に奴らはビックリしたようで、切った髪の束を受け取ったまま棒立ちしていた。

まさか髪を大事にするであろう女が…とでも言いたげな顔だった。

“まぁ、髪の代金は交通料以上の物だと言われて、私に多額のお釣りを投げつけて逃げていったけどね。

相手方も黒字になる程度のお釣りだとは思うよ”

“………”

“…ふふ、その顔その顔。

あいつらも今のヘリオと同じような顔をしていたよ!”

“呆れてるんだよこっちは”

“体を売ったのはその時だけさ。

モモディさんに事を話したら、‘相手は違反行為をしているから二度と同じことをするな’って怒られたし…そのあとは縁あって暁に紹介されたから、ギルには困らなくなったし。

無知とは怖いねぇ”

“二度とするな”

——

“……出だしが無知すぎるとは思わなかった…”

“大胆な人とは承知していたけど、俺もびっくりした…”

“リリンにはそこら辺しつけておくんだぞ”

“あ、あぁ…”

はぐれてから出会うまでの話はこちらもあまり聞かなかったが、まさか髪の束を売っていたとは。

だが彼女と冒険者をしていたという育ての者のことだ、冒険の知識は知らないはずがない。

教わらなかったのか、そもそも‘無知’ということが嘘なのか。

やはりあの一帯に住んでいた人間は俺を含めて不思議な連中ばかりだ。

——

“で、何で‘無知’と言った?

当時から目をつけていた俺が見ていた時は、まるで知っているかのように行動していたと思っていたが?”

“サンクレッドはやはり鋭いねぇ。

あぁ知っていたよ、あれが違反であることも、白い髪が高値で取引されていることも”

“なら何故”

“‘あれが互いに効率よく成敗できる’と踏んだからさ。

私は交通料以上の物を提供することでお釣りを貰い、黒字にする。相手は変な冒険者が来たことで警戒し、自分側も黒字になる程度の額を支払い立ち去る”

“……なぜウルダハの連中に相談しなかった”

“彼らも上層と下層で差別があったからね。外部の人間なら尚更、受け入れようとはしない。

いや、受け入れられたとしてそれに見合う差額を支払えないのが冒険者だ”

“だから自分で解決したと”

“いいや解決はしないさ。あれは一時の凌ぎ程度…違反者が止まらないのはサンクレッドも知っているだろう”

“そうだな、止めれないのが現状だろう”

だがウルダハも変わりつつある。

どうするかはウルダハの民次第だ。

そして目の前の彼女も今は不滅隊に所属している。

彼女自身が率先して変えることは絶対にないが、その金の瞳はずっと捉えているだろう。

ウルダハの行く末を、冒険者にも利がある世界を。