好敵手(1961)THE BEST OF ENEMIES
〈プレスより〉
スタッフ
製作……………………ディノ・デ・ラウレンティス
監督……………………ガイ・ハミルトン
原作……………………ルチアノ・ヴィンセンツォー二
劇化……………………アーゲ=スカルペリ、スーボ・チェッキ・ダミーコ
脚色……………………ジャック・パルマン
撮影……………………ジュゼッペ・ロトゥンノ
美術……………………マリオ・ガルブリア
音楽……………………ニノ・口ータ
編集……………………バート・ベイツ
台辞監督………………マヌエル・デル・カンポ
タイトル・デザイン…モーリス・ビンダー
動画……………………トレヴァ・ボンド
キャスト
リチャードスン少佐…デビッド・二ーヴェン
ブラジ大尉……………アルベルト・ソルディ
バーク大尉……………マイケル・ワイルディング
フォルナリ少佐………アメデオ・ナザーリ
ルーツ大尉……………ハリイ・アンドリュウス
ベルナスコーニ軍医…デビッド・オパトシュ
トディーニ軍曹………アルド・ジュフリ
解説
世界で最もユーモアを解する男はイギリス人で、最も興奮しやすい多血的な男はイタリア人だといわれている。
今次大戦、東アフリ力のアビシニア(エチオピア)戦線の緊迫みなぎる砂漠の最前線で交戦中の英・伊両軍部隊長が互いに敵視し、イギリス魂とイタリア魂をぶつけ合いながらも、次第に友情に結ばれて行く課程を描き、総てを破壊する戦争のなかにヒューマンな男の思いやりを感動的に盛り上げた異色の傑作である。
イタリアの小説家ルチアノ・ヴィンセンツォーニの傑作評判小説の映画化で、主演は「ナバロンの要塞」のデビッド・ニヴェン、「戦争」「青い海岸」のアルベルト・ソルディ。ニヴェンはゴルフのクラブを戦場にまで持込む、いかにも英国人らしい陸軍少佐を、またソルディは意地っ張りで、すぐ頭に来るイタリア人気質まる出しの大尉をそれぞれ好演。他に「六年目の疑惑」のマイケル・ワイルディング、「悪魔の弟子」のハリイ・アンドリュウス「恋はすばやく」のアメデオ・ナザーリ、「栄光への脱出」のデビッド・オパトシュ等、英・伊のベテランが顔を揃えている。
製作は「道」「全艦船を撃沈せよ」 や「アイ・ラブ、ユー・ラブ」や70ミリ「バラバ」等のイタリア映画界の鬼才ディノ・デ・ラウレンティイス。監督は「悪魔の弟子」のガイ・ハミルトンで味のある演出を見せ、脚本はジャック・パルマン。音楽は「太陽がいっぱい」のニノ・口ータ。撮影はイタリアの名手ジュゼッペ・ロトウンノである。
ディノ・デ・ラウレンティス・プ口 62年度作品。11巻。1時間44分。(原 題・好敵手)
梗概
一九四一年。アビシニア戦線のある朝。バーク大尉の操従する英軍偵察機が砂漠を飛んで来た。その時、彼は面白いものを見つけ、リチャードスン少佐を振り返った。「少佐、あそこにお供を連れたスパゲティ喰いの二足動物が一匹います。嚇してやりましょう」
灌木の梢すれすれに飛ぶ機上から乗り出すようにして、少佐はイタリア軍の将校にVサインを送った。地上のブラジ大尉は、この”攻撃”に腕を振り上げてどなった。「卑怯者め、降りて来て戦え!」
これが二人の最初の出会いだった。
当時、英・伊両軍はゴバにおいて激戦中だったが、戦局は英軍に優利で、イタリア軍は後退を始め、全軍を再編成すべく集結中だった。リチャードスンの偵察任務は敵徹退前のテガシオア砦の地点確認だったが初回の飛行では発見できず、敵の一人をからかっただけに終った。
その日、日没直前に、フォルナリ少佐の率いるイタリア軍部隊はテガシオア砦を後に、集結地エグア・ダバに向って出発した。ブラジ大尉は、再発したマラリアに悩まされながら目的地までの四昼夜を行軍するのかと思うと、うんざりした。
翌朝、小休止しているところへ、英軍の偵察機が飛来した。しかしエンジンに故障を起したのか、機は目の前に不時着、炎上した。リチャードスン少佐とバーク大尉は幸運にもたいした傷も負わなかったが当然の成行として捕虜となった。しかし、リチャードスン少佐は彼らの規律が乱れているのに軽蔑をおぼえ、ブラジ大尉の訊問をよそに、棒切れをひろってゴルフのクラブ代わりに振りまわしていた。大尉は腹を立てた。彼は英軍のボロ飛行機と、ダンケルクの敗北を持出して少佐をさげすんだ。
「ダンケルクの徹退は敗北ではない。あれを勝利と考えるのがわれわれ英国人の偉いところだ」
少佐は落ち着いたものだった。
その夜、英軍との小競合いがあって、フォルナリ少佐が戦死した。そのため指揮権はブラジ大尉に移った。部隊の責任を負う立場に立って、彼はできるだけ戦闘を避け、一刻も早く部隊を集結地に届けて任務を果したいと願った。それにしても二人の捕虜が足手まといだった。
考え抜いた挙句、彼らをそれとなく追い払おうとした。
ーー逃げ出せるようにお善立てをしさえすれば、後は二人がうまくやってくれるだろう。食糧も残り少く、疲れ切った自分達の様子を知れば、いくら英軍だって、わざわざこの惨めな部隊を追って来るような無駄な事はするまいーー
かつてシーザーが捕虜を逃がし、ローマの強大な事を伝えさせたという故事にならったこの計画を、大尉は親友のベルナスコーニ軍医に打ち明けた。
「シーザーはローマの強大な事を伝えさせたんだ。われわれとは立場が逆だ。だが無駄じゃないかも知れん」
厄介払いしたブラジ大尉はやっとエグア・ダバの砦へ部隊を送り届けた。いや送り届けたとい、っのは誤りだった。そこには人っ子一人いなかった。呆然としている時、銃声が轟いた。気がつくと、何時現われたのか、重装備の英軍が周囲の砂丘に、遠まきに砦を包囲していたのだった。彼らは降伏を勧告している。
歯ぎしりしたが、勝敗は火を見るより明 らかだ。ベルナスコー軍医に説得されてブラジ大尉は交渉に出かけた。ところが、愕然とした。英軍の指揮官はリチャードスン少佐だったのだ。大尉は怒りで前後の見さかいが無くなった。しかし少佐にしても、こうした情況を作り出すことには気が進まなかったのだが、司令官の命令には背けない。
期待を見事裏切られはしたものの、ブラジ大尉も賢かった。時を稼いで後方の森の中に姿を隠した。一ぱい喰ったリチャードスン少佐が後を追った時には、どこにも敵の姿はなかった。
少佐は、遠くへは行っていないと睨んでその夜は森で野営を張ることにした。 夜更け 突如、火事が起った。それは、イタリア軍について来た土民兵が部隊のマスコツトのカモシ力を殺して追い払われた腹いせに火をつけたのだった。
夜が明けて、さしもの大火も消え、沼の中ほどにある島の上には両軍の兵隊達があふれていた。リチャードスン少佐は全車輛を焼失したが、労せずしてブラジ大尉の部隊を捕虜にした。
それから何日か、乏しい食糧に悩まされながらリチャードスンは捕虜を連れ、基地に向って苦難の行軍を続けた。いつしか、双方の兵隊達は敵同志であることも忘れ、互いに友情を感じあっていた。リチャードスンにしても、ブラジにしても同じだった。軍服もボロボロになり、現住民のワナにかかって、今では銃はおろか、靴までも取られ、乞食の行列のようだった。
その時、突然、彼らは鋪装道路に出た。しかしそこの道路標識には、あろう事か”アジス・アベバまで10km”とある。イタリア軍占領地区だ。ブラジ達は狂気乱舞した。「戦いに勝つのは勇者ではない。最も用心深い者だ」
いい残して、大尉は意気揚々と立ち去った。
取り残されたイギリス軍は完全に意気喪失した。思えば、ブラジの部隊を捕虜にした時以来、神のいたづらか、時の運か、リチャードスン少佐の打つ手は裏目ばかりだった。
その時、エンジンの音を響かせてトラック部隊がやって来た。ところが、土手下へ身を伏せた一同の耳に懐しいイギリスの歌が聞えて来た。
アジス・アベバはすでに英軍の手に落ちていたのだった。それを知ったリチャードスンの顔に複雑な表情が浮かんだ。ーー可哀そうなブラジの奴ーー
アジス・アベバ駅では、イタリア軍の捕虜が続々と後方の収容所へ送り出されていた。今は身なりもキチンとしたリチャードスン少佐の隊もその作業に従事していた。
少佐はハッとした。しょげ返った”友”の姿を見たのだった。しかし、こういう再会の仕方に二人とも困惑した。少佐はブラジ達を元気づけてやりたかったその勇気と行動を賞賛こそすれ、軽蔑などしていない自分達の気持ちを何とかして伝えたい。そして軍人としての誇りをもう一度持たせてやりたかった。
「気をつけ!」
少佐は部下を整列させると、号令した。
「捧げ銃!」
まるで儀杖兵のように。イタリア兵は驚いた。が、やがてどの顔にも生気が甦って来た。ブラジ大尉の顔にも笑みが戻り、涙でクシャクシャになった。
貸車の上から大尉が大声でどなった
「チャオ!」
彼らはいつまでも手を振っていた。