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日本人の美意識と音

2018.02.08 06:08

https://tsuizakimasahiro.com/furuikeya-basyo-wabi-sabi/ 【「日本人の美意識と音」】 より

☆はじめに

 8 月は台風で各地で豪雨、落雷がありました。9 月も同様、連続で台風が発生、土砂災害などの被害が続きました。読者皆様、諸先輩の皆様はいかがお過ごしですか、9月後半、10 月にはまだ夏日もあるそうです。季節の変わり目でもあります。どうぞ健康に留意してご自愛ください。

 さて、今回のスタジオ夜話は前号で予告しましたように取材先夏休みのため、番外編サウンドドラマ制作は次回に先送りしていただき前号に続き日本人と音についてのお話になります。「番外編~」は次号から再開いたします。

日本人の美意識「前述」

 前号では「龍安寺の石庭」などを題材に枯山水、水琴窟など、また作庭、建築など

を通してクリエイターが創る、Sensiblu な音、Impress な音についてお話しました。

 いずれにしてもその根源にあるものは日本人の美意識というものです。日本庭園の

作庭にあたってはその美意識の基本となるものが 4 基調あると上原敬二氏はその著書

の中で述べています。1)見え隠れ 2)わび・さび・渋さ 3)省略とゆとり 4)余韻と

余情また作庭に限らず、わび、さび、などは日本人の美意識を語るときの基本的概念

であることはすでにご存知のことと思います。今回は上原氏の 4 基調、をわび、さび、

粋、を理解しながらお話し、日本人の美意識を理解すること。そして音を聴くこと創

ることのお話をします。

日本人の美意識「わび」

 「小学館・日本大百科全書」によると「わび」とは貧粗、不足の中に心の充実を見出そう

とする意識から生まれた完全ならざるものの美を表現する美意識を言う。と表現されています。複雑怪奇な表現の文章です無理やり一言的に表現すればなんとなく理解もできますが実際に音を創る私たちには理解し難い表現です。そこで具体的に表現しているものを参考に考えてみましょう。前述にある 1)見え隠れを例にするならば「満月よりも雲間に見え隠れする月」は完全ならざるものの美「わび」といえます。茶人「千利休」は粗末な茶器を逸品といわれる茶器とともに粗末な茶室でふるまい、その対比のなかでの精神面を重要視しました。その美意識は「粗末で完全ならざるもののなかに本来の美」を意識したのです。

日本人の美意識「さび」

 「さび」とは閑寂ななかに、奥深いものや豊かなものがおのずと感じられる美しさを言う。とされています。これもかなり曖昧な表現です。閑寂枯淡(かんじゃくこたん)という言葉があるのですがこれが「さび」を表す言葉としては最適であると思います。ひっそりと寂しく枯れて俗気なく淡く派手なところのない美しさ。松尾芭蕉の俳句を参考にするとその具体性を実感できます。有名な俳句「古池や蛙飛び込む水の音」があります。この句の主役は私たちの世界「音」です。しかしその音はボッチャンでもなく、古池に飛び込む蛙の姿や背景でもありません。古池に飛び込んだ音その余韻とその後に訪れる静寂を的確に表現したものです。前述の 4)余韻と余情です。

日本人の美意識「音の世界」

松尾芭蕉の美意識から紐解く

 芭蕉の句には様々な音を題材にした作品があります。芭蕉の聞いた音の世界を「わび」や「さび」という美意識と重ね理解することが日本人の美意識「音の世界」を知る手がかりになると思います。芭蕉の詠んだ俳句のなかには「古池や蛙~」以外にも音にかかわる句が多くあります。いくつか代表的なものをご紹介しましょう。

☆「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」

 他に何の音もしない夏山寺、蝉の声だけが一筋しみ入るように聞こえてきます。諸説ありますが蝉は油蝉か桜蝉(ニイニイ蝉)その声の大きさは「閑かさ」とは無縁のものです。しかしそうした音もやがて無感覚になり意識が静寂のなかに取り込まれてゆくと再び蝉の声が戻ってくる、そうした無意識と意識との間を行き来する感覚を表現したもの。諸説、これが日が暮れ行く山寺となると蝉は蜩(ひぐらし)蝉(カナカナ蝉)、岩にしみ入る感覚も余韻をひく一匹の蜩蝉の声となり余韻と余情の表現となります。

☆「芭蕉野分して盥に雨を聞く夜哉」〈のわけ〉:秋の台風の古い呼び名。夜〈よ〉哉〈か

な〉:夜のさみしい様子

 庭の芭蕉(植物)が強い風で吹きちぎられ音を立てています。家の中の雨漏りをう

ける盥(タライ)には雨だれの音がポツリと聞こえます。芭蕉は植物の芭蕉と自分、

小屋の外を吹く強い風音、雨漏りを受ける盥の雨だれ音、様々な音を総じて聴くので

はなく様々な音の中から注意を集中して単一の音を聞き分け孤独寂寥を感じていたの

でしょう。

☆「蓑虫の音を聞きに来よ草の庵」

 この句は「聴閑」と題された作品です。静けさ「閑」を聴く、芭蕉はその独特の感性で音にならない音、極微弱な音までも意識して聴こうとするその意識が「閑」静けさをも音としてとらえられることを我々に伝えています。

日本人の美意識「後述」

 様々な環境の中で私たちは様々な音に囲まれて暮らしています。読者、諸先輩の方々はそうした中で「音創り」の仕事に携わっています。日本人の持つ独特の美意識、音に興味をもって様々に取り組み、作品創りをしている私たちはその意識の中に芭蕉と同じ感覚を同じ日本人として持っています日本人は本来これを理解できる美意識を持っているはずなのです。

☆次回は

 今回もスタジオ夜話番外編ではなく本来の夜話ということで「日本人の美意識と音」

というお話をしました。次回は番外編サウンドドラマ制作音源のお話に戻り、予定通り音源、管楽器(金管)を取り上げます。

音源楽器編もあと 2 回、その次は人声の収録を例にしてアレンジ、セッティングなど具体的なお話を予定しています。

ー 森田 雅行 ー